引く手数多な彼女
「えー。今日からこの学校に転校してきた小鳥遊沙霧さんだ。皆仲良くしてやってくれ。じゃあ。小鳥遊さん自己紹介を」
「はい。皆さん初めまして。今日からこのクラスに入ることになりました。小鳥遊沙霧と言います。まだ慣れないこともたくさんあるかもしれないけど、皆と仲良くできたら嬉しいです!よろしくお願いします」
ワァー!!っと言う盛り上がりと共に大きな拍手が教室を瞬く間に支配し、沙霧は担任に指定された後ろの席へと向かい、その周りの生徒たちと軽い挨拶を交わす。
担任はそのまま朝のホームルームの続きを開始するが、僕はそれどころでは全くない。
いつのまにうちの学校への入学を済ませたんだ。とかなんで言わなかったんだ。父さんも関わってるのか。などあげればキリがないほどに気になることが多すぎる。
チラッと沙霧の方を見るといつ買ったのかもわからない新調されたブレザーを見に纏い、家や外出していた時とは異なる雰囲気に見惚れそうになるが、いやいや!と煩悩を振り払い、ひとまず後で色々と聞き出そうと心の中でそう決めた。
(よし。ちょっと聞き出しに行くか。)
朝のホームルームも終わり、1限までの休み時間を利用し、僕は沙霧に色々と今に至る事情を聞こうかと席を立とうとする。
っと。思っていたが、沙霧の席の方へといざ目を転じてみると彼女の周りには多くの生徒.......いや、大多数の男子と僅かな女子がぐるりと周りを囲み込むようにして話しかけており、とても僕が入り込めるような隙はないような状況だった。
女子たちは早々に友達になろう!っと積極的に動き出している子や趣味について色々と聞き出そうとする人がいる中、男子たちはどんな人がタイプかや学校のことでわからないことがあったら聞いてくれ!と言うような下りの気を引こうとしているのがバレバレな言動が目立つ。
(なんだよ......沙霧のやつ......)
僕は何故かその光景を目にして無性にイラッとするような感情に襲われ、立ちあがろうとした席に少し荒くまた座り込んでしまう。
(あぁ!!.......なんだよこれ。別に沙霧がああやって話しかけられようが僕には関係ないだろ......)
そうは思ってみるが、なんでか妙に気に入らない感じがし、そんなモヤモヤとした気持ちを抱えながら、今沙霧に聞きに行くのは得策ではないと判断し、そのまま机に顔を埋め、1限目が来るまでそうしていようと決心した。
そんなことがありながら、時間は一瞬にして流れていき、今はもう帰りのホームルームを迎えており、結局沙霧には何のアクションも起こさないままここまで来てしまった。
まだ転校初日なこともあるんだろうが、沙霧の人気は衰えるところを知らず、常にひっきりになしに人がついている状態でとても話しかけに行けるような雰囲気ではなかった。
(なんとか帰りは一緒になって、色々話を聞かないとな)
僕は下校の一緒に帰るタイミングで一連の経緯を尋ねることにし、早くホームルームが終わることを願いながら、担任の話を聞き、その話が終わるや否や朝のように先客が並ぶ前に沙霧に話しかけるため、ガタッと勢いよく席を立つ。
(よし。今度こそ.......)
そうやって意を決し、いざ沙霧の方に向かおうとする。
だが、それを遮るように近くの席にいた男子たち数人が沙霧を囲い、一緒に帰ろう云々というやり取りをしているのが目に入ってしまう。
(はぁ〜あ。やっぱりか.......大人しく一人で帰るか。)
なんだかその光景を目にしているとまた朝のあの心をぐしゃっとされるような嫌な感情が蘇るような気がし、僕はそれを避けるべく、早くに沙霧に話しかけることを諦め、進路を下駄箱へと変更する。
(沙霧の人気はほんとにすごいな.......特に男子からはアイドルかってぐらいずっと引っ張りだこだったもんな。それに沙霧も満更じゃなさそうだったし.......)
下駄箱につき、ローファーに履き替えるその間も囲まれながら談笑する沙霧のことがチラチラと思い出され、避けようとしていたあの感情に結局はぶち当たってしまう。
なぜこんなにも僕は沙霧のことでイライラとしているのかわからず仕舞いで困惑に襲われながら、転校初日で皆からの注目を浴びるのはごく普通で、あまり言いたくはないし、認めたくないが、男子が寄りつくのも納得の可愛さを秘めている点からして、当然なのかもしれないとなんとか言い訳のようなもので自分の気持ちを落ち着かせようとする。
(はぁ〜あ。家に帰って沙霧とまともに話ができるのかな......)
そうやって、またウジウジとした別の不安な気持ちが僕を覆い始めたその時、何やら後ろから猛スピードでこちらに走ってくるような足音が聞こえ、僕は即座にその音のする方へと目を転じる。
「ちょ!ちょっと待ってよ〜!!なんで先帰っちゃうわけ!何も言わずに!!」
するとそこには僕の悩みの根源となっていた女の子。
小鳥遊沙霧が息を荒げながら、僕の目の前に現れていたのだった。




