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7-5

「ルモン、ルモン!!!」


メルグウェンが叫ぶと、ルモンは薄っすらと目を開いた。


微笑もうとしたようだが、たちまち苦しそうな顰め面になってしまう。


メルグウェンの叫び声を聞いてガブリエルとパバーンが近づいて来た。


「そこを退け」


ガブリエルはメルグウェンを退かせると、ルモンの傍らに跪き短刀で服を裂いた。


「井戸に屈みこんでいた時に後ろから切りつけられたのです」


イアンが馬に積んであった荷物から小さな包みを取り出しながらそう言った。


「頭も殴られたようだ」


ルモンの体を調べていたガブリエルが言った。


「動くな。余計に出血する」


起き上がろうとしたルモンを押し留めながら、ガブリエルがメルグウェンを振り向いた。


「裁縫はできるか?」


「あまり得意ではないけれど、服を縫い合わせるぐらいなら」


「運良く傷はそんなに深くない。だが、何針か縫っておいた方が治りが早いだろう」


それを聞いてメルグウェンはギョッとした顔をする。


イアンが薬を染み込ませた布に包んであった糸を通した針を差し出した。


メルグウェンの手が震えているのを見たガブリエルが言った。


「この前おまえは、俺に自分を連れて行くのは迷惑ではないかと尋ねたな?できることは手伝うと言ったのはおまえだろ?」


メルグウェンはガブリエルの顔を見た。


「無理だったらイアンにやらせる」


「いいえ、私がやります」


メルグウェンはイアンから針を受け取るとルモンの側に跪いた。


まるで自分が傷みを感じているかのように歯を食い縛りながら、メルグウェンは仕事に取り掛かった。


ルモンがピクリと肩を震わせ唸り声を立てる度にメルグウェンは手が竦み、嫌な汗が背中を伝うのを感じた。


傷を井戸水で洗い清め薬を塗って布を巻いた時には、メルグウェンはくたくたになっていた。


ガブリエルは何も言わなかったが、その様子を見て目を細め頷いた。


こいつは鍛えりゃカドーやマロより役立つようになるだろう。




ガブリエルは早くこの村を立ち去った方が良いと思ったのだが、怪我人を連れて夜に移動する訳にもいかず、村はずれの小さな丘の上で夜を越すことにした。


夜襲をかけてくる者がいないとも限らないため、焚き火は焚いていない。


皆は農家から取って来た干草の束を地面に敷き、その上にルモンを横たえてやはり農家から取って来た麻の敷布をかけた。


ガブリエルはもう一つの敷布をメルグウェンに放った。


「これを被ってろ。風邪でもひかれたら厄介だ」


いつもどおり気に触る言い方だと思ったが、寒さに震えていたメルグウェンは有難く受け取った。


ルモンの側に行き横になる。


ルモンの額に手を当ててみるが熱はなく、よく眠っている様子だった。


メルグウェンはホッとして敷布に包まり目を閉じた。


色々なことがあり中々眠れないのではないかと思ったが、いつの間にかぐっすりと眠っていた。


翌日、夜が明けるとガブリエルは、車が見つからないかどうか村の中を見て回るようにイアンとパバーンに命じた。


メルグウェンが一緒に行こうとするとガブリエルは言った。


「ひっくり返られたら迷惑だからここにいろ。」


ガブリエルの馬鹿にしたような口調にムッとしたメルグウェンだったが、確かに死体を見て平気でいられる自信がなかったため大人しく座りなおした。


一晩寝て少し元気になったルモンが声をかけてくる。


「メルグウェン姫、昨日は有難うございました」


「どういたしまして。傷が大したことなくて本当によかったわ」


「私としたことが、井戸を見つけた嬉しさに注意を怠りました」


「あんな後ろから攻撃してくるような卑怯な男は逃がしてやらなくても良かったのに」


メルグウェンがガブリエルの方を見てそう口を尖らすと、ガブリエルはニヤッと笑って答えた。


「ああ、確かにそうだ。背後からかかってくるような奴は斬り捨ててしまえば良かったな」


ガブリエルが自分のことを言っているのだと気がついたメルグウェンは気まずそうに視線を逸らした。


すっかり忘れていたけれど、私はこの男に対して卑怯な真似をしたことがある。


暫く躊躇っていたメルグウェンは、立ち上がるとガブリエルの前に行き潔く頭を下げた。


「あの時の無作法をお許しください」


真っ赤な顔をして頭を下げるメルグウェンを面白そうに見ていたガブリエルは、からかうような口調で言った。


「もし許さないと言ったらどうする?」


「どうしたら許してくれるの?」


「そうだな。ルモンにしていたように俺の首にかじり付いて、泣きながら許しを乞うなら…」


「では、許してくれなくて結構です!!」


ハハハッと笑うガブリエルの声を背中に聞きながら、メルグウェンはプンプンしてルモンの側に戻った。


本当に嫌な男だ。


人が折角勇気を出して謝ったのに。


もう知らない。


絶対に謝ってなんかやるものか。


大きな音を立てて何かを引き摺りながらパバーンとイアンが戻って来た。


農家の子供が使っていたと思われる手押し車、木の扉や板切れだ。


これで遊んでいた子供達を思ってメルグウェンは胸を痛めた。


殺戮を免れた村人はいるのだろうか?


手押し車はおもちゃにしてはしっかりとした作りだ。


上に扉を乗せ縄で固定すると俄作りの荷馬車ができた。


馬に繋ぎ干草の上にルモンを寝かせて一行は出発した。


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