11-10
夜が明けてきた。
男達は疲れた顔を見合わせた。
メルグウェンの行方はいっこうに分からず、手がかりとなる物も見つかっていない。
ガブリエルの近くにいたドグメールが言った。
「いったん城に戻り、町の者を集めて人数を増やし、もう一度出直した方が良いのではないですか?」
「そんなことをしている間に、あいつは危険な目に遭っているかも知れないだろう?」
叫ぶようにそう答えたガブリエルを宥めるようにルモンが言った。
「では、私がドグメールと城に戻り、人を集めてきます」
しかし二人がその場を離れる前に遠くから角笛の音が聞こえてきた。
物悲しげなその音は何度か繰り返されると余韻を残して消えた。
「あれはイアンだ!!あっちに向うぞ」
一行は角笛の聞こえた方角に馬を飛ばした。
湿っぽい秋の朝で夜が明けても辺りは薄暗く、空気がひんやりと冷たかった。
時間をおいて繰り返される角笛の響きを頼りに一行がパバーン達の所に辿り着くと、男達は慌ててガブリエルに駆け寄って来た。
「馬が見つかりました」
「馬を盗ろうとしていた奴らはあちらに捕らえてあります」
ガブリエルが顔色を変えたのを見て、パバーンが慌てて言った。
「姫はまだ見つかっていないのですが、盗賊どもは殺していないと言っています」
ガブリエルは馬を飛び降りると、背中合わせに縛られている二人の男にズカズカと近づき、剣を抜くと恐ろしい声で尋ねた。
「あいつをどうした?さっさと答えぬと斬り捨てるぞ!!」
男達はその剣幕に震え上がり、小便を漏らした。
そして歯を鳴らしながら泣き喚いた。
「わしらは馬が欲しかっただけで、誰も殺してはいない!!!」
「勘弁してくれ!!!その男の方がわしらの仲間を殺したんだ」
「こいつらの仲間と思われる男がここから少しばかり離れた場所で死んでいました」
ガブリエルはパバーンに言った。
「その場所に案内しろ。馬がないならそんなに遠くには行かれなかった筈だ」
濡れて黒ずんだ枯葉の上にうつ伏せに倒れている男をガブリエルは爪先でひっくり返した。
肩からわき腹にかけて斜めに斬られている。
既に血は流れていなかった。
側に男が使ったらしい大剣が転がっている。
見事な一撃だとガブリエルは思った。
だが、あいつはまた人を斬ったことを悔やんで泣いているのではないか?
ガブリエルは辺りを見回した。
「ここを中心に辺り一帯を探れ」
男達はメルグウェンを呼びながら辺りに散らばった。
ガブリエルは焦っていた。
あいつらはああ言っていたが本当なのだろうか?
メルグウェンは生きているのか?
怪我をしているのではないのか?
「メルグウェン姫、聞こえているなら返事をしろ!!助けに来たぞ!!!」
遠くで男達が同じように呼びかけている声がするだけで、返事はなかった。
木々の間を冷たい風が吹きぬけ、霧雨が降ってきた。
この寒い中、あいつはどこに行ってしまったのか?
ガブリエルは昨日の午後、ルモンに聞いたことを思った。
まだ完全に信じられない気持ちがあったが、もし本当だとすればメルグウェンはガブリエルが結婚すると思って身を引いたのだろう。
ガブリエルはダレルカと結婚するつもりだったが、それは彼女を愛していたからではなかった。
城主となったらできるだけ早く跡継ぎを儲けることが望ましい。
そして相手は精神と身体が健康であり、家柄の釣り合う家の娘でなければならなかった。
父親が熱心に薦めたマギュスの城主の娘はそれらの条件を満たしていたのだ。
ダレルカ自身は自分好みの魅力的な姫だと思ったし、少しばかり我侭そうだが城主の奥方として必要な気質を備えていると思えた。
結婚してから愛を育んでいけば良いと思っていた。
だがダレルカ姫と結婚することがあいつを失うことだと知っていたら、絶対に俺は承知しなかった。
メルグウェンにはいずれ良い縁談を見つけてやろうと思っていたが、もし自分の騎士達の中に気に入っている者がいるならば、その男と一緒にしてやっても良いと考えていた。
でもそれは、あいつが俺のことを好きだなんて思ってもみなかったからだ。
嫌われているとばかり思っていたのに。
俺はスクラエラを失った時の苦しみをまた味わらなければならないのか?
「メルグウェン、戻って来い!!!」
戻って来てくれ。
お願いだから。