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7-6

翌日からルモンは起き上がり一人で馬に乗れると言い張ったため、ガブリエルは渋々ながら承諾した。


確かに今の速度だと予定よりかなり遅く城に着くことになってしまう。


ガブリエル達は一刻も早く城に戻り、ワルローズの内乱を治めるための戦略を練りたかったのだ。


ルモンの包帯を替えながらメルグウェンはガブリエルに尋ねた。


「とても良く効くみたいだけど、この薬は何?」


「魔女の秘薬だ」


そう答えるとガブリエルはそのまま馬の方に行ってしまった。


不満そうにその後姿を見送るメルグウェンにルモンが言った。


「ガブリエル様が以前勤めておられた城の近くに住んでいた女に秘伝を授けられたものだそうです」


「その人は魔女だったの?」


「薬草に詳しく病や怪我に効く薬が作れたと聞いていますが、本当に魔女だったのかどうかは知りません」


「どうして薬の作り方を教えてくれたのかしら?」


ルモンは可笑しそうにクスクス笑いながら答えた。


笑うと傷が痛むようで、脇腹を押さえながら笑っている。


「何でも3ヵ月程女の家に居座ってしつこく頼んだみたいですよ」


「あの男のやりそうなことだわ」


「城ではガブリエル様が行方不明になったと思い大騒ぎになったそうです」


「そのお婆さんは、さっさと追い出したくて教えたのじゃないかしら?」


「老婆ではなく若い女だったそうですよ。以前姫が怪我をされた時に使った打撲傷や捻挫に効く薬と、この切り傷に効く薬があります」


「今は誰が作っているの?」


「ガブリエル様が材料を採取して来られ、カドーに手伝ってもらって私が作っています」


本当に変な男だ。


ふと嫌な予感がメルグウェンの頭を過ぎった。


もしかしたらあの男、その魔女に色仕掛けでもしたのではないかしら?




確かにその薬は効果があるようで、一行がガブリエルの城に着く頃には、ルモンは殆ど元通りの体となっていた。


城では皆、ガブリエルがメルグウェンを連れて戻って来たのを見て喜んだ。


特にアナ、カドーとマロは、一日中メルグウェンの後をくっついて回ってガブリエルに笑われた。


次の日からガブリエルと騎士達は書斎に閉じ篭り、食事の時以外めったに外に出てこないようになった。


メルグウェンは何が起こっているのかとても知りたかったのだが、食事の時に顔を合わす騎士達は話しかけられるような雰囲気ではなかった。


仕方なくモルガドの代わりにカドーとマロに剣術の稽古をつけてやり、アナの仕事を手伝っていたメルグウェンだったが、好奇心を抑えることができず、葡萄酒を取りに書斎から出て来たルモンに尋ねた。


だがルモンはまだ何も決まっていないからと言葉を濁した。


そのまま一週間が過ぎ、これ以上作戦を練っている時間があるのかとメルグウェンは心配になった。


その日の夜、食事のために部屋から出て来たガブリエルは、不安そうな顔をして自分を見つめるメルグウェンに気付いて尋ねた。


「何辛気臭い顔をしているんだ?」


「……」


メルグウェンは何も言わずに、自分の前に来たガブリエルを見上げた。


松明の明かりは端正な顔に影を作り、額にかかる乱れた髪には金色の筋が混じって見える。


メルグウェンは今は殆ど黒く見えるガブリエルの瞳を見つめ感情を読み取ろうとした。


「明日の朝、騎士達とワルローズに向う。おまえとルモンとイアンに留守を頼む」


「…はい。ご無事を祈っています」


真面目な顔をして答えたメルグウェンにガブリエルは笑って言った。


「ちゃんと戻ってくるからそんな顔するな」


この男にそう言われると本当にそうだという気になる。


「はい」


メルグウェンは初めてガブリエルに素直な笑顔を向けた。


翌日、武装した騎士達は留守番をするルモン、イアンとメルグウェンに見送られ旅立って行った。


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