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メルグウェン姫と騎士ガブリエルの物語  作者: 海乃野瑠
第3章 - ガブリエル
22/136

3-7

森を抜け、旅も終わりに近づいて来た。


国境には翌日の夕方に着く予定である。


その日は久し振りに雲の間から青空が覗いていた。


その分気温が低い。


地面に降りた霜がやっと陽の光で解け始めたのは既に昼近かった。


そろそろ昼食にしようと思った時、木々の上に農家の藁葺き屋根が見えた。


「これは丁度いい。湯を沸かしてもらいましょう」


ルモンがそう言って、カドーと食事の準備をするために急いで農家に向かった。


暫くしてガブリエルとエスチエが農家の前庭に乗りつけると、真っ青な顔をしたカドーとしかめっ面をしたルモンが出てきた。


カドーはガブリエル達の前で止まらず、前庭の端まで走って行き、激しく吐いている。


エスチエにはそのまま待つように言って、ガブリエルは馬から下りた。


「どうした?」


「皆死んでいます」


「病か?」


「いや、戦に行く兵が襲ったのではないでしょうか。拷問された死体もありましたから」


ガブリエルは扉を開けて家の中を覗き顔を顰める。


扉は蝶番が半分壊れて斜めに傾いでいる。


家の中は家具が倒され、農民一家の死体が散らばっていた。


すえた様な匂いと血の匂いが強い。


死体は身包み剥がれ、恐怖に目を見開いたままだ。


「酷いな。女子供も皆殺しか」


ルモンがガブリエルの後ろに立った。


「戦に行く前は気が高ぶりますからねえ」


「殺されてからあまり時間が経ってないな」




ガブリエルはエスチエの側に戻ると言った。


「できるだけ早く国境まで行った方が良さそうです。戦に巻き込まれたら厄介だ」


裏に回っていたルモンがバタバタと暴れる鶏をぶらさげて戻ってきた。


そしてニコニコしながら言った。


「略奪を免れた鶏が見つかりました。今晩の飯にしましょう」


ふらふらしながら馬によじ登るカドーを見てガブリエルが聞いた。


「おい、大丈夫か?」


「…は…い」


「俺達が見ても気持ちのいいもんじゃないぞ。戦に行けばある程度は慣れるが」


「はい」


ここは早くこの場所を離れた方が良さそうだと思ったガブリエルはルモンを急かす。


そして一行は国境への道を急いだ。


王が兵を挙げての戦はここ2年ばかりないが、領主同士の戦は頻繁にあり田舎は荒れていた。


大抵は農作物や家畜を略奪されるだけで済んだが、時には兵にやりたい放題をさせる領主もいたので、農民は兵を極端に恐れていた。


雇われ兵は農民が多かったが、自分達と同じ境遇の者に残酷になるのを躊躇わなかった。


戦は人を狂わす。


領主が勝手に起こす戦の犠牲になるのは、一番に領地に縛られている農民達だった。


国境までの道には所々兵が通った跡が見られたが、戦は既に終わっている可能性が高かった。


冬には篭城戦は望ましくない。


相手の城がすぐに落ちない場合は、いったん休戦に入り、機会を見て新たに戦を起こすのであった。


それでもやっと国境に着いた時には、4人は無事に旅が終わったことを喜び合った。


エスチエを隣国の迎えの者に預け、約束の300ゾルを受け取ったガブリエル達は帰路についた。


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