1-6
城に戻ったメルグウェンは、父の部屋に向かう。
あんな子供に頼った自分が馬鹿だったわ。
頼れるのは自分自身だけ。
「父上にお話があります。ネヴェンテル様との結婚を取り消してください」
「今更何を言うのだ。既に決まったことだ」
「私は結婚したくありません」
「ネヴェンテルとダネールの繋がりは、両家のために絶対不可欠なのだ」
「私は嫌です」
「おまえに拒否権はない。生まれた時からそう決まっていたのだから」
ダネールは話は終わりだとばかりに娘に扉を示す。
部屋から出て行く時に、父がすれ違いに部屋に入った召使に娘が逃げ出さないようよく見張っている様に言い付けるのを聞いた。
自分の見方になってくれそうな人は本当に誰もいないのか。
メルグウェンは弟の部屋に行った。
「マルカリード、話があります。私に力を貸してほしいのです」
姉から初めてその様に助けを求めれたマルカリードは驚いている。
「何でしょうか、姉上?」
「私はネヴェンテル様と結婚したくないのです。あなたから父上に話してもらえれば」
しかし、マルカリードは顔を顰めて、姉の言葉を遮った。
「姉上をお手伝いしたいが、それだけはどうにもなりません。家はネヴェンテルの兵力が必要なんです」
父は跡継ぎの息子には、ネヴェンテルとの繋がりの必要性を説明していた。
マルカリードがメルグウェンに話したのは、ネヴェンテルはいつでも使える兵を百人も持っているということだった。
この地方では裕福なうちに入るダネールの城と隣のオルカン城の間では代々領地争いが絶えなかった。
ダネールの城には、オルカン城同様に十数名の騎士しかいない。
自分の娘と兵力を持つネヴェン城の城主との結婚の約束で、ダネールは自分の城を守ったのだ。
百人もの兵を食べさせるのは金がかかる。
金はダネールが娘の持参金として出すということになっていた。
ダネールは悩んでいた。
確かに今まで娘にあまり手をかけてやらなかったと思う。
戦略結婚の駒として見ていたこともあるが、それよりも彼女は似すぎていたのだ。
自分の妻の若かった頃に。
特に笑顔がそっくりだった。
けれども、メルグウェンの男勝りな性格は、母親から受け継いだものではなかった。
もしも妻が娘の様な強い性格だったらという思いを消すことができず、活発な娘を見ることが耐えられなかった。
メルグウェンはネヴェンテルと結婚したくないと言った。
明日の婚約式は何とかなるだろう。
しかし、その後は?
結婚を早めたほうがよいのか?
無理やりに結婚させたら、あの娘はどうするのだろう?
大人しくネヴェンテルの妻の座に納まるとは到底思えなかった。
娘の反応を恐れている自分に気付き、ダネールは椅子から立ち上がり、部屋の中をイライラと歩き回る。