第9話:(後編)聖域の休日と騎士の酒、エルフの意地
宴もたけなわ、テラスに漂う魔導古酒の香りが、三人のヒロインたちの理性を心地よく溶かし始めていた。
特に、騎士のプライドを賭けて飲み比べに挑んだカミラと、エルフの意地を見せたエルナの二人は、もはや「真っ赤な顔の美少女たち」へと成り果てている。
「はぁ……はぁ……。やるな、エルナ殿……。エルフの肝臓、恐るべし……」
「ふ、ふん……。騎士のくせに、飲みっぷりだけは……認めてあげるわ……。でも、リアムの隣に座るのは、私の……勝ち、よ……」
エルナは千鳥足でリアムの元へ歩み寄ると、そのまま彼の膝の上に「すとん」と腰を下ろした。
普段のツンデレはどこへやら、潤んだ瞳でリアムを見上げ、その首筋に顔を埋める。
「……リアム……。あんた、ずるいわよ……。こんなに、居心地のいい場所……作っちゃって……。私、もう……森になんて、帰りたく……ない……」
「え、エルナ? 急にどうしたんだい。顔がすごく赤いよ」
「うるさい……。これは、お酒のせいじゃないわ……。あんたが、私の耳……あんなに優しく、磨く(リフォームする)から……っ」
酔った勢いでデレが爆発したエルナは、リアムの胸板にすりすりと頭を擦りつける。
それを見て、黙っていられないのが正妻を自称する聖女セレスティアだった。
「ちょっと! エルナさん! リアム様の膝の上は、私の予約席ですわ! 聖女として、その不埒な行いは見過ごせません!」
セレスティアもまた、わずかなワインで上気した顔を膨らませ、反対側からリアムの腕をぎゅっと抱きしめる。
「リアム様、聞いてください。カミラさんなんて、さっきから『リアム殿の筋肉は、構造的に美しい』とか、職人みたいなことばかり言ってるんですのよ! 私の方が、もっと純粋に、リアム様の……その、優しい手が好きなのに!」
「セレスティア殿……聞き捨てならんな」
カミラがどっしりと、重い足取りでリアムの背後に回り込んだ。
彼女はリアムの肩にがっしりと手を置くと、兜を脱いだ素顔を耳元に寄せて囁く。
「私は……職人としてのリアム殿を尊敬しているのだ。だが、それ以上に……あの『洗浄リフォーム』の時の、あの……執拗なまでの指先の動き……。あれを思い出しては、夜も眠れんのだぞ……責任を取ってもらわねば……」
「「ええええええっ!? 洗浄リフォームで何をしたんですの(のよ)!?」」
セレスティアとエルナの叫びが重なり、リアムは三人に全方向から密着される形となった。
右に聖女の柔らかな感触、左にエルフの華奢な体温、そして背後には女騎士の力強い鼓動。
「あ、あの、みんな……。お酒のせいで少し興奮してるんだよ。一度離れて、酔い覚ましの水を飲もうか」
「「「 いやです・いやですわ・いやだ 」」」
三者三様の拒絶が、驚くほど綺麗に重なった。
彼女たちは、リアムが作ったこの「家」が大好きだった。
そして、この快適な環境を与えてくれた「主」のことが、自分たちでも制御できないほど、生活の一部として、愛着の対象として深く刻み込まれていたのだ。
「……リアム……。もう、増築なんて……しなくていいわよ……。私たちだけで……この部屋で、ずっと……」
エルナが甘い声で囁く。
「だめだよ。もっと住みやすくして、みんなを幸せにするのが僕の仕事なんだから」
リアムが困り顔で笑いながら、三人の頭を順番に、丁寧に撫でていく。
その職人らしい「公平な愛撫」に、ヒロインたちはふにゃふにゃと毒気を抜かれ、幸せそうな溜息を漏らしてリアムに身を委ねるのだった。
*
翌朝。
テラスのテーブルに突っ伏して眠っていた三人は、太陽の光と、キッチンから漂ってくる「しじみ汁(魔導抽出)」の香りで目を覚ました。
「……う、頭が……。私、昨夜は何を……」
「……思い出したくないわ……。リアムに……あんなこと、言ったなんて……」
「……うむ。騎士としての威厳が、リフォームされて消滅した気分だ……」
三人が顔を真っ赤にしてうなだれていると、リアムが人数分のスープを持って現れた。
「おはよう、みんな。特製の酔い覚ましスープだよ。これ、肝臓の浄化機能を一時的にリフォーム(活性化)してくれるから、すぐに楽になるよ」
三人は無言で、差し出された温かいスープを啜った。
体中に染み渡る優しさに、彼女たちは改めて痛感する。
この男からは、もう一生、逃げられない。
逃げる場所なんて、世界のどこにも存在しないのだと。
「よし! 休日も終わったことだし、今日からいよいよ『地下室の改修』を始めるよ。実はさっき、地下の通気口から甘い花の香りがしてきたんだ。……新しい住人が、待っているかもしれないね」
リアムの言葉に、三人のヒロインたちはスープを吹き出しそうになりながら、一斉に顔を見合わせた。
「「「ま、また増やす気ですの!?」」」
聖域化した領主館の騒がしい日常は、さらに加速していく。
Q:リアムの「リフォーム技術」は対人にも効くのか?
A: リアムのスキル【万全の住空間】は、実は住人の「体内環境」にも微弱ながら影響を与えます。彼が作った料理を食べ、彼が整えた部屋で寝ることで、ヒロインたちの自律神経は整い、美容と健康が極限まで高まっています。今回の酔い覚ましスープも、その応用です。




