4-7
「覚悟はできているんだろうな」
メルグウェンは男を睨みながら床に座り、仰向けに寝そべった。
「好きにしたらいいわ」
男は自分の盾を壁に寄り掛け、剣を床に置いた。
そして、兜を脱ぐと、短刀を取り出しメルグウェンに近づいた。
「ああ、好きにさせてもらう」
服の締め紐を切られてもビクともしなかったメルグウェンだったが、服に手をかけられると流石に怯えて抵抗した。
しかし大の男の力に敵う筈はなく、瞬く間に服も肌着も引き裂かれてしまった。
朝の光の中に浮かび上がるメルグウェンの裸体をジロジロ見ていた男は溜息をつくと立ち上がった。
「男じゃないのか。まあ女でもないが」
服の切れ端で体を隠そうとしていたメルグウェンは、肘をついて体を起こし男を睨みつけた。
「女でもないってどういうこと?」
「安心しろ。俺はガキを襲う趣味はない」
何て失礼な男だろう。
確かに自分は発育が遅いのかも知れない。
だけど来年結婚する予定の私をガキ呼ばわりするなんて。
犯されなかったことを喜ぶべきなのに、メルグウェンは女扱いされないことに怒る自分に呆れた。
剣を持ったガブリエルは女の所に戻った。
女は床に座り、膝を立てて肩を抱いている。
「さて、どうするか?」
女を殺すのは好きではないとガブリエルは思った。
「でも殺してやった方がおまえのためなんだろうな」
女がキッとした目で睨んでくる。
「俺の後に来る奴は、ガキでも何でも構わん奴かも知れん。兵に散々犯された挙句殺されるよりは今俺にグサッとやられた方が良くないか?」
女は答えない。
命乞いしないのだなとガブリエルは感心する。
不思議な女だ。
ふと昨日の昼間、パン屋に聞いた話を思い出す。
「山から来た貴族の娘というのはおまえのことか?」
背筋を伸ばした女が答える。
「私はエルギエーン地方の貴族ダネールの長女メルグウェン」
「メルグウェン、運がなかったな」
そして、ガブリエルは剣を振り上げた。
殺されると思った。
何か言わなくてはと焦った。
胸にこの男に対する憎しみが溢れた。
剣が振り下ろされる前にメルグウェンは、男に向かって両手を伸ばし相手を呪う仕草をした。
「私は呪…」
「黙れ!」
剣を下ろした男がメルグウェンの口を手で塞いだ。
硬い革の手袋が痛かった。
苦しくて男の手を掴み首を振ると男はメルグウェンを離した。
男は立ち上がって部屋の奥に行き、そこに幾つもある木の箱を開けてごそごそやってたが、やがて肌着と女物の服を腕に抱えて戻ってきた。
メルグウェンの隠れていた部屋は衣裳部屋だったのだ。
多分もう着ない服がしまわれていたのだろう。
「これに着替えろ」
メルグウェンは黙って服を受け取ると素早く着替えた。
男がどういうつもりなのか分からないが、裸で殺されるよりはずっといい。
服を着たメルグウェンを見ると男は言った。
「俺はギドゴアール地方の貴族キリルの次男のガブリエルだ」
そして、灰色の目を細めて初めて笑った。
「俺の城におまえを連れて帰る」