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感謝祭の1週間前に無事バザーンに着いた一行は、青猪館という宿屋に腰を落ち着け、町の様子を窺っていた。
怪しまれない様に8人を3つの組に分けている。
馬や武具はその前に馬商人に扮したモルガドとパバーンが、バザーンの町外れに借りた家に運んであった。
前夜祭の昼過ぎ、吟遊詩人に扮したルモンとガブリエルは大聖堂の前広場で客を集めていた。
ルモンはバルハートを掻き鳴らしながら歌い、ガブリエルは笛を吹く。
隣の屋台でパンを売っていた男が、お蔭で自分の店に客が集まると礼を言い黒パンをくれた。
パンを齧りながらパン屋と世間話をする。
パン屋は城にもパンを売っているらしく色々と詳しい。
「今夜はお城は客を大勢招いて大変ですよ」
「外国の客ですか?」
「いやいや、町のお偉いさん方ですわ」
「じゃあ、城に寝泊りはしないんですね」
刃向かわない限り町人には危害を与えない様にと言われている。
城に残るのはできるだけ少人数の方が有難い。
「皆町に家を持つ者ばかりですよ。あ、そう言えば修道院に入っている娘を招いていると聞きました」
「城に招かれているなら偉い所のお嬢さんですかね?」
「いや、お城の台所係りは、どこか山から出てきた田舎貴族の娘だと言っていましたよ」
では何かあっても問題にはなるまい。
その娘もこんな時に城に居合わすなんて運が悪い。
その夜、前夜祭を祝った人々が疲れ果てて家で寝息を立てている頃、密やかに馬を進める一行がいた。
城門から隠れて見えない一角に馬を止めるとあたりを伺う。
馬は嘶けないように布で工夫された轡をされている。
約束の時間まで後僅かだ。
早課の鐘が鳴り出すと同時に蹄の音が近づいて来た。
メレイヌの軍だろう。
5、60人はいるだろうか?
だがそのうち馬に跨っているのは20人程、鎧を纏っているのは10人程度である。
彼らが城門の前に立つと、するすると跳ね橋が下げられた。
ガブリエル達が近づくと、メレイヌと思われる男が側に来た。
「キリル殿か?」
「はい」
「主塔を攻める。私に続いてもらいたい」
「分かりました」
メレイヌが号令をかけ、兵が跳ね橋を駆け足で渡り始めた。
ガブリエル達も城門を潜るメレイヌの後に続く。
中庭では異変を感じて出てきた警備の兵を相手に既に戦いが始まっていた。
……ここはよく知っている場所。
そう、故郷の城の広間だ。
まだ夜ではないのに、何故こんなに暗いの?
父上が亡くなった。
母上も、叔母も、弟のマルカリードも。
もう誰もいない。
私は一人ぼっち。
寂しさに胸にぽっかり穴が開いたようだ。
……小さい女の子が泣いている。
可哀想に、私と同じ様に一人ぼっちなのだろうか?
肩に手を置いて慰めようとすると、女の子は顔を上げた。
その女の子は自分だった。
ギョッとして後退りすると女の子は小さい両手で私を突き飛ばす。
私は後ろに倒れ、そして暗い穴の中に落ちていく。
………………!!!!!
城主の寝室の隣の小部屋で休んでいたメルグウェンは、必死で何かに掴まろうとして目が覚めた。
ああ、よかった、夢だった。
胸はドキドキするし、背中はじっとりと汗をかいて気持ちが悪い。
ベッドに座って動悸を鎮めていると外から妙な物音が聞こえてきた。