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メルグウェン姫と騎士ガブリエルの物語  作者: 海乃野瑠
第8章 - ワルローズ城
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8-4

それから暫くの間、食事の時間以外にメルグウェンはガブリエルの姿を見ることはなかった。


食事の時も意識してガブリエルの方を見ないようにしていたため、ずっと口を利いていない。


メルグウェンは昼間は殆どの時間をアナと過ごし、カドーとマロと剣術の稽古をする時だけ外に出ていた。


ルモンとイアンも騎士達と忙しそうにしていて殆ど会うことはなかった。


その日の午後、メルグウェンがいつものとおり剣術の稽古に行くと、カドーとマロの他にガブリエルがモルガドと話していた。


メルグウェンが挨拶すると頷いたガブリエルは言った。


「カドー達の相手ばかりじゃ腕が鈍るだろ。今日はこいつらはモルガドに任せて、俺がおまえの稽古を見てやる」


メルグウェンは黙ったまま頷いた。


稽古用の剣を取り向かい合う。


メルグウェンは口元を引き締めるとガブリエルの目を見据えてかかって行った。


打ち合いながらガブリエルはメルグウェンに聞いた。


「何か気に食わないことがあるならはっきり言ったらどうだ?」


貴方があの女と親しいのが気に入らないなどと言える訳がない。


それにメルグウェンは自分でも何故そのことが気になるのか分からなかった。


「誰かがおまえに無礼な態度をとったのか?」


「…いいえ」


「体の具合が悪いのか?」


「いいえ」


「じゃあ何だ?」


「……」


ガブリエルがメルグウェンの剣を跳ね除け、メルグウェンの胸元に切っ先を突きつけた。


メルグウェンは唇を噛み締めると俯く。


「家が恋しいのか?」


「……」


家ではない。


前の城が恋しかった。


皆で家族のように暮らしていたあの小さな城が。


新しい城では自分以外は皆忙しくしていて、メルグウェンは取り残されたように感じて寂しかったのだ。


メルグウェンは涙が溢れそうな気がして慌ててギュッと目を閉じた。


ガブリエルは剣を下ろしてそんなメルグウェンをじっと見ていたが、ふと悪戯っぽい笑みを漏らすと言った。


「俺がかまってやらないから拗ねていたのか?」


「…そんな訳ないでしょ!!!」


真っ赤になって叫ぶメルグウェンを見てガブリエルは笑った。


「大丈夫そうだな」


その日からガブリエルはメルグウェンの姿を見かけると、わざわざ側に来て以前の様にからかうようになった。


かまってもらえないから拗ねていると思われるのは癪に障ったし、からかうためだけに自分に話しかけるガブリエルにも腹が立った。


その度にメルグウェンは顔を火照らせて怒ったが、いつしか声をかけられるのを待っている自分がいることに気付き愕然とした。


まるで本当にかまってもらえないから怒っていたみたいじゃないの。


からかわれるのに馴れてどうかしてしまったんだわ。




ガブリエルはメルグウェンの様子を見て安心した。


ワルローズに引っ越してきた時には塞ぎこんでいて心配したが、新しい環境に慣れるまで時間が必要だったのだろう。


ガブリエルは城主となってから城と領地について色々知らなければならないことも多く、ワレックが執事に任せていたような事柄も自分で確認しようとしたため一時期は寝る間もない程の忙しさだった。


そのためメルグウェンのことをきちんと見てやることができずに気にかかっていたのだが、どうやら大丈夫のようだ。


あいつは怒らせると元気になる。


食事の後、自分の部屋に戻りながらガブリエルは思い出し笑いをした。


もう少し落ち着いたら狩に連れて行ってやろう。


ワルローズの領地には2つの港の他に森や畑があり、小麦や大麦、カラス麦の畑の近くには村が点々とあった。


一番近い隣人はグルロエスだったが、その領地はワルローズから半日の距離にある。


グルロエス亡き後、息子のメリアデックが跡を継いでいた。


ガブリエルに牢から出してもらったメリアデックは、領地争いの元となっていた土地をガブリエルに譲り渡し、今後一切ワルローズに刃向かわないことを誓った。


真面目で正義感の強そうなその若い城主をガブリエルは気に入り、そのうち自分の城に招き騎士達と一緒に狩猟を楽しむことを約束していた。


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