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メルグウェン姫と騎士ガブリエルの物語  作者: 海乃野瑠
第10章 - パドリック
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10-3

「パドリック殿」


声をかけるとパドリックは不満そうな顔をしてメルグウェンの方を向いた。


「大人の邪魔をしていないで、こちらにいらっしゃい」


メルグウェンは、そっぽを向いたパドリックの手を取って引っ張った。


「何故貴方について行かなくてはならないの?」


「貴方の叔父上が仰ったことです」


ガブリエルの指示と聞いてパドリックは大人しくなった。


頬を膨らませてメルグウェンの後をついて来たパドリックだったが、メルグウェンが鷹匠のティリオウからミルディン2世を受け取ると目を輝かせた。


「これは貴方の鳥?」


「ミルディン2世っていうの」


メルグウェンは隼の羽をそっと撫でながら答えた。


「触ってもいい?」


メルグウェンは自分の頬を指差して言った。


「知らない動物に触れるのは、怪我をするからやめておいた方がいいわよ。今度世話の仕方を教えてあげるわ」


「隼に襲われたの?」


「いいえ、猫に引っ掻かれたの」


「お城に猫がいるの?」


「台所にね。でも私にも懐いていないから、明日にでも一緒に見に行きましょう」


「うん!」


パドリックは元気よく返事をするとメルグウェンを見上げた。


「昨日はごめんなさい」


「え?」


「どんなに醜い人でも、女性に容貌のことで文句を言ってはいけないと叔父上に叱られた」


メルグウェンはムッとした。


それではあの男は私のことを醜いと思っているのか。


そうよね。


あの男の好みは金髪で目が青くて胸が大きいあのベアトリズとか、どこかの宿屋の娘みたいな女ですものね。


眉を寄せて黙り込んだメルグウェンにパドリックがおずおずと尋ねた。


「その傷、治らないの?」


「…もう殆ど治っているのよ」


「傷がなかったらそんなに醜くないよ」


「それは、ありがとう」


子供の言うことを真に受けて落ち込むなど馬鹿げている。


メルグウェンは気を取り直すとパドリックに微笑んだ。


「じゃあ、私はお姫様だけど、悪い魔女に姿を変えられてしまったっていうのはどう?」


「そしたら王子様が助けに来てくれる筈だよね」


「王子様はいいから、パドリック殿が魔法を解く方法を見つけてくれないかしら?」


小さな腕を組み、暫く真面目に考え込んでいたパドリックは言った。


「分かった。僕が貴方を元の姿に戻す方法を探すよ」


家来に手伝ってもらい自分の馬にパドリックを乗せたメルグウェンはホッとしていた。


何とか仲良くなれそうだ。




木陰で一人休んでいたメルグウェンを見たメリアデックが近づいてきた。


メルグウェンは辺りを見回してパドリックを探すが、先程獲物の足跡を見せてくれると言った狩猟係について行ってまだ戻って来ていない。


仕方なくメルグウェンは立ち上がりメリアデックを迎えた。


「お疲れですか?」


「パドリック殿と一緒だったので」


「元気な子供ですね」


「そうですね」


暫く沈黙が続いた。


何か話さなくてはと思ったメルグウェンが尋ねる。


「今日の獲物は?」


「今日は勝利は他の方に譲ることにしました」


「……」


「メルグウェン姫、私にはもうこのようなことをお話しする権利はないのでしょうけど。少しだけ聞いてもらえますか?」


「…はい」


「ガブリエル殿からお聞きになったように、私は貴方を妻にしたかった」


メルグウェンは俯いて服についていた草を掃った。


「多分、始めてお目にかかった時から」


メリアデックの声があまりにも悲しげだったため、メルグウェンは思わず顔を上げた。


「…ごめんなさい」


「謝らないでください。私が勝手に貴方を好きになったのだから」


「でも、やっぱりごめんなさい。私、メリアデック様に幸せになって欲しかったんです」


「望みがないのは分かっています。この数ヶ月貴方のことを忘れようとしました。他の女性との結婚も考えました。でも、この気持ちだけはどうしようもなかった」


メルグウェンはガブリエルのことを思った。


メリアデックの気持ちが良く分かる。


望みがないのは知っている。


それでも自分の目が、心が、あの男の姿を追うのを止められない。


「貴方のことを想い続けることをお許しください」


メルグウェンはメリアデックの目を見つめて首を振った。


「それはなりません」


「何故ですか?ご迷惑になるようなことは誓ってしません」


「分かっています。メリアデック様は私を困らせるようなことはなさらないと。でも貴方は早くご結婚なさって跡継ぎを儲けられなくては」


「無理です」


メルグウェンは追い詰められた気持ちになった。


私は自分が嫌だったことを彼にさせようとしている。


私も好きな人と一緒になれないなら、一生独りでいる方がましだと思った。


でも、それは完全に諦め切れていないからではないのか?


もし本当に望みがないなら…


不幸になるのは私一人でいいのではないかしら?


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