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メルグウェン姫と騎士ガブリエルの物語  作者: 海乃野瑠
第11章 - ダレルカ
82/136

11-8

随分時間が経った気がした。


どうなったのだろう?


メルグウェンは強張った体を起こすと扉に近づいた。


その時、下から人声が近づいて来た。


呼びに来たのだわ。


メルグウェンは緊張した面持ちで扉を見つめた。


しかし、いくら待っても扉は開かれず、そのうち声も聞こえなくなった。


メルグウェンは扉に駆け寄った。


そっと開けて覗いてみるが、誰もいない。


メルグウェンは部屋を滑り出ると階段の方に歩いていった。


ガブリエルの書斎の前を通る時、その扉が完全に閉まっておらず、中から話し声が聞こえるのに気がついた。


立ち聞きするつもりはなかったので、その場を離れようとしたのだが、その時、自分の名前が聞こえて思わず耳を澄ませた。


中にいるのはどうやらルモンとガブリエルのようだった。


「メルグウェン姫から謝罪をすれば」


「もう遅い」


「でも、まだお考えが変わるかも知れませんし」


「いや、あれはもう駄目だ」


客達はどうしたのだろう?


もしかして帰ってしまったのだろうか?


ガブリエルの唸るような声がした。


「あの馬鹿。人の縁談をぶち壊しやがって!」


では結婚の話はなくなったのだ。


メルグウェンは思わず微笑みそうになったが、その後に聞こえた言葉に凍りついた。


「まったく、バザーンで会った時にさっさと斬り殺してりゃ、こんな面倒なことにならなかったものを!!」


「ガブリエル様!」


メルグウェンは部屋に駆け戻った。


心臓がドクンドクンと嫌な感じに鼓動している。


扉を閉めると床にガクリと膝をついた。


では、あの男はあの時私を殺していた方が良かったと思っているのね?


私はいない方がいいのね?


あの男に自分の存在を否定されることがこんなにも辛いなんて。


涙が後から後から溢れてくる。


嗚咽を漏らさないように唇を噛んだ。


やがてメルグウェンは涙の流れる顔を上げて天井を眺めた。


金髪の美しい姫の面影が浮かんだ。


この勝負、結局どちらが勝ったことになるのだろう?


メルグウェンは涙を掃うと立ち上がり、荷物から剣を取り出した。


あの男の愛していた妹の剣。


妹と同じように大事にされていると思っていた私が馬鹿だった。


メルグウェンは剣を鞘から抜くとゆっくりと切っ先を自分に向けた。




ガブリエルとルモンはメルグウェンが自分達の会話を聞いていたことに気付いていなかった。


ルモンは首を振って言った。


「そんなことを言われては、あまりにもメルグウェン様がお気の毒です」


「どこが気の毒なんだ?いくら腹の立つことを言われたからって、鼠の死骸を婚約祝いだと言って贈る奴だぞ」


「それは確かに褒められたことではないですが、姫はずっと苦しんでおられたのです」


「あいつはどこか悪いのか?確かにここの所あまり元気に見えなかったが。何の病だ?」


「恋の病です」


「…恋だと?」


「はい」


「相手は誰だ?おまえもモルガドだとか言わないよな?」


「モルガドですか?確かに騎士達の中にもメルグウェン様を妻にしたいという者は数人いますよ。ですが、姫が恋焦がれている相手が分かっていたので、誰も何も言わなかったのです」


「だからその相手は誰だ?」


「本当にお分かりにならないのですか?」


「ああ、分からない。俺は初めおまえのことではないかと思っていたのだが」


ルモンは溜息をついた。


「姫のことは好きですけど、そのような感情はありません。というか、なくなったのです。他の騎士達と同じ理由で」


「好きだったら競争すれば良いではないか。そんなに強力な相手なのか?」


「一番お似合いだと思いましたので」


「尋ねるのは3度目だぞ。そいつは誰だ?」


「貴方ですよ」


「…まさか」


ガブリエルは信じられないという顔をして呟いた。


「何故まさかなんです?」


「あいつは俺を嫌っているぞ」


「そんなことは絶対ないです」


「だが、いつも俺に突っかかってくるし。以前妻にしてやると言ったら、父親の選んだ老人の方がましだみたいなことを言っていたぞ」


「それはガブリエル様がいつも姫をおからかいになるからで」


「……」


ガブリエルは暫く頭を抱えて物思いに沈んでいた。


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