7-2
3人は門が見える木陰を探すとそこに腰を落ち着けた。
どの位かかるのか分からないが、この暑さでは日向にいたら日干しになってしまうだろう。
「良い話だったらいいんだがね」
イアンが言うとルモンが答える。
「まあ待ってりゃ分かるさ」
ルモンも大分ガブリエルに似てきたようだ。
メルグウェンは先程から自分達の上に枝を広げる木が気になっていた。
「これは何の木かしら?」
「さあ?何か実がなっていますね」
イアンも知らないらしい。
「ああ、これはオリーブの木ですよ。実は塩漬けにして食べれるし油が取れます」
「きれいな木ね」
「この地方の唄でこんなのがありますよ」
ルモンはそう言うと歌い始める。
オリーブの収穫の際によく歌われる唄だそうだ。
聞き惚れていたメルグウェンは唄が終わるとルモンに聞いた。
「ルモンは何故吟遊詩人にならなかったの?」
「ガブリエル様に出会わなければ多分なっていたと思います」
「自分の夢を諦められる程の男なのかしら?」
「姫はガブリエル様がお嫌いですか?」
「…嫌ってはいないわ。私を救い出してこうやって連れて行ってくれるのだし」
「ガブリエル様は稀に見るよい主人です。自分の下に勤める者はどんなに身分の低い者でもきちんと見ていてくださる。だから皆あの方について行きたくなる。それにあの方といると人生が面白いのです。吟遊詩人となって旅をして回ることと同じ位に」
「確かにそうだ。あの方はどんなことを思い付かれるか見当がつかないからな」
「だがその反面、誰かが側にいて面倒なことにならぬように気をつけている必要がある」
ルモンがそう言うと、イアンも笑いながら頷いた。
「貴方のこともバザーンを出る時に言われたのですよ」
「え?」
「ガブリエル様の妹と思って接するようにと。もし無礼を働く者がいれば絶対に許さない。その時は自分が相手になってやると」
そうだったの。
だから皆私に礼儀正しかったのだわ。
私は初めからあの男に守ってもらっていたのだ。
「でも今は皆貴方のことを大切に思っていますよ」
俯いたメルグウェンにルモンが慰めるように言った。
「分かっているわ。ありがとう」
メルグウェンは顔を上げると微笑んだ。
「私も皆が家族のように思えるもの」
午後も遅くなった頃、やっとガブリエルとパバーンが門から出てきた。
メルグウェンは木陰で横になりうとうとしていた所だったので、話し声が聞こえてびっくりして飛び起きた。
二人共髪から水を滴らせ顔を上気させているので、何があったのかと尋ねたイアンにパバーンが答えている。
「領地の川で水遊びに行っていた」
私達が暑い所で待っているのに水遊びですって?
ムッとしたメルグウェンだったが、王の命令ならガブリエル達は従わざるを得ないことは分かっている。
「それでお話は?」
ルモンが聞く。
「ああ、ちょいと面倒なことになった」
ガブリエルはそう答えるが全然面倒そうな顔をしていない。
メルグウェンはガブリエルをじっと見ていた。
本当にルモン達が話していたような男なのか自分で確かめることにしたのだ。
自分を見つめるメルグウェンに気付いてガブリエルは言った。
「どうかしたか?」
「いいえ、何も」
答えながらメルグウェンは思った。
あら、この男の目は灰色だとばかり思っていたのに、太陽の下で見ると青いんだ。
髪は濡れている所為かいつもより色が濃く見える。
確かに外見は魅力的な男だわ。
女がベッドに潜り込んでくるのも仕方がないのかも知れない。
だけど見た目だけじゃない。
どこまでもついて行きたくなるくらい中身も魅力的なのかどうか見極めてあげるわ。