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15-5

バーンッ!!!!!


扉が吹っ飛ぶような勢いで開かれ、ベッドに横になってウトウトしていたマルカリードは飛び上がった。


傷ついた足に負担をかけてしまい呻き声を上げる。


それでも、もしや敵かと慌ててベッドの脇に置いてある筈の剣を手探りで探す。


「メルグウェン様!」


ベッドの傍に控えていた家来が驚いた声を出した。


「姉上、どうなさったのです?」


涙目でそう言った弟を睨みつけたメルグウェンは、あまりの怒りに唇を震わせ口も利けない状態だ。


「……マルカリード、あの男をどうしたの?!!」


やっとのこと声を絞り出したメルグウェンから目を逸らしたマルカリードは小さな声で言った。


「……何の話でしょう?」


「しらばっくれないで!!!」


家来がそっと部屋を出て行ったのを目の端で見ながらマルカリードは答えた。


「姉上が何の話をしているのか分かりません」


メルグウェンはつかつかとベッドに近付くと、両手でマルカリードの襟首を掴んだ。


「さっさと答えなさい!!! 何故貴方があの男の馬に乗っていたの?」


ガクガクと揺すぶられながら、マルカリードは悲鳴を上げた。


「メルグウェン、何をやっているんだ!!! マルカリードを放しなさい」


家来に呼ばれて駆けつけたダネールは、メルグウェンの肩を掴み息子から引き離そうとする。


「意気地ないとは思っていたけど、自分の弟が嘘つきで卑怯者とは思っていなかったわ!!!」


メルグウェンは怒りのあまりワナワナと震えながら、泣き声を出しているマルカリードを張り倒すと父親の方を向いた。


「父上、私はこの家に生まれたことを恥ずかしく思います。誇り高きエルグ族の戦士は勇気があって誠実だったのではないのですか?」


「何の話だ」


「このままでは城主殿のご家族に申し訳が立たない。ネヴェンテル殿の許に乗り込んで、捕虜を交換してくれるように自分で交渉に行って来ます!!」


そう言い捨てると、メルグウェンは身を翻し部屋を出て行こうとした。




雨が降っている。


テントに当たる雨の音を聞きながら、ガブリエルはぼんやり思った。


水を含んだテントの布は重たく、縫い目から雨漏りがしている。


ガブリエルは、肌着一枚で後ろ手で縛られ、湿った地面に転がされていた。


薄暗いテントの中でははっきりとは見えないが、白かった肌着は泥と血に汚れ、所々穴が開いてほつれている。


髪もべったりと血に汚れ顔に張り付いていた。


雨で気温はかなり下がっていたが、ずっと同じ体勢でいた為、体が麻痺してその寒さも大して気にならなかった。


上半身に数多くある傷は簡単に止血してあるだけだ。


出血と空腹の所為で眩暈がする。


ふと意識が途切れそうになったガブリエルは、縛られた両手を動かし頭を振った。


こんな所で気を失ったらみっともないぞ。


ガブリエルは襲ってくる睡魔と闘いながら、鼻歌を歌い始めた。


「黙れ! 煩いぞ」


テントの入り口に立っていた兵が近寄ってくると、背中を蹴飛ばした。


昨日の戦いで予想外の死者や負傷者を出したネヴェンテル軍。


兵達はかなり苛立っている様子だ。


「おい」


半分体を起こしながら、ガブリエルは掠れた声で呼んだ。


「腹が減ってどうにもならぬ。鳥の丸焼きと葡萄酒を持って来い」


頬を殴られ地面に崩れ落ちながらも、憎まれ口を利くのを止めない。


「爺さんは捕虜を丁寧に扱うようにと言ってたぞ」


「よくも、ネヴェンテル様のことを!」


兵は声を荒げたが、テントに入って来た別の兵に遮られた。


「明日の昼までは、絶対生きているように見張ってろとの仰せだ」


入り口の方に向かう兵達にガブリエルは懲りずに呼びかけた。


「何か食べさせてくれぬと死んじまうぞ」


「黙れ!!」


だが本当に死なれたら困ると思ったのだろう。


暫くすると先程の兵とは別な男が、冷めた水のようなスープに浸したパンを持ってきた。


「おい、体を起こして縄を解いてくれ。手を縛られていては食べられぬ」


「駄目だ。調子に乗るな」


「では、おまえが食べさせてくれるのか?」


男は仕方がないと思ったのだろう、パンの塊を掴むとぽたぽたと汁を垂らしながらガブリエルの口に押し込んだ。


モグモグと口を動かしながらガブリエルが言う。


「おまえらこんな不味い飯を食わされているのか? ケチな城主だな。こりゃ戦う気力も失せるわ」


「口の減らない野郎だな」


兵は呆れたように言うとテントを出て行った。


後はもう寝るしかないな。


ここから抜け出すことは不可能だろう。


ネヴェンテルの要求した身代金をはたしてダネールは出してくれるのか?


ダネール殿は気難しいが公正な男だと思う。


跡取り息子の命の恩人を見殺しにはしないだろう。


だが俺が捕らえられたと聞いて、あいつはどうしただろうか?


泣いているのではないか?


ガブリエルは溜息をついた。


もうあいつを悲しませないと誓ったのに。


明日の昼までは、とりあえず殺されることはないだろう。


一眠りしたら何かよい考えが浮かぶかも知れぬ。


いかんな。


熱が出てきたようだ。


目を瞑ったガブリエルは、すうと意識が遠のくのを感じた。


夕方になって捕虜の様子を見に来た兵は、真っ青になるとテントを飛び出した。


数人の男がバタバタとテントに入って来る。


「おい、捕虜が息をしていないって本当か?!!」


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