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貴族エスチエを隣国まで護衛した後、馬上槍試合に積極的に出場したのが良かったのか、ガブリエルの所に次第に仕事が舞い込むようになった。
雇われ騎士としての評判は上々で、戦場で知り合った仲間に慕われ、今やガブリエルの城には居候の騎士が4人いた。
それぞれの家来と新たに雇った料理人を含むと、城の住人は5人から14人に増えたことになる。
一人当たりの分け前は減るが、仕事が増えたために生活は以前より楽になっていた。
城の裏庭の小さな畑からは、ホウレン草、ニンジン、パースニップ、エンドウ豆、ナス、キャベツ等の野菜が採れたし、薬草庭園から採れるパセリ、セージ、クミン、アニス等で料理に味付けすることができた。
葡萄酒と小麦、馬にやる干草はキリルの城から安く買うことができた。
庭の片隅には鶏小屋があり、鶏は毎日卵を産んだし祭りには肉になった。
一頭だけいる山羊の乳からはチーズが作れた。
その他にキリルの城で豚や牛を殺す時にはお裾分けをもらえたし、食べ物に困ることはなかった。
細かいことが苦手なガブリエルの代わりにルモンが家計を管理している。
ルモンは金貸しの様に細かく、城で使われる燃料の量からめいめいが飲んだ葡萄酒の量まで書き留めていた。
財布の紐はルモンが握っているため、騎士達は村に女を買いに行く時まで、ルモンに報告しなければならないのに閉口していた。
4人の騎士達は歳も性格も過去の経験もバラバラだったが、ガブリエルを城主と認め彼の騎士として仕えることに誇りを持っていた。
現在ガブリエルは仮の城主でしかないが、いつかはきっと王に城主の称号を授けられるだろうと彼らは信じて疑わなかった。
夏も終わりのある日、ガブリエルの城に仕事の依頼に来た者がいた。
人払いをして欲しいと言ったその男は、ガブリエルが書斎として使っている部屋に入り扉を閉めると、さっそく仕事の内容を説明し始めた。
驚くような話だった。
男は自分は王の密使だと言い、その証拠に王の印のついた通行許可証を見せた。
両手に剣と秤を持った王の印は確かにジュディカエル王の物だった。
ギドゴアール地方の南、ブレシリアンの森を越えてずっと進むとパエール河に辿り着く。
パエール河を船で3日程遡った所にバザーンの町がある。
行ったことはないが、ガブリエルも落ちることのない商人の町バザーンのことを聞いていた。
王の使者が言うには、バザーンの城主ザルビエルは、25年前エスペレンの戦で功績を立てて以来王の信頼も厚かった。
しかしザルビエルは2年前に王が定めた税率改定について批判的な内容の手紙を出しており、昨年から税金をきちんと納めていない。
その上、我が国と冷戦状態にあるシミリア国の商人と取引するような反逆的な態度が伺われる。
その様な理由があり、王は密かにザルビエルを征伐することを決めた。
とどのつまりバザーンの富を自分の物にしたいって訳だなとガブリエルは胸の中で思った。
あるいはバザーンの地理的、経済的な価値を考えてのことかも知れない。
使者は話を続けた。
「幸いなことに手引きをする王の息のかかった者がバザーンの城内にいるのです。ザルビエルの娘婿になっているフィルド様が」
「フィルド家の者か?」
「当主の次男のジルード様です」
「ふうん。それで?」
「王は甥のメレイヌ様に今度の作戦の指揮を取るように命じられました」
「私達にも参加して欲しいと?」
「はい。ガブリエル殿と騎士達の噂は王の耳にも届いております。是非力を借りたいとのことでした」
「報酬は?」
「お一人当たり1500ゾルです。成功した際にはガブリエル殿の将来についても考えたいとのお言葉です」
「前払いしてもらえるのだろうか?」
「それは問題ございません」
「では検討して3日以内にお答えしよう」
「できるだけ早くお答えくださいますよう。日にちも迫っておりますので」
「分かった。3日以内にお答えする」
これ以上言っても無駄だと分かった使者は城を後にした。