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メルグウェン姫と騎士ガブリエルの物語  作者: 海乃野瑠
第8章 - ワルローズ城
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8-1

その日、キリルの城に呼ばれていたルモンは、キリル親子と共にガブリエルからの知らせを待っていた。


ガブリエルのことだから絶対上手くいくと信じているルモンだったが、期日が近づくにつれやはり多少不安になるのは避けられなかった。


特に城ではメルグウェンとイアンが数日前からソワソワして落ち着きがなく、二人を安心させるのに疲れたルモンは朝早くから城を出たのであった。


キリルは自分からガブリエルを援助するつもりはなかったが、万が一に備えて数十人の兵をいつでも出動できるように待機させていた。


「ルモン、一緒に遊ぼう」


中庭に出たルモンにジョスリンの息子のパドリックが纏わりつく。


金色の頭にふっくらした桃色の頬、青みがかった灰色の大きな目をした大層美しい子供だった。


だが容貌だけではなく性格まで叔父に似ているパドリックは、両親と祖父母にとって頭痛の種だった。


思いつく悪戯は後を絶えず、その上まだ幼い妹まで兄の真似をするため、二人の子守と母親のアゼノールは毎晩子供達が寝るまで一時も休む暇がない。


パドリックは叔父とその騎士達が大のお気に入りで、ルモンが来ると聞いて昨日から首を長くして待っていたのだ。


ルモンはガブリエルの幼い頃を見ているようで可笑しかったのだが、毎日一緒にいる訳ではないので親の苦労は良く分かる。


パドリックはルモンの手を引いて裏庭に連れて行った。


新しく作ってもらったキルー・コーズを見せたかったのだ。


「凄いでしょ。もうアエラと母上と遊んで僕が勝ったんだよ」


「パドリック様はお強い」


「僕が始めるね」


パドリックは木のボールを手にすると、9本の高さの違うピンに向って投げた。


初めの4回は横に逸れ、最後のボールはピンを超え庭の隅に転がっていった。


「ちょっと手が滑っちゃった。今度はルモンの番」


ルモンは初めのボールで他のピンには触れずに一番高いピンを倒す。


パドリックは悔しそうに小さな足で地団太を踏んでいる。


結局勝つまで続けると言い張るパドリックに昼まで付き合わされたルモンは、食事だと呼びに来たアゼノールに救われた。


だがパドリックのお蔭でガブリエルのことを考える暇もなかったのだから有難いと思わねばとルモンは考えた。




「キリル様、ワルローズから使者が来ました!!」


家来と共に居間に入って来た少年を見てキリルは思わず立ち上がった。


赤みがかったクシャクシャの髪に緑色の目をした痩せっぽちの少年は、ドグメールの小姓のマロである。


初めての大役に非常に緊張しているようだ。


「それで?」


マロは何度か口をパクパクさせ話そうとしたが声が出せず、震える手でキリルに手紙を差し出した。


手紙を広げさっと目を通したキリルは、家来に言ってジョスリンとルモンを呼びに行かせる。


初めにジョスリン、その直ぐ後にルモンが息せき切って部屋に駆け込んで来た。


ルモンの後ろにはパドリックがくっついている。


厳しい顔をしているキリルを三人は食い入る様に見つめた。


キリルは皆を見回し、ふと微笑んで言った。


「ワルローズの新しい城主から手紙が来た」


暫しの沈黙の後、ジョスリンとルモンは歓声を上げる。


何が起こっているのかさっぱり分からないパドリックも両手を上げ、皆の真似をしてわぁいと大きな声を出した。


キリルがガブリエルの手紙を皆に読んで聞かせた。


ルモンが呆れたように言った。


「自分は直ぐには戻れないから引越しの準備は任せるって、城主になられてもせっかちな性格は相変わらずですね」


「負傷者を殆ど出さずにワルローズの城を落したとは、さすがガビックだ」


ジョスリンは嬉しそうに笑った。


そして足元で自分を見上げている息子を抱き上げて言った。


「おまえの叔父上は大きな城の城主様になられたぞ。今度遊びに行こうな」


「わーい!!僕、叔父上の小姓になるんだ」


ルモンはキリルとジョスリンに暇を告げた。


城で首を長くして待っている二人に一刻も早くこの良い知らせを伝えたかった。


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