おかえり
「ん.......もう朝か.......」
眩しい朝日の光とそれに共鳴するように鳴り響くスマホのアラームにより重い瞼を開き、また朝が来たことを確認する。
(しばらく心臓のドキドキが収まりきらなくて、中々寝付けなかったけど、いつのまにか寝ちゃってたな。)
少し寝不足気味の体の重さがありながらも、なんとか起き上がり、思いっきり背伸びをして体をほぐす。
そんな僕を尻目に沙霧の方はスピーッと静かに吐息を立てながら、ぐっすりと眠っている。
(全く。呑気に寝てるなぁ。まあ、起こすのも可哀想だし、ソッと抜け出すか。)
沙霧を起こさないようにと僕はベッドから音を立てずに抜け出し、部屋からも慎重に出ていき、起きた直後でしっかりと見ていなかった時間を確認するため、徐にスマホの画面へと目を落とす。
(えっと.....今の時間は.......ん??8時4分........)
「やばい!!!!!遅刻だ!!!!」
今から準備をして、登校したとしても、朝礼の8時30分に間に合う確率は極めて低いけど、僕は少しでも早く着くために朝食は取らずに懸命に着替えなどを進めていく。
(今から、本気でいけばもしかしたら、間に合うかもしれない!!)
僕は一縷の望みにかけ、乱れながらも身に纏った制服と鞄を持ちながら、急いで玄関を開け、慌ただしい1日をスタートさせることになった。
(あっぶねぇ〜!!ギリギリセーフ!!!)
なんとか朝礼の5分ほど前に正門に到着することができ、その分の疲れがどっと体にのしかかり、膝に手をつきながら、なんとか息継ぎで荒れた呼吸を整える。
(父さん、流石にそろそろ家に帰ってきてる時間だよな。結局どううまく説明するかってまとめきれなかったし)
一晩では最適解を見つけられなかった父さんへの説明は帰るまでにゆっくりと何を言うかをまとめることにし、ひとまず今はせっかく予鈴前に到着したことを無駄にしないために教室へと最後の走りを完走することを優先した。
「おい。大丈夫かよ太一。今日ずっと上の空だな」
「ん?そうか?別に普通だと思うけど.......」
「いやいや。確かにいつもボケッとはしてるけど、今日は一段とって感じだぞ?なんかあったのか?」
「別に。何にもないよ」
(まあ、何かあったと言えばあったんだけど、わざわざ彰人に言うのもな。)
最後の授業を終え、僕たちはそれぞれの掃除区域に繰り出し、同じ担当の彰人から突然そのように言われ、僕はなんとかして誤魔化そうとする。
父さんへの説明の優先順位や誤解のないような言葉を選ぶ作業で授業の内容はほとんど頭に入ってはこなかったが、ひとまずは父さんへの説明すべきことは僕の中でまとめることができていた。
「ふ〜ん。ま、お前が今大体何考えてるか、それなりにわかるけどな」
「は?だから何にもないって」
「太一は嘘つくとすぐ顔に出るからな〜。当ててやろうか?何考えてたか」
彰人はニヤニヤと笑って僕を見ながら、そう話し、僕の返事を待たぬまま空かさずにその答えを発表し始める。
「好きな女子のこと考えてたんだろ〜?」
「はぁ!?!?!?」
僕はその答えに戸惑いから大きな声を出してしまい、やっぱりじゃんか!!っと意気揚々とする彰人をなんとかかわそうと必死になる。
「誰!?誰!?太一の好きな女子!!」
「だから違うって!!そんなことより早く片付けて教室戻らないと!」
それっぽいことを言ってなんとか彰人の追撃をかわし、ようやく最後のホームルームも終わりを迎えて家への帰路へと辿り着くことができた。
(あ〜!絶対彰人に明日もいじられる.......沙霧が来てから何もかもが騒がしくなった気がするな。)
僕はため息をつきながらも予想よりも早く、家に着き、玄関前へと立ち止まる。
(父さんはもう帰ってきてるはずだ。どんなこと言われるんだろ........。)
僕はこの扉を開けたくないという気持ちを押し殺しながら、ガチャっと玄関を開け、ただいま〜っと恐る恐る告げる。
「あ!!おかえり〜!!」
「よう。太一。意外と帰るのが早かったな」
(あれ?......なんか想像してたのと違う。)
緊張が張り詰め、眉間に皺を寄せながら待っているであろうという予測とは真逆のほんわかとした沙霧と父さんの雰囲気に僕はただただ、ポカンとそこに立ち尽くすことしかできないでいた。




