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翌日、朝早くからガブリエルは近習のルモンと小姓のカドーと共に作戦を練っていた。
ガブリエルより1歳年下のルモンは、藁色の髪に青い目の頑丈な若者で、少し猫背なのを覗けば結構男前だ。
カドーは金髪に薄茶色の目、そばかすが沢山散った顔をしたやせっぽちで手足ばかり長い少年だ。
二人は半年前からガブリエルに仕えている。
二人共ガブリエルが好きで、この大胆で冒険好きで、気前がよく細かなことに無頓着な主人にどこまでもついて行く気でいる。
そして現在のガブリエルの状況に心を痛めていた。
ガブリエルは、父親から毎月小遣いを貰っているが、それだけでは食べていくので精一杯だ。
その他に父親に与えられたのは、以前から城を管理していた中年の夫婦の家来。
これは妻が料理と掃除洗濯、夫が雑用と庭仕事を受け持つことになった。
それに近習のルモンと小姓のカドーだけである。
ガブリエルは他の城主の下で働きたいとは思わなかったし、王軍に入るのも躊躇われた。
自分の自由にできる今の生活が一番自分に合っているように思える。
ただ、金が足りなかった。
手っ取り早く金を稼ぐにはどうすれば良いのか?
暖炉の前に陣取った3人の男は、朝食の黒パンとベーコンに齧り付きながら思いつくことを次々と口にしていた。
「やっぱり盗賊しかないですかね。覆面して旅人を襲えば分からないでしょう」
ルモンがとんでもないことを言い出した。
「おい、そりゃあないだろ。俺を縛り首にさせたいのか?」
「法に触れることは絶対に駄目ですよ」
カドーがおどおどと言う。
この少年は年の割りにはよく気がきくのだが、臆病なのが玉にきずだった。
「俺は騎士としてある城主に縛られるのはご免だが、一時的だったらどうだろう?」
ガブリエルが自分の考えを話す。
「何年間か期間を決めてと言うことですか?」
「いや。戦の時には城主は兵を集めるだろ?だがその兵はいつもは畑を耕したり、靴を直したりしている奴らだ。満足に戦える筈がない」
「そうですね。槍を干草を掻き集めるのに使う熊手か何かと思っている人達に多くを求められませんよ」
「だから、戦を起こす貴族から金を取って俺達の力を貸すのさ」
「ちゃんと金を払ってくれますかねえ。戦に負けた場合はどうするのですか?」
「俺達3人で勝ち負けを決定付けることは無理だろ。ああ、2人半か」
「えっ、私も行かなきゃならないんですか?」
情けない声を出したカドーをルモンが睨み付ける。
「そりゃあ、小姓だったら一緒に行くのが当たり前だろう」
「前払いしてもらうしかないな」
「信用してもらえますかねえ」
「うーん。まあ当分はここらで行われる馬上槍試合に出場しまくって宣伝でもするか。勝てば金も貰えるし一石二鳥だわ」
馬上槍試合は、4大祭祀の期間以外は一年中、特に春から秋にかけて頻繁に行われる催し物である。
規模の小さいものでは数百人、大きいものでは数千人もの参加者が集まる。
有名な試合には外国からも多くの若い騎士達が自分の腕を試しに来る。
ギドゴアール地方でも暖かい季節には、かなり大きな試合が行われた。
冬の間も小さい試合ならいくつかある筈だ。
ガブリエルは、カドーに2週間以内に近くで試合があるか調べるように言いつけて、父親の城へ行かせた。