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6-10

爪で地面を引っ掻いて逃れようとしたが、腰を掴まれ引き戻された。


もう駄目だと思ったメルグウェンは、急に自分の上から男の体が消え驚いて跳ね起きた。


武装した騎士が殴り倒したリグワルに向って剣を抜いたところだった。


「その男を殺さないで!!」


兜の目庇を上げたガブリエルは、眉を顰めてメルグウェンを見た。


「おまえ、自分が何をされたか分かってんのか?」


「分かってるわ。私にその男と話をさせて」


メルグウェンはリグワルの前に行くと手を振り上げ平手打ちを食らわした。


「生まれてくる赤ちゃんがいなかったら貴方を殺していたわ」


「…グウェン」


「もう二度と会うことはないでしょう。家族を大事になさい」


そう言うとメルグウェンはリグワルに背を向け、二度と彼を見ることはなかった。


ガブリエルを追って来た騎士達が駆け寄って来る。


「この男、どうしたらいいんですか?」


そう尋ねたルモンにガブリエルが答える。


「こいつが殺すなと言うから、裸にしてそこの木にでも縛っておけ。運が良けりゃ飢え死にする前に誰かに見つかるだろ」


リグワルに猿轡をしながらパバーンが言った。


「熊か狼に食われちまうかも知れないな。姫に悪さをしようとした奴の一物切り捨てていいですか?」


縛られた男はモガモガと声にならぬ悲鳴を上げる。


「ことには至らなかったようだし勘弁してやれ。自分のがちょん切られるようで気分が悪い」


「これは何だ?」


側に落ちていた袋を開けながらルモンが驚いた声を上げる。


「こいつは密猟者ですよ。こりゃまあ、たっぷりと捕ったもんだ。我々の夕食にもらって行こう」


ガブリエルが皆を見回して言った。


「ここを早く立ち去った方がいい」


イアンがメルグウェンの馬を引いて来た。


5人は馬に飛び乗ると林の中を駆け足で進んだ。




暫く走ると上がり坂になり馬は並足に速度を落とした。


坂を上り切った所でガブリエルは皆に馬を止めるように命じた。


メルグウェンが馬から下りると、ルモンが布の包みを持って側に来た。


「どうぞ、これにお着替えください」


男物の服だった。


「こういうこともあるかと思い、城を出る時にマロの服を借りてきました。あいつは丁度姫と同じ位の背丈ですから」


男達の前で着替えるのは躊躇われた。


「背を向けていてやるからさっさとしろ」


ガブリエルに急かされ、皆の背中を見ながら修道着を脱ぎ緑色の胴着とタイツを着けた。


髪を服の中に隠し帽子を被ったメルグウェンを見て、ガブリエルは笑いを耐えられない。


「本物よりも本物らしい小姓だな」


腹を抱えて笑うガブリエルをメルグウェンは睨んだ。


メルグウェンの顔は土で汚れ、額や頬にはかすり傷がある。


ルモンが水の入った革袋と布を持って近づいた。


「これでお顔を」


手を差し出したメルグウェンにガブリエルが言う。


「いや、そのままでいい。汚れていた方が見破られないだろう」


その日は日が暮れて殆ど何も見えなくなるまで一行は狭く険しい山道を進んだ。


とうとうガブリエルはこれ以上行ったら道に迷うか崖から落ちる可能性があると思い、野宿をすることに決めた。


結局その日のうちに南部に下る道に行き着けなかった。




かなり南の方に来たとはいえ夜は結構冷える。


雉や野兎等の豪華な食事を終えて、焚き火の側に横たわりながらメルグウェンは思った。


もう城では私がいないことに気付いただろう。


父上は追っ手を寄こすのだろうか?


これで私は帰る家も家族も失ってしまった。


リグワルはまだあそこにいるのだろうか?


それとも誰かに助けてもらえたのかしら?


多分何もなかったからこんなに冷静でいられるのだろう。


メルグウェンはガブリエルに助けてもらった礼を言っていないことを思い出す。


明日の朝ちゃんと言おう。


それから、当たり前のように私を一緒に連れて行ってくれるけど、迷惑じゃないのか聞いてみよう。


もし迷惑だって言われたら困るのだけど。


メルグウェンはガブリエルにまた自分の体を見られてしまったことを思い顔を赤らめた。


でも、どうしてだろう?


以前のようにこの男を憎む気持ちにならなかった。


からかわれるのに馴れてしまったのだろうか?


段々瞼が重くなってきたメルグウェンは眠りに落ちる前に思った。


城の皆にまた会えるのが嬉しい。


皆も私が戻ったら喜んでくれるのかしら?



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