助けなきゃ
(体育か.....ちょっと面倒だなぁ。)
僕はそうぼやきながら、体操服に着替え、先に着替え終わっていた彰人の下に向かい、そのまま二人で体育館へと直行した。
今日は男子はバスケで女子はドッジボールらしい。
周りの男子は多くがそのことに喜びなどを覚えているが、運動があまり得意でない僕にとっては早くこの時間が過ぎてくれと願うことが先行してしまっている。
女子の方は何故か今日はドッジボールということになっており、実態はほぼ遊びのような中身であり、ドッジボールの逃げることならピカイチな僕はそちらに行きたかったと羨望の念が突き上げる。
そんなことを思いながら、彰人と歩いていると、僕らより前に着替え終わって体育館へと向かう女子たちの群れがある。
(あ。沙霧もいるなって.......ん?あれ?なんかちょっと変だな?)
その群れのはずれに今僕を悩ませている張本人の沙霧の姿が見えたが、いつもとは少し様相が異なることに気がつく。
転校初日から女子たちともある程度の交流があり、喋り相手も数人できたと家で沙霧は話していたが、今の状況は側から見るとそれとは程遠く、女子たちからまるで避けられているかのように感じられる。
もしかしたら女子たちもお喋りに夢中で沙霧のことに気がついていないだけかもしれない。僕の思い過ごしかもしれないと一瞬は思ったが、よく見るとチラチラと一人になっている沙霧の方を見てはすぐに視線を戻しており、気づいていないという説は立証不可能となった。
(まさか、沙霧のやつ.......いじめみたいなのにあってるんじゃ.......)
僕の中で一つの大きな不安が渦巻く。沙霧がもしあまり社交的な性格じゃなければ出来上がったグループの輪に入れていないだけという可能性も考えられたが、沙霧の性格からそんなことはまずないだろう。
となるとあの雰囲気は間違いなく何かの嫌がらせではないかという結論に至ってしまう。
一体いつからそんなことになっていたんだ?家でもあの能天気で小悪魔的ないつもの沙霧で特段悩み事があったような様子もなかったことから僕にとっては青天の霹靂だった。
(なんで......何も言わなかったんだ。なんで僕はそれに気づかなかったんだ?)
僕は沙霧がそのことを打ち明けてくれなかったことへの疑問と同時に僕は彼女の事情を気づいてあげられなかった罪悪感に見舞われる。
(沙霧を助けなきゃ.......僕が家族の一員として.......家族として......)
しかし、こんな肝心な時に限ってツケが回ってきたかのように沙霧に対する気持ちの迷いが再び僕の心の地表へと湧き上がってしまう。
僕は今の状況の沙霧を助けたい。だけれど、その行動の背景にある根拠は一体なんなんだ?というもう一人の自分からの囁きのようなものが聞こえてくるようである。
それは沙霧が家族だから?それとも友達だから?
違う.....何かが違う.......。
そうやって、色々思い浮かびそうな関係を並べてみるが、まるでその一つ一つが鎖となって助けに行ってやりたいという僕の体を縛り続けているような感覚に陥る。
臆病者、意気地なしなどの罵倒を普段の僕なら今の自分に思ってしまうだろうが、それでも一向に体は動いてはくれない。
そうこうしているうちにすでに多くの生徒が体育館へと集合し、壁に設置されている時計を見てみると残り3分ほどで授業が始まろうとしている時間にまで差し掛かりながら、僕は未だに逡巡してしまっていた。
そして、僕の不安はそのすぐ後に起こるドッジボールにおいて現実化してしまうのであった。




