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15-2

また一人殺られた。


マルカリードは、その場から逃げ出したくなる気持ちを必死に抑えていた。


父上の兵は自分を守るために戦っている。


自分が一人前の戦士ではないからだ。


子供の頃からの武芸の稽古ではそれなりに上達もしていた。


しかし、生死をかけた戦いとなると、習ったことなど何の役にも立ちやしない。


恐ろしい声を出しながら襲い掛かってくる敵が、ちびりそうになる程怖かった。


次期城主としてあまりにも情けなくはないか。


満足に指示を出すこともできない。


父に与えられた男達は、皆優れた戦士だった。


だが敵は何人倒しても、後から後から湧き出てくる。


もうこれ以上味方に負傷者を出さない為に、引き揚げた方が良いのではないか?


マルカリードが途方に暮れたように辺りを見回し、逃げ出そうとした時、目の前に踊り込んで来た騎士がいた。


「マルカリード殿、加勢を致そう!!」


その力強い声を聞いた途端、マルカリードはホッとして肩の力を抜いた。


役にも立たぬ剣をずっと握り締めていた腕が痺れている。




この季節は真冬ほどではないが日が短くなってきている。


昼間からどんよりと曇った空だったのだが、気付かぬうちに日が暮れかけていた。


暗黙のルールで戦は日が暮れるまでと決まっている。


つまり、翌朝まで休戦だ。


稀に夜襲をかけることもあるが、通常は太陽の下で戦うのだ。


「引き揚げるぞー!!!」


相手に最後の一撃を与えると、見方の兵達はさっと脇に避けた。


辺りが闇に包まれる前に城に帰り着かなければならぬ。


急がなければならなかった。


「ダネールの跡取り息子は腰抜けだ!! 明日は出てくるに及ばぬ。城で裁縫でもしておられたらよかろう」


槍が届かない距離を保ちながら傍を通ったネヴェンテルの騎士が嘲るような口調で叫んだ。


自分とマルカリードの兵が無事戦場から離れるのを確認していたガブリエルは、それを聞いたマルカリードが踵を返し、その男に向かっていくのを目の端に見た。


「マルカリード殿、そんな挑発に乗るんじゃない!!」


だがマルカリードは、言いたいことを言うと逃げて行く男を追った。


味方の兵がどうしたら良いかという風にガブリエルの方を見る。


「あの馬鹿!!! セズニ、いいから皆を連れて行ってくれ。俺はあいつを連れ戻して直ぐに追いつくから」


そしてガブリエルはマルカリードの後を追って駆け出した。


敵はわざとマルカリードを怒らして、味方から引き離すつもりなのだろう。


後少しで追いつくという時、ガブリエルはマルカリードの馬が横腹に矢を受けてどうと倒れるのを見た。




冷たい風に晒せれるのも構わずメルグウェンは、城壁に登って南の方角をじっと見つめていた。


ざらざらした石の壁は冷たかったが、何かに縋らないと倒れそうだった。


既に暗くなってきているのに、まだ誰も帰っていない。


最悪のことばかり頭に浮かんでしまう。


お願い、早く戻って来て!!!


震える手を組んで、目を瞑って祈る。


目を開けたら絶対に誰かが現れる筈。


だが、何度繰り返しても何も見えない。


そして、辺りは段々暗くなってくる。


あまりにも長引く不安にこれ以上我慢できないと思ったとき、遥か彼方、既に区別がつかない空と森の間で何かが蠢いているように見えた。


目の錯覚ではないか?


それが確かに城に向かって来る騎馬隊だと分かった時、メルグウェンは叫び声を上げて警備の兵を呼んだ。


あれは誰だろう?


父上か、マルカリードか、あの男か?


どうか、どうか……




中庭は一斉に賑やかになった。


弾んだ声で松明を掲げた家来は駆け回り、負傷者を馬から下ろした。


城主様がご無事で戻られたのだ。


馬から下りたダネールは、主塔の入り口に立っているメルグウェンを見た。


「息子とキリル殿はまだ戻らぬか?」


「まだでございます」


そう答えた家来に手綱を渡すと、青ざめた顔で震えているメルグウェンに近付いた。


「中で待つが良い。直ぐに他の者達も戻るだろう」


「はい」


父親の後に続いて、のろのろと広間に向かう。


城では朝までにやらなければならないことが沢山あるのだ。


誰と誰が明日も戦に向かえるか確認する。


その者達の怪我の手当てと武具の修理を優先させる。


元気な男達は急いで夕食を済ませ、短い睡眠をとりに行った。


メルグウェンは食欲がなく目の前に置かれた皿を押しやったが、出陣前にガブリエルに言われたことを思い出した。


城主殿が戦に行かれている間に奥方が倒れたりしたら皆困るわよね。


しっかりしなくては。


無理矢理パンと肉を口に入れた。


ゆっくりと咀嚼しながら考える。


あの男に相応しい奥方になりたい。


もう取り乱したりなどしないわ。


だが、残りの兵がやっと城に帰り着き、その中に許婚の姿も弟の姿もなかった時、メルグウェンはすうと背筋が冷たくなるのを感じた。


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