彼女との休日
(それにしても、あれからもう1週間経とうとしてるのか。)
僕は布団でゴロゴロとしながら、ふとそんなようなことを考える。
そう。明日の月曜を迎えると沙霧がうちに居候を始めてから1週間経つことになり、時の流れの早さを感じざるを得なかった、
そんな当の本人の沙霧はリビングでバラエティ番組を見ながら一人でキャッキャと騒いでおり、以前では考えられないような賑わしさが家全体を覆っている。
父さんへの説明の一件も僕が帰る頃には沙霧は大部分を説明し終わっており、それを聞いた父さんも快くうちにしばらく住むことを承諾し、当初の僕が想像していたものとは真逆の穏やかな沙霧の受け入れに拍子抜けしていた時ももはや懐かしいと思える日数を過ごしてしまっている。
そこからはまるで元々沙霧が家族として存在していたかのような自然さが僕の中に染み込んでしまい、それは父さんにとっても実の娘ができたような感覚でかなり可愛がっていることが伝わってくる。
「ねね!太一。今日終わったらまた学校始まっちゃうからさ。どこか二人で出かけない?」
テレビがまたつけっぱなしになっている状態で突然沙霧は僕にそう問いかけ、今からどこかに出かけないかという提案を与えてきた。
「今から?どうしたんだ急に。どこか行きたいところでもあるの?」
「うん。なんかさっき美味しそうなパフェみたいなのが映ってたんだけどね。私もそれで食べてみたくなっちゃったんだよね〜。ね!いいでしょ!!」
パフェか......僕はあんまりそういう店に行く機会はほとんどなかったが、沙霧は僕にその要求をせがみ、さらに最悪なことにこの1週間で僕の弱点も把握したらしく、最終手段としてあの一手を使ってくる。
「お願い......私とデート?したくないの?」
沙霧は必殺として習得した上目遣いと僕を意識させるような言葉でのコンボを決め、その術数に僕は完全にハマり、顔がみるみるうちに紅潮していくのがわかる。
「あはは!!嬉しいんだぁ〜。私とのデート」
「違うってば!全く沙霧は......」
(はぁ......いつまで経っても沙霧のこういう揶揄いには耐性がつかないな......)
「ねぇ!ほんとは太一も行きたくなってるんでしょ!!行こうよ!二人で!」
「あ〜!わかった!わかった!行くよ。行けばいいんでしょ?」
「そうかなくっちゃ!!じゃ!すぐに着替えてくるから太一も早く着替えてよー!」
段取りが決まり、大はしゃぎする沙霧はすぐに着替えの準備に取り掛かりはじめ、僕も渋々出かける準備を始める。
「覗かないでよ〜??」
「覗かないよ!いいから早く着替えて!」
「はいはい!」
(数会話に1回僕を揶揄わないと気が済まないのかな。僕もなんか対抗策とか編み出さないもんかなぁ.......)
僕は彼女に対抗する手段も考えねばと思いながら、着替え始め、沙霧の方も服を買っているわけではないのにいつのまにか違う服を毎度纏っているというなんとも不思議なことがある。
一度、そのことについて沙霧に聞いたことがあるけど、私実は色んな服持ってるんだよ!という返答でその服がどのぐらいあるとか何があるかまでは明かしたことはない。
(気になるけど、あんまり追及しすぎると何々?気になるの??私の服。って言ってまるで僕が沙霧の服に興味津々かのような揶揄いをしてくるから聞かないんだよなぁ。)
そうこう思っているうちに僕は着替えを済ませ、リビングに行くとタイミングを見計らったように沙霧も部屋から出てくる。
「ね!どうこれ!可愛い?」
くるっと回ったりしながら僕に自身の服装の確認を求め、茶色のオーバーサイズのタートルニットと縞々のショートパンツを履き、新鮮な沙霧の外着の服装に僕は胸を矢で射抜かれたように心臓が早まってしまう。
「ま、まあ。いいんじゃないの。ほら行くよ」
僕はそれに気づかれまいと急いで玄関の方へと向かい、靴を履きながら気持ちを落ち着かせる。
(あ〜!!なんで可愛いなんて思ってしまうんだ!!僕は!)
「ちょっと!!あんまり急がないでよー!!」
沙霧は後ろからそう文句を垂れながら、後を追うように僕のいる玄関へと急ぐ。
なんとか気持ちが表情に出てバレることはなかったと安心しながらもこれから一応仮のデートという行為に僕の心臓が耐えられるかどうかという不安に苛まれながら、沙霧が靴を履き終わるのを待ち、玄関を開けて目的地へと向かおうとしていた。
「あ!ここのパフェ美味しそうじゃん!ここで食べようよ」
「ここ?じゃあここにするか」
僕らは最寄駅から2駅ほど行った都心の方にあるデパートへと辿り着き、その中にある果物専門店のような店へと入ることになった。
それはいいのだが、沙霧はどうやら気づいていないらしいが、駅への徒歩とホーム、電車に乗ってからも沙霧への男女からの視線は凄まじく、まるでアイドルが乗ってきたのではないかというほどの熱気が無言ながらも車内からは感じられ、その側にいる僕にはなんであんな奴が横にいるんだ?という特に他の男からの痛い目線を浴び続けた。
「太一は何食べるの?」
「え?ああ。何にしようかな......」
そんなことは知らないとばかりに呑気に食べるパフェを決めた沙霧は僕にも何を頼むのかを聞き、僕は適当にイチゴのパフェを頼むことにする。
「はぁ〜。楽しみ〜!ね!太一のも美味しそうだったから後で私にも少しわけてよ!」
「まあ、いいけど」
そうやって談笑しながら少し経つとすぐにパフェが到着し、沙霧は目をキラキラと輝かせながら目の前に置かれたパフェを凝視する。
「そんなに楽しみだったの?パフェ食べるのが」
「そりゃもちろん!だってほぼそのためにきたんだし」
いただきま〜す!っと言いながら、アイスとチョコのパフェを頬張り、おいし〜い!!と独り言を呟きながら、また一口、また一口と次々に口の中へと放り込んでいく。
僕もそれに続いて注文していたイチゴのパフェを食べるが想像していたよりもよっぽど美味しく、手が勝手に動き出して口に運んでしまうほどに僕も魅了される。
「どお?太一のやつもおいしい??」
「ん?ああ。めちゃくちゃ美味いよ」
そう聞いてくる沙霧は何か物欲しそうな目をしてこちらを見つめており、僕は瞬時に何を要求しているのかを察知した。
「わかったよ。食べさせてやるから」
「やった!」
すると沙霧は自分の口元に指差しのジェスチャーをし、さらに僕に新たな要求をする。
「ん?何?まさか......僕に食べさせろってこと?」
「そうだよ!あ〜んっやつ。前も1回やったんじゃん」
「いや、やったことないし」
「ありゃ?そうだっけ??」
そうとぼける沙霧ははい!っと短いフレーズで僕にせがみ続け、僕はそれに抗うことすらほとんど叶わずに沙霧の要求を呑むことになった。
「はい.....あ.....あ〜ん.....こ....これでいい?」
「はい!よくできました!」
こんなに恥ずかしい思いをしたのは沙霧と出会ってからもそうそうなく、そこからまともに沙霧の方を向けずじまいに僕は俯きながら残りのパフェを食べ続けた。
(はぁ.....それにしてもこのパフェほんとに美味しいな......)




