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13-2

物思いに沈んでいるメルグウェンを暫く眺めていたジェノヴェファが言った。


「騎士殿に求婚されたが、断った」


メルグウェンはハッと顔を上げた。


「騎士殿ってルモンのことよね?」


「ああ」


「何故なの?」


「二人の利害が一致しなかったとでも言っておこうか」


メルグウェンは思わず立ち上がり、ジェノヴェファに向って叫んでいた。


「貴方はルモンを愛しているのではないの? いくらパドリックの命の恩人だからって、ルモンを傷付けたら私は許さない!」


ジェノヴェファは椅子に座ったままそんなメルグウェンを見ていたが、ふと厳しい顔をすると言った。


「これは騎士殿と私の問題だ。そして二人の間ではもう話はついているのだ。今更あんたがどうこう言ったからって変わらない」


メルグウェンは怯んだが、それでも言い募った。


「赤ちゃんがいるんでしょう? その子には父親が必要だとは思わないの?」


「父親はいる」


「でも一緒に暮らさないのでしょう? 家族とは言えないじゃない」


「あんたは人のことを心配する前に自分のことを考えたらどうだい?」


「え?」


「あんたの城主様だよ。さっさと捕まえとかないと、フラフラとどっかに行っちまうよ」


メルグウェンは真っ赤になった。


何だってこの女はそれを知っているのだろう?


「それこそ余計なお世話です!」


ジェノヴェファは笑いながら立ち上がった。


「これから先、辛いことがあっても絶対に挫けてはいけないよ。まあ、あんたの性格だったら大丈夫だろうけど。頑張りな、あんたは幸せになれるよ」


メルグウェンはジェノヴェファの手を取った。


「達者で良い子を産んでね」


「ああ。ルモンは年に一度私達に会いに来ると言っているから、あんたが奥方になったら一度一緒に来たらいい」


「そしたらもう一生会えないかも知れないわね」


二人は微笑み合った。


「未来は神のみぞ知るさ」




翌日、夜明けと共にジェノヴェファはルモンに付き添われて旅立って行った。


メルグウェンは塔に登り町を出て行く二人を見送った。


朝、広間でルモンと話したことが思い出された。


いつもどおりにベンチに座ってパンを齧っているルモンに尋ねたのだ。


「ルモン、貴方はこれで平気なの?」


ルモンはパンの固まりをゆっくりと咀嚼し飲み込むと、横に立っているメルグウェンを見た。


「……ええ。これから毎年夏が来るのが待ち遠しくなりますよ」


「何故一緒に行かないの?」


「私の居場所はワルローズにあります。いつの日にか、年老いて役立たずになったら森で暮らしますよ」


「でも、貴方は彼女を愛しているのでしょう?」


「はい。だけど姫がそんな顔をなさることはありませんよ。私は自分を不幸だと思っていませんから」


「本当?」


「ええ」


そう答えたルモンはどことなく悲しそうな目をしていたが、同時にさっぱりしたような顔だった。


メルグウェンは遠くに広がる海を見ながら深い溜息をついた。


「何をしている?」


急に後ろから声をかけられたメルグウェンは驚いて振り向いた。


ゆっくりと近づいてきて自分と並んで立ったガブリエルを見上げて言った。


「ルモンのことを考えていました」


「あいつは強情っぱりだ。送ったついでに向こうで一緒に暮らせと言ったのだが、耳をかそうとせぬ。せめて子が生まれるまで側にいてやれば良いものを」


「ルモンは自分は不幸ではないと言っていたけど」


「二人が一緒にいた方が幸せだったと思うか?」


「ええ」


ガブリエルは優しい目でメルグウェンを見下ろした。


「だったらおまえはそういう男を選べ」


メルグウェンは黙って頷くと、悲しげな顔をして海の方を向いた。


ガブリエルは何か言いたそうに、暫くメルグウェンを見つめていたが、開きかけた口を閉じ頭を振ると言った。


「暫く城を留守にする。戻ったら俺の話を聞いてくれるか?」


二人の視線が絡み合う。


明るい灰色の瞳に見つめられて、メルグウェンは自分の鼓動が早まるのを感じた。


「はい」


メルグウェンは、自分の心の中を見透かされるような気がして慌てて目を逸らした。


その話が自分にとって重要なことであると感じた。


ただ、それがはたして自分にとって喜ばしいことなのか、悲しむべきことなのかは分からなかった。


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