4-6
夜が明けてきた。
パエール河の川沿いは晴れる日でも朝はよく霧が出る。
その日も城はうっすらと白い朝靄に包まれていた。
ガブリエルは城主が捕らえられたので、もう自分達の役割は終わったと思い、メレイヌを探しに主塔に入った。
広間では既に兵達が家具を破壊し、金になるものを持ち出しているところだった。
遠くに女の泣き声が聞こえる。
広間を抜け階段を上がると床に兵の死体が転がっていた。
目の前の扉に別の足が挟まっているのが見える。
ガブリエルは剣を抜くと体を盾で庇い、扉を蹴り上げた。
薄暗い部屋の中をさっと見回すと、扉に挟まっていた死体以外にもう一人兵が倒れている。
そしてガブリエルに剣を向けて立つ女がいた。
いや、女が雑兵とはいえ武器を持った何人もの男を倒すような腕を持っている訳がない。
女装した密偵か?
ガブリエルは女に尋ねた。
「おまえは誰だ?」
剣術が好きで、父親に剣を持つことを禁じられてからも密かに練習していた。
しかしメルグウェンは実際に人を斬ったことはなかった。
先程メルグウェンの隠れている部屋に入ってきた兵を3人斬ったのが初めてだった。
自分の剣が相手の肉を裂き、骨を砕く感触は耐え難いものであった。
死体を運び出すこともできず、吐き気と戦っていた時に新しい男が入ってきた。
今までの百姓が剣を持ったみたいな奴らとは違い、鎧を身に纏った騎士である。
背が高く見るからに強そうなその男は、メルグウェンが戸惑うような間の抜けた質問をしてきた。
兜を被っているので顔は分からないが、声を聞く限り若そうな男だ。
「おまえは誰だ?」
何と答えたらいいのだろう?
名前を聞かれているのだろうか?
それともここで自分が何をしているのかを?
メルグウェンが言いよどんでいると、その男は怒ったような声で尋ねた。
「誰に雇われている?」
意味が分からない。
誰かと間違えられているのだろうか?
メルグウェンが黙っていると、その男は剣を構えた。
メルグウェンも慌てて剣を上げる。
ガブリエルは自分の質問に戸惑っている風な女を見ていた。
芝居をしているのだろう。
確かに密偵だったらスラスラと質問に答える筈がない。
これは捕まえて吐かせてやらねばと考え、剣を構えた。
思ったよりも女は手強かった。
片手でガブリエルの剣を受けるのは無理だと分かったのか、盾を捨て両手で剣を持って戦っている。
力はガブリエルの方が圧倒的に強いのだが、女はすばしこくガブリエルの剣をかわし反撃してくる。
これ以上戦いを長引かせたくはないと思った時、女が兵の死体に躓きバランスを崩した。
その隙を見逃さず、ガブリエルは相手の剣を払い除けた。
剣は女の手を離れ、部屋の壁にぶつかり鈍い音を立てて落ちた。
さて、こいつをどうやって料理するか?
剣を持ったまま近づくガブリエルを女は強張った顔で見つめていた。