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6-7

メルグウェンは酷く腹を立てていた。


こんな失礼な申し出を受け入れるなんて父上はどうかしている。


ネヴェンテルからの返事は午後になってから届いた。


メルグウェンを翌日自分の城に寄こして、もしダネールが主張しているようにメルグウェンが清い体だったならば当初の予定通り婚礼を挙げよう。


しかし、もし違ったならば契約は破棄するが、メルグウェンをそのまま自分の元に留めるかそれとも親に戻すかは、自分がその時に判断するというような内容だった。


つまりネヴェンテルは、例えメルグウェンが処女であったとしても気に入らなければ、結婚しなくても済むということだ。


あんな老人に弄ばれるのは死んでも嫌だった。


「絶対に嫌です!!!」


そう叫ぶメルグウェンにダネールは冷ややかに答えた。


「既にネヴェンテル殿には了承すると伝えた」


ダネールは家来にメルグウェンを部屋に連れて行き、扉に厳重に鍵をかける様に命じた。


別に娘が憎い訳ではない。


ただ彼にとっては娘よりも自分の領地の方が大事だったのだ。


娘がネヴェンテルの奥方になることが望ましい。


だが、もしネヴェンテルが娘を返して寄こすようなことになったら、娘は自分の城で養っていくつもりだった。




メルグウェンは昨日ガブリエルが言っていたことを思った。


約束の時間までに絶対に脱出しなければならない。


だが扉は頑丈でメルグウェンの力ではどうにもできそうもなかった。


その上、ダネールは扉の前に見張りまで立たせているようだ。


どうしたらいいのだろう?


メルグウェンは涙を堪え必死で頭を働かせる。


窓から出られるだろうか?


メルグウェンの部屋は中庭に面している。


もし窓から出られたとしても誰にも見られずに下まで下りることは絶対に不可能だろう。


このまま籠の中の鳥のように閉じ込められてネヴェンテルの城に連れて行かれてしまうのだろうか?


絶対に嫌だ!!!


そんなことになるなら死んだ方がましだ。


メルグウェンは顔を上げると拳を握り締めた。


最後の瞬間まで戦ってみせる。


もし駄目だったらそれまでだ。


ネヴェンテルのものになる前に死んでしまえばいい。


そう決心すると少し楽になった。


一つだけ考えが浮かんだ。


上手くいくとは到底思えないがやってみるしかない。


メルグウェンは動きやすくするため、髪を項で纏めると着ていた修道着の裾を絡げた。




居酒屋で聞いた話を皆に語りながら、ガブリエルはメルグウェンを家に帰らせたことを後悔していた。


戯れるカドー達を遠い目をして眺めているメルグウェンを見て、ガブリエルは彼女が家族を恋しがっていると思ったのだった。


もう少し詳しく家族のことを聞いておけば良かった。


そう言えば以前あいつは結婚を嫌って修道院に入れられたと言ってなかったか?


メルグウェンの許婚という男がどのような反応をするか分からなかったが、居酒屋で聞いた噂から見てメルグウェンがこれから幸せになれるとは思えなかった。


「しかしガブリエル殿、姫はご自分で決心されてご家族の元に帰られたのですぞ」


パバーンが言った。


確かにそうだ。


だがあの時、妹も自分から進んで結婚すると言ったのだ。


自分がどうしたら幸せになれるかなんてガキには分からないんだ。


ガブリエルは眉を顰めて舌打ちをした。


「まあ、今はここで待つことしか出来ませんね」


ルモンが言った。


ガブリエルはメルグウェンは来ないだろうと思った。


やっぱり城まで迎えに行った方がいいのではないか?


だが城から城主の娘を連れ出すにはどうしたらいいのだ?


イライラと歩き回るガブリエルをルモンが不安そうに見た。


確かにメルグウェンのことは心配だが、ガブリエルが面倒なことに巻き込まれるのだけは避けたかった。




メルグウェンは窓から見下ろして中庭に誰もいないことを確かめると窓によじ登った。


隣の部屋の窓まで、間に螺旋階段があるため20フィートはあると思われた。


壁の外側の床と同じ位の位置に出っ張りがあるので、そこに足を乗せて壁伝いに進むつもりである。


メルグウェンは壁に張り付く感じでそろそろと隣の部屋に向って移動し始めた。


階段の部分は丸くなっているので腕を伸ばして壁に抱きつくようにしながら進む。


中庭に誰かが来るのではないかと不安だったが背を向けているので確認は出来ない。


この高さからもし落っこちたら頭を打って死んでしまうだろう。


自分でも気違い沙汰だと思うがこれしか考え付かなかったのだ。


壁の石で腕を擦りむき爪を傷めたがその様なことに構っていられない。


服がざらついた石に引っかかりヒヤッとさせられる。


いつまで経っても一向に距離は縮まないと思われた。


長い長い時間だった。


途中で何度も挫けそうになった。


もうどうなってもいいと気を抜いて手を放しそうになった。


しかしその度に何故か旅の途中にルモンと歌ったギドゴアール地方の民謡が頭に浮かび勇気が湧いた。


後少し、後少しと繰り返し呪文の様に唱えながら、一歩一歩進んでいく。


やっと隣の部屋の窓に手をかけた時は嬉しくて泣きたい気持ちになった。


だが、はたして部屋の中にいる筈の人は自分を入れてくれるだろうか?


カーテンが引いてあり部屋の中は見えなかった。


メルグウェンは息を吸い込むと窓の框を拳で叩いた。


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