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それから毎日、メルグウェンは城を抜け出す機会を窺っていた。
夏至の祭りの前に何とかリグワルに会わなければならない。
しかし、叔母マリアニッグの監視の目は厳しく、気づかれずに城を抜け出すことは無理だった。
そして毎晩、今日も駄目だったとがっかりしながらベッドに入り、夏至までの日にちを数え、ため息をつくのだった。
とうとう夏至の祭りの前日になった。
五月祭の時のように数日前から準備で城内はおおわらわである。
昼食後、ラウドで新しい曲を練習していたメルグウェンは焦っていた。
明日はネヴェンテルと婚約しなければならない。
今日、脱出できなければもう望みはない。
マリアニッグにしかわからないことがあったようで、侍女が聞きに来た。
練習を続けるようにと言った後、呼びに来た侍女と一緒に叔母が部屋を出て行くのを見て、メルグウェンは今しかないと思った。
着替えている時間はない。
礼拝用の黒いショールを衣装箪笥から出し頭から被ると、メルグウェンは準備していた包みを腰に巻き、部屋を抜け出した。
リグワルは急に消えてしまった少女に腹を立てていた。
彼は少女が城内に住んでいることを知っていたが、少女の正体は知らなかった。
城で働いている知り合いに尋ねたが、グウェンという名の召使の子供はいないと言う。
本当の名前ではないかも知れないと思ったが、どうにも調べようがない。
そのうち、もうグウェンは死んでしまったのかも知れないと思うようになった。
その日、他の少年達と祭りの夜のため薪を積んでいるリグワルのところにショールを被った女が近づいた。
リグワルは女の顔を見て驚いて声を出す。
「お、おまえ!!!死んじまったんじゃねえのか?!」
「馬鹿なこと言っていないで、着いてきて頂戴」
聖堂の裏にリグワルを引っ張って行ったメルグウェンは早口で状況を説明した。
少女が城主の娘と知ってびっくり仰天している少年を見上げて自分の希望を伝える。
「あなたに私と一緒に逃げてほしいの。新年のお祝いに父からもらったお金と母の宝石を持ってきたから、直ぐに食べることには困らないわ」
リグワルはこの少女に惹かれていた。
前よりも背が伸び、体つきも女らしくなっている少女を見て考える。
しかし、メルグウェンより一つ年上とはいえ、城下町のガキ大将でしかない少年にそのような重大な決心をすることは不可能だった。
万が一逃げ切れなかったら?
捕らえられたら、城主の娘を攫ったとして罰を受けるのは自分である。
グウェンの金と宝石を持っていたら、その上泥棒の罪まで被ることになるだろう。
リグワルはまだ死にたくはなかった。
「今は一緒に逃げるのは無理だ。だけど、後何年かして俺が大人になったら絶対に助け出してやるから」
「今じゃなきゃ駄目なの。明日にはもう手遅れなのよ」
「今は一緒に行けない」
メルグウェンは絶望的な気持ちで、自分から目を逸らし俯く少年を見つめた。
「わかったわ。さようなら」