帰ろ!
「はぁ.....!はぁ......!もう。帰るなら私に声かけてよ」
かなり急いで走ってきたのか目の前の沙霧は息も絶え絶えとなっており、僕に追いついた今はなんとかその呼吸を整えようとしながら、僕が何も言わずに先に行ってしまったことに強い不満を露わにする。
「ご......ごめん。沙霧は他の人たちと取り込み中だったから僕は先に帰った方がいいかなって思ったんだけど」
「取り込み中じゃないよ。こっちだってあの男子たち振り払うの大変だったんだからね!太一も私の方見たかと思えばすぐに教室でちゃうし」
プクッーっと頬を膨らませながら怒りを滲ませる沙霧。
でも、僕はそんな彼女を見て、何故か妙な安心感や安堵感のような気持ちが心の中で溢れ出す。
さっきまでのモヤモヤとした感情がスーッと嘘のように綺麗に抜けていくような感覚。
なぜなんだろう。ただ、沙霧が僕の目の前にやってきたという。ただそれだけのことなのに.......
「ねえ!聞いてるの??」
「え?......ああ!うん。聞いてるよ」
「全くもう。で、転校初日からこんなに私を走らせた君は一体どんなお詫びをしてくれるのかな?」
僕がその心のつかえが取れるようなことに困惑しているとそんなことはいざ知らず沙霧は自分を置いていこうとした罰だと称して、お詫びを僕に要求し始める。
「お詫び?」
「そうだよ!ほんとにあの包囲解くの大変だったんだから。しかも、太一も足早に帰ろうとするから走って追いかけなきゃならなくなったんだし」
「わかったよ。じゃあ、帰りに何かスイーツかなんか買ってやるから」
スイーツという言葉を耳にした途端、沙霧の目はキラキラと輝きを放ち、先ほどの怒りをコロッと忘れ、僕の腕を引っ張りながら、早く買いに行こ!と催促をする。
(たく。しょうがないな.......)
そうやって、胸の内でため息をついてはみるが、不思議とその催促に嫌な気は一切ない。
(まさかとは思うけど.......ひょっとして僕は......)
僕はその理由が何か。ということに一つの答えが見え始めようとしている。
それは.......
「お〜い!何ボッ〜としてんの?早く行こ!どこのスイーツ奢ってくれるわけ?」
「ん?ああ。行こうか」
もう。今日は話しかける度毎回上の空じゃん!!っとまた文句を言いながらも、駅前のスイーツを食べさせてやるからと説明しながら、その不満を交わし、これは沙霧の揶揄いへのカウンターになるかもしれないと心の中でほくそ笑む。
(やっぱり、沙霧とのやり取りは楽しいな。きっとこれは家族みたいな気持ちから来てるものだよね。きっと.......)
僕の中に渦巻いていたモヤモヤとしたものが沙霧との会話の中でほぐれていったことで浮かんだ僕の中でのある感情。僕は一瞬それをある別の感情が瞬いたのではないかと勘違いをしていたが、それは錯覚でこれは単なる家族的な温かさから来たものだと自分の中で整理をつけてみる。
沙霧に対してまさか僕がそんな感情を抱くわけがないだろ........
と。この日まではそう思っていたが、まさかその僕なりの答えという名の牙城を一瞬にして崩してしまう出来事がすぐに起こるなんてこの時は到底思いもしなかった。




