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いくらも経たない内に、メルグウェンは自分が修道院の暮らしに向いていないことに気付いた。
最後の数ヶ月は叔母の監視の下だったが、今まで比較的自由に生きてきたメルグウェンにとって、修道院の生活は相当窮屈なものだった。
修道院の一日は聖務日課によって区切られている。
寄宿生は日の出から日没までの時課を行えば良く、真夜中の時課には出なくても良いことになっていた。
それでもまだ夜が明けない内に起きることは辛く、鐘の音も耳に入らず熟睡していて、マルゴーに揺すり起こされて初めて目が覚めるのであった。
祈りの最中にウトウトすることもあった。
寝惚けてうっかりと聖歌の本を床に落としてしまい、周りの人に白い目で見られたこともあった。
夜は一日の疲れでベッドに横になるとすぐ眠りに落ちてしまうのだった。
修道院に入って1ヵ月も経たない内にメルグウェンは規則を破ったとして何度か罰せられていた。
薬草庭園で草むしりをしている時に隣の農家から手伝いに来ている女に話しかけたのが初まりだった。
知らない薬草の名を尋ねただけで、何故他の娘よりも長い時間草むしりをしなければならないのか分からなかった。
次は朝の集会で自分より年配の修道女に失礼な態度をとったとして、他の娘達がバザーン風のレース編みを習っている時間、礼拝堂で反省していなければならなかった。
言葉遣いが悪かったとは思わないし、自分の意見を述べただけで、何故それが失礼な態度になるのか分からなかった。
初めは修道院の習慣に馴染もうと努力していたメルグウェンだったが、納得できない理由で繰り返し罰を受けるにつれ、特に反抗的な態度を取ることはなかったが、素の自分を隠そうとしなくなった。
自分が興味あることには禁止されていても近づいたし、仕事中でも食事中でも自分が話したい時には話し、笑いたい時に笑った。
寄宿生も参加できる勉強会では教典のある章を読みその内容について論議するが、そこでも自分の意見を曲げようとせず、先生との一対一の激しいやりとりが長引き、終了の時間までに決着つかないことが頻繁に起こった。
そのため勉強会は一時的に中止となり、その時間退屈していた娘達はメルグウェンに感謝した。
毎日の僅かな自由時間は、普通は昼寝や家族への手紙を書くのに使われるのだが、メルグウェンは木の枝を削って作った剣を持ち敷地内の林に走り木々を相手に剣術の稽古をするのであった。
そのようなメルグウェンだったが、他の寄宿生からの評判はよく、彼女が通ると皆憧れの眼差しで見るのだった。
また同室のマルゴーも呆れながらもよくメルグウェンの世話を焼き、食事を抜かされ自室で反省させられているメルグウェンに自分が食べ残したパンを隠して持ち帰り食べさせるのだった。
メルグウェンが他の娘達に与える影響を恐れた修道院長は何度かダネールに手紙を書いていた。
その度ダネールからは厳しくご指導を願うという返事がきた為、その娘に与えられる罰は段々と厳しいものになっていった。
体罰まではいかなかったが、冷たい礼拝堂の床に跪いたまま一晩祈り明かすこともあれば、パンと水だけを与えられて地下室に一日閉じ込められたこともあった。
しかし、メルグウェンに操行を改める気配はなく、毎日のように修道院の規則を破っては罰を受けるのだった。
収穫祭には殆どの寄宿生は家族の元に帰る。
1週間前から迎えの者が次から次へとやって来て修道院内は慌しかった。
家に戻れないメルグウェンは一人寂しく修道院で過ごしていた。
バザーンの城主ザルビエルは祭りにはメルグウェンを城に招くとダネールに約束したが、あれはただ挨拶みたいなもので、自分達のような田舎者はすぐ忘れられてしまったのだろうとメルグウェンは思っていた。
だが収穫祭の3日前、ザルビエルからの迎えにメルグウェンは病気で臥せっているから行かれないと断ったと修道院長に言われ、初めて自分の今までの態度を激しく後悔した。
次から次へと与えられる罰に根競べの様に、絶対に服従するまいという意地で耐えていたメルグウェンだったが、修道院長の方が一枚上手だった訳だ。
一時的にでも修道院を抜け出す唯一の機会だったのだ。
次の祭り、感謝祭までには2ヵ月以上もある。
それまでは絶対に大人しくしなければならない。
ザルビエルはまた迎えを寄こしてくれるのだろうか?
その時、修道院長は自分が城に行くことを許してくれるのだろうか?