12-1
ワルローズの城に戻ったメルグウェンは、皆に心配をかけたことを謝り、助けに来てくれたことに感謝した。
クエノンから駆けつけて来たメリアデックを見てとても申し訳なく思ったし、アナとパドリックには二度と勝手にいなくならないことを誓わされた。
そして穏やかな以前の生活が戻ってきた。
ガブリエルは相変わらずメルグウェンを見かけるとからかった。
特に短くなったメルグウェンの髪をまるで案山子のようだと笑って、ポルの姉さんと呼んだので、メルグウェンはカンカンに怒って数日間ガブリエルと口を利こうとしなかった。
いつか遠出した時に、パドリックが領地の麦畑に立っていた案山子を愚鈍なポルと名付けたことがあったのだ。
ガブリエルはメルグウェンに対して、できるだけ以前と同じに接するように努力していた。
だがルモンから聞いた話が頭を離れず、ふと気がつくとメルグウェンの姿を目で追っていることがあった。
そうしてメルグウェンを見ていて気付いたことがある。
自分以外の相手だとメルグウェンは愛想良くいつも笑顔なのだ。
特にパドリックと一緒にいる時は本当に楽しそうで、二人を見ているだけで幸せな気持ちになった。
ガブリエルは思った。
あいつは俺にだけいつも不機嫌な態度を取る。
だからあいつが俺のことを好きだなんて気付く訳ないじゃないか。
またしてもメルグウェンを怒らし、走り去っていくその後姿を見送ったガブリエルの側にルモンが来た。
どうやら一部始終を見ていたらしい。
「どうしてもおまえの言うとおりだとは思えん」
ガブリエルがそう言うとルモンは苦笑いを浮かべた。
「ガブリエル殿がわざと姫を怒らせることばかり言われるからですよ。少しは優しい言葉をかけてあげなされば」
アナはメルグウェンの髪が短くなってしまったことを嘆いた。
「すぐまた伸びるわ」
メルグウェンは笑ってそう言ったが、アナは柔らかな布で作った頭巾をメルグウェンの頭に被せながら溜息をついた。
ガブリエルの婚約者もいなくなった今、アナはどうにかしてガブリエルがメルグウェンを気に入るように計らいたかったのだ。
それなのに、こんな男の子みたいな頭になってしまわれて。
だけど、ガブリエル様があの姫とご結婚なさらなくて本当によかったわ。
メルグウェンの笑顔を見て、アナは嬉しくなった。
ある日、部屋で針仕事をしながらアナはメルグウェンに尋ねた。
「どうして、いつもいつもガブリエル様に素っ気無い態度を取られるのですか?」
首飾りを作ろうと夏に浜辺で拾った貝殻に小さな穴をあけていたメルグウェンは、びっくりした顔を上げた。
「好きな人には優しくなさらないと、叶うものも叶いませんよ」
メルグウェンは真っ赤になった。
「な、何故アナは知っているの?!」
「毎日お側で見ていれば、それぐらい分かりますよ」
メルグウェンは貝殻が散らばるのも構わずに両手に顔を埋め、くぐもった小さな声で言った。
「アナ、誰にも言わないでね」
「ええ、言いませんとも」
それからアナの問いにメルグウェンは、頬を染めながらポツリポツリと答えたのだった。
ずっと自分の胸だけに閉じ込めていた想いを話すのは、照れくさいことだったが同時に嬉しいことでもあった。
修道院でマルゴーに出会うまで、女友達のいなかったメルグウェンは、友達同士で胸の中を打ち明け合うようなことは殆どなかったのだ。
メルグウェンは自分の恋が叶うとは思っていなかった。
顔を合わす度にガブリエルは相変わらず失礼なことばかり言ってくる。
私のことを案山子と呼ぶなんて、余程みっともないと思っているのだろう。
だけど助けに来てくれた時は嬉しかった。
森の中で雨に濡れながらガブリエルの腕に抱かれた時のことを思い、メルグウェンは顔を赤らめてほうっと溜息をついた。
城に戻ってきて欲しい言われた時のことを思い出すと、今でも顔が火照ってくるのだ。
だがメルグウェンはこの幸せな時は長続きしないことを知っていた。
ガブリエルはダレルカ姫とは結婚しなかったが、彼の親は別の花嫁候補をすぐに見つけてくるだろう。
その度にガブリエルの相手と喧嘩して縁談を壊すことなど、できる筈もないしするつもりもなかった。
それができるだけ遅くなりますようにとメルグウェンは祈った。
神々様、一生のお願いです。
もう少しだけ私をあの男の側にいさせてください。