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15-3

とどめを刺そうと近付いたネヴェンテルの騎士を倒すと、ガブリエルは馬を飛び降り、瀕死の馬の下からマルカリードを引き摺り出した。


助けを借りてやっと立ち上がったマルカリードは左足が地面につくと呻き声を立てた。


あまりの痛みに泣き声を上げるマルカリードを見て、ガブリエルは呆れたように言った。


「足をやられたのか? 救いようのない馬鹿だな!」


ガブリエルは素早く考える。


どうする?


知らぬ者ならこのまま捨ておくんだが、こいつはメルグウェンの弟だ。


この愚か者が死んだら、きっとあいつは泣くだろう。


「乗れ」


「……えっ、でも貴方は?」


「何とかする。さっさと乗れ」


自分の馬にマルカリードを引っ張り上げると、ガブリエルは馬の鼻面に手を当てて言った。


「こいつを城に連れ帰ってくれ。頼むぞ」


そして、馬の尻をピシャリと叩いて叫ぶ。


「早く行け!! 落馬するなよ!!!」


怪我人を乗せた馬は暫く前に味方の兵が通って行った道を走り去った。


さて、どうする?


辺りはいっそう暗くなってきたが、異変に気付いた数人の兵がガブリエルの方に向かって来た。


剣を抜いたガブリエルは溜息をついた。


目立たぬようにさっさと邪魔者を始末して、森に隠れて夜を明かさねばならぬ。


長い夜になりそうだ。




メルグウェンは怒りに顔を赤くして、ワルローズの騎士達を睨みつけた。


「貴方達は城主殿を見捨てて逃げてきたの?」


ドグメールが居心地悪そうにセズニの方を見た。


「恥ずかしくないの? 城主殿が危険な目に会っている時に家来がぬくぬくとしていて」


「……ですが、ガブリエル殿が怪我人を連れて先に行けと指示されたのです」


「大胆不敵で自分の身を危険に晒すことを何とも思わない男だって知っているでしょう? ルモンが一緒だったら絶対にあの男を置き去りになんかしないわよ」


セズニは顔を叩かれたようにビクリとすると、唇を噛みメルグウェンに頭を下げた。


「お許しください。確かに我々は迂闊でした。城主殿を見捨てたと言われても弁解のしようもない」


ドグメールとテヴェも揃って頭を下げた。


「ガブリエル殿を探しに行きます」


セズニが宿屋の倅を呼んだ。


アルバンという小僧で、これが中々役に立っている。


「夜道をあの場所に戻ることが出来るか?」


「少々危険ですが、できると思います」


「よし、案内してくれ」


メルグウェンが遮った。


「セズニ殿は万が一の為、ここに残って頂戴」


そしてドグメール達の方を向いて頭を下げた。


「どうか城主殿を連れて戻ってください」


城を出て行こうとする彼らの傍に3人の兵を伴ったダネールが来た。


「わしの息子も戻っておらぬ。その様子も探ってきてもらえるか?」


「承知しました」


ドグメールとテヴェは3人の兵を連れ、宿屋の倅に案内されて城を出た。


月は雲に隠れて見えなかったが、暗い空にぼんやりとその明かりが窺える。


寒い夜だった。




彼らが出発してから数時間後、皆が寝静まった城に辿り着いた馬がいた。


「おい、誰か乗っているぞ!」


「そこにいるのは誰だ?!」


警備の兵は大声で馬の上の黒い影に呼びかけた。


敵が一騎で攻めてくるとは思えないが、用心するに越したことはない。


掠れた声で名を告げるその声に兵達はどよめいた。


「マルカリード様が生きておられた!!」


「直ちに城主様にお知らせしろ!!!」


傷ついた城主の息子を家来が馬から下ろすと城内に運ぶ。


知らせを受けたダネールが慌てて広間に入って来た。


「よくぞ無事で戻ってきたな」


寝不足の所為かダネールの目は少しばかり赤いように見える。


一足遅れてメルグウェンとセズニが駆け込んできた。


メルグウェンはホッとした顔をしている。


マルカリードと共にいた兵達は殆どが重傷を負っている。


戦いなれていない弟は殺されてしまったのではないかと心配していたのだ。


だが、青ざめ強張った顔をしたセズニがマルカリードに尋ねた。


「ガブリエル殿はご一緒ではなかったのか?」


武具を外されながら呻き声を上げ、顔を顰めていたマルカリードが薄目を開けてセズニを見た。


目を瞑り黙って頭を振ったマルカリードにセズニはもう一度聞いた。


「ガブリエル殿は貴方を追って行かれた筈だ。どうなさったかご存じないのか?」


メルグウェンが驚いたような顔をして弟を見た。


「マルカリード、それは本当なの?」


その声に目を開けたマルカリードはメルグウェンから目を逸らすとはっきりと答えた。


「いいえ、お見かけしませんでした」




自分の部屋に戻ったメルグウェンは、寒さに震えながらベッドに上がると布団に潜り込んだ。


泣いては駄目だ。


まだ何も分からない。


元気で帰って来るかも知れないのだ。


あの男は今までずっと運が良かったではないか。


今回も何でもないような顔をして戻ってくるに違いない。


いくらそう自分自身に信じ込ませようとしても、メルグウェンは不安が雨雲のように胸の中を覆うのを避けられなかった。


やはり何かあったのだ。


でなければ既に帰って来ている筈だ。


ガブリエルが自分をからかう時に見せる、腕白小僧のような嬉しそうな顔が目に浮かんだ。


胸がぎゅっと締め付けられる。


メルグウェンは自分を愛しそうに見つめる明るい灰色の瞳を思い浮かべた。


「……ガブリエル、お願い。早く帰って来て」


暗闇の中でそっと囁くともう堪らなくなり、涙が堰を切ったように溢れ出す。


もし私が家に戻りたいなどと言わなければ、このようなことにはならなかった。


悔やんでも悔やみ切れない。


メルグウェンは布団の中で丸くなり、自分の肩を抱いた。


歯を食い縛って嗚咽を耐える。


万が一あの男の身に何かあったら……


ワルローズはどうなってしまうのだろう?


自分が家族のように思っていた人達はどうなってしまうのだろうか?


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