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翌日、念入りに化粧をされ、婚約式の衣装を着せられたメルグウェンは、自分の部屋で椅子に座り、呼ばれるのを待っていた。
部屋には、マリアニッグの他に侍女と召使が3人いる。
もう逃げ出すことはできない。
このままネヴェンテルと結婚させられてしまうのか。
ネヴェンテルの奥方となり、彼の子を産むのか?
それだけは絶対に嫌だ!!!
婚約はもうどうしようもないだろう。
しかし、結婚式までには後1年ある筈だ。
絶対に機会を見て逃げ出してやる。
それまでは大人しくして油断させるのだ。
婚約式は予定通りに聖堂で行われた。
祭司による拝礼の後、許婚の前に手を合わせ跪いたメルグウェンは、彼の接吻を額に受ける。
ルビーを散りばめた金の首飾りと金銀の糸で裏地一面に刺繍を施した黒いビロードのマントを贈り合った二人は、家族の祝福を受けた。
こうして、両家の契約は結ばれた。
大広間での食事の後、ダネールはネヴェンテルとメルグウェンに向かって話す。
「今日は両家にとって誠に喜ばしい日です。そして、両家の絆は1年後に確実なものとなります。娘がネヴェンテル殿の申し分のない奥方となるため、この1年間バザーンの修道院で花嫁修業をさせようと思っているのですが、ネヴェンテル殿のご意見を伺いたい」
「良妻賢母を育てるという評判の修道院ですな。話は聞いたことがあります。勿論異存はありません」
その夜、生まれてこのかた城を離れたことのないメルグウェンは、興奮して眠れなかった。
修道院での生活には不安があったが、それ以上にバザーンまでの旅が楽しみだった。
途中、霧が多く危険な沼地や盗賊の出る森を通らなければならないと聞いたのだが、冒険好きな少女は全然怖いと思わなかった。
ダネールは直ちにバザーンの修道院長に手紙を送り、娘を受け入れる旨の返事をもらった後、修道院への出発は2週間後に決まった。
準備は着々と進み、ダネールがメルグウェンを修道院に送っていくことが決まった。