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6-6

城門を守っていた兵は大慌てで城主に知らせに走っていた。


皆が死んだとばかり思っていた姫がひょっこりと現れたのだ。


城の中庭には城主ダネール本人が出てきた。


メルグウェンが初めて見る心底驚いた顔をして近寄ってくる。


「メルグウェン!!」


「父上!!」


メルグウェンは父親に駆け寄ろうとしたが、ダネールの冷たい声に立ち止まる。


「おまえは今までいったいどこにいたのだ?」


「……」


「バザーンが落ちておまえが行方不明となり、ネヴェンテル殿との約束は破談となった」


「…はい」


死んだと思っていた娘が無事戻って来たというのに、父上はそのことしか気にならないのか?


メルグウェンは父親に違う態度を期待していた自分に嫌気がさした。


やはり私は父上にとっては政略結婚の駒でしかないのだ。


「今更戻って来ても結婚する権利のなくなったおまえは家の役には立たぬ」


ダネールはそう言い捨てて城に入っていった。


後に残されたメルグウェンは続いて城に入るかどうか迷う。


ダネールの後から城を出てきた弟のマルカリードと叔母のマリアニッグが側に来た。


「姉上、よくぞご無事で」


「よく帰って来ましたね」


「……」


メルグウェンはダネールの消えた扉を黙って見つめていた。


二人に促され居間に入る。


見慣れた家具や壁に掛けてあるタペストリーが懐かしい。


マルカリードが言った。


「突然のことに父上は動転されているのです。それであのようなことを」


「いいえ、あれが父上の本心だわ。でもネヴェンテル様との結婚が破談になったからって、何故私に結婚する権利がなくなったことになるの?」


マルカリードとマリアニッグが顔を見合わせ、マリアニッグが話し難そうに言った。


「それは貴方が清い体ではなくなったからですよ」


「どういうこと?」


「落城の際に…」


マルカリードをマリアニッグが遮った。


「結婚するには生娘でなくてはならないのです」


メルグウェンの頬がカッと紅に染まる。


「バザーンでは誰にも何もされていないわ。勿論その後も」


それを聞いたマルカリードは黙って部屋を出て行った。




翌日、ガブリエルは朝からイライラしていた。騎士の格好で城下町に入って目立ちたくはなかったので、夜は町の近くの林で野宿をした。


メルグウェンと約束したため、ここで夕方まで待たなければならなかった。


ガブリエルは待つことが苦手だ。


昼食前にとうとう我慢できなくなったガブリエルは立ち上がると服を脱ぎ出した。


「ちょっと様子を見て来る」


ルモンに手伝わせ鎖帷子を脱ぐと、胴着の上に荷物から出した短めの上着を羽織る。


フードを目深に被り短剣を上着の下に隠したガブリエルは、すたすたと町の門を目指して歩き始めた。


こうなったら止めてもどうにもならないのをルモン達は経験上知っている。


問題なく城下町に入り込んだガブリエルは食事をする場所を探す。


何軒かの居酒屋を覗き、汚いが安そうな店に入っていった。


料理の匂いが立ち込めている薄暗い店内はガヤガヤと騒がしい。


ガブリエルは誰もいない奥まったテーブルに近寄り、フードを脱ぎ木のベンチに腰掛けた。


注文を取りに来た親父に食べ物とビールを頼み、早速話しかけた。


「仕事を探しているんだが、何かないかね?」


ニコニコしながら話しかけるガブリエルに親父は警戒心を解いた。


「どういったお仕事で?」


「金になるんだったら何でもいいんだが。あの城に何かないだろうか?」


親父は愛想良く答える。


「お客さんだったら警備兵になれるんじゃないですか?」


そして隣のテーブルで食事をしている男に呼びかけた。


「おい、ディデル。おまえさん城に出入りしてるだろう?城で人を求めてるか知らないかい?」


ディデルと呼ばれた男が振り返る。


「今城は大騒ぎでさあ。それどころじゃないよ」


「何があったんだい?」


「皆が亡くなったと思っていた姫が昨夜帰ってきたんだ」


「えっ?バザーンに行ってた姫か?」


「そうだよ。ダネール様には娘は一人しかいないじゃないか」


ガブリエルは興味ない振りをしながら耳をそばだてた。


「それで今朝早く使いがネヴェンテル様の元に向ったそうだ」


「そうか、許婚が無事戻ってきてネヴェンテル様も嬉しいだろうな。我々の町もこれで安泰か」


「いやいや、そう簡単にはいくまい」


「どうしてさ?」


男達はぼそぼそと小声になり、ガブリエルは腰を浮かせて耳を澄ました。


「…ネヴェンテル様も10数本の蝋燭を灯した燭台は欲しがらないだろうよ」


「そうかやっぱり落城の時に…」


ガブリエルはビールを飲み干すと立ち上がった。



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