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その日からメルグウェンは、針仕事をしながら空想にふけることが多くなった。
自分の夫となる人、ネヴェンテルを想像してみる。
年は私より勿論上よね。
優しい人だったらいいな。
私のことを愛してくれるかしら?
私が剣を持つことを許してくれるだろうか?
それとも、やっぱり父上の言うように女は男に護られていればいいと思うのかしら?
侍女達の話で持参金目当てというのが引っかかったが、話に聞いたように広い領地を持っている貴族がそんな筈はあるまい。
その頃になって初めてダネールは娘に婚約の話をし、五月祭の日にネヴェンテルを城に招待したことを伝えた。
五月祭までの期間が短かったため、翌日から城内は掃除をする人、祭りの準備をする人達で活気に溢れた。
メルグウェンは不安な気持ちでそれを見ていたが、同時に届いたばかりの新しい服や装身具を思い胸が高鳴るのであった。
その日、朝から化粧をされ準備を整えたメルグウェンは、イライラと足を揺すりながら座っている椅子の房飾りを毟っていた。
昼食後、呼ばれるまで部屋で待つように言われたが、この格好では何もできやしない。
待ちくたびれて、少し部屋の中を歩こうと立ち上がった時、ようやく塔の見張りが鳴らす角笛が聞こえた。
メルグウェンは窓に駆け寄り、身を乗り出して中庭を覗く。
中庭は急に騒がしくなり、着飾った両親と叔母、そしてマルカリードが騎士と近習、侍女、下男を従わせ出てくるのが見えた。
しばらくすると、蹄の音と共に、初めに赤地に3つ輪の鎖を白に染め抜いた旗を掲げた兵が馬に乗って正門を潜り、続いて武装した兵に前後を固められたネヴェンテルが到着した。
赤で固めた兵の中、ただ一人黒い服装の男が馬から下りて、城主とその家族に挨拶をする。
メルグウェンの部屋からでは、中庭にいる人達の顔までは良く見えないが、ネヴェンテルが帽子を取った時にその髪が白い様に思えた。
だが13歳の少女にまさか白髪の夫はないだろうと急いでその考えを打ち消す。
やっと呼びに来た侍女に続いて、大広間への階段を下りる時、メルグウェンは鼓動が高鳴る胸を片手で押さえる。
これから自分の一生を預ける人に会うのだ。
大広間には、白いテーブルクロスをかけた長いテーブルがあり、上には食べ物や飲み物が溢れるばかりであった。
人々は既に席について、姫君の入ってくるのを待っていた。
広間に足を踏み入れたメルグウェンの側に席を立ったダネールが来る。
そして娘の腕を取ると、テーブルの中心の自分とネヴェンテルの間の席へ連れて行った。
「ネヴェンテル殿、これが娘のメルグウェンです」
「初めまして、メルグウェンです」
「メルグウェン、こちらがおまえの夫となるネヴェンテル殿だ」
腰を屈めて挨拶をしたメルグウェンは、初めて自分の夫となる人を見た。
「美しい姫だ。長年待った甲斐があると言うものだ」
席についた少女は、体の震えを抑えられなかった。
何を食べているのか味もさっぱり感じないし、話しかけられても上の空で答えていた。
ネヴェンテルは、自分の父親よりも年上と見れる老人だったのだ。