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13-14

午後の日差しの降り注ぐ部屋の中で、恋人達は長椅子に寄り添って座っていた。


メルグウェンは自分の肩を抱くガブリエルの胸に頭を預け、彼の話に耳を傾けていた。


その話は驚くことばかりであり、またとても嬉しいことでもあった。


ガブリエルは腕の中のメルグウェンを覗き込むと尋ねた。


「だが何故おまえはこんな格好をしてここにいるのだ? まさか一人で来たのか?」


「モルガド殿とイアンに連れて来てもらいました」


「モルガドだと?」


そうだった。


私はまだ伝えなくちゃいけないことがあるのだわ。


メルグウェンはガブリエルの腕をはなれ立ち上がった。


「貴方にお礼を言いたかったの。バザーンで私を殺さなかったこと、自分の城に連れ帰ってくれたこと、それから私が父上の城を逃げ出した時に助けてくれたこと。私は気付いていなかったけど、貴方は最初からずっと私を守ってくれていたでしょう? 今までありがとうございました」


そう言って頭を下げたメルグウェンを見て、ガブリエルは眉を顰めた。


「本当におかしな奴だな。そんなことで、わざわざここまでやって来たのか? 変装してこき使われて、ご苦労なこった」


メルグウェンはムッとした。


「だって貴方が結婚してしまうと思ったのだもの」


「今度は鼠の代わりに何を使うつもりだったんだ?」


メルグウェンは真っ赤になると、くるりと背を向け部屋を出て行こうとしたが、ガブリエルに手を取られてしまう。


大きな手の中から自分の手を引き抜こうとしながら、口を尖らせた。


「そんなこと思っていなかったわ! 気持ちを伝えたら、きっぱり諦めるつもりだったのだから」


抵抗するメルグウェンを引き寄せ顎に手をかけると、ガブリエルは真面目な顔をして尋ねた。


「諦められたのか?」


メルグウェンは目を逸らしたが、暫くするとぽつりと答えた。


「ずっと諦めようとしたけど、無理だった」


「それは良かった」


ガブリエルは目を細めて嬉しそうに笑うと、メルグウェンの顔に接吻した。


その腕の中から逃れようとしていたメルグウェンは、くすぐったそうな顔をすると大人しくなる。


それから暫く黙って滑らかな頬や柔らかな瞼、ふっくらとした唇を味わっていたガブリエルだったが、やっとメルグウェンを放すと言った。


「父上がおまえに会いたがっている。その格好じゃ具合が悪いだろ。服を取りに行かせて、風呂を準備させてやる」


そして準備ができるまで散々からかったので、ガブリエルが部屋を出て行く頃にはメルグウェンはすっかり脹れてしまっていた。




部屋を出たガブリエルは、苦笑いをしながら扉の前の階段に腰を下ろした。


幸せに酔っちまったみたいだ。


調子に乗って少々からかい過ぎたか?


だが顔を真っ赤にして怒るあいつがあんなに愛らしいからいけないんだ。


薔薇色に染まった頬やほっそりした首を思い浮かべたガブリエルは、部屋の中のメルグウェンを想像しそうになり、慌てて頭を振る。


こいつはまずいぞ。


扉に伸ばしかけた手を引っ込める。


ここは、本当に嫌われてしまう前に退散した方が良さそうだ。


ところが、ガブリエルが立ち上がる前に下から騒がしい物音がしてきて、階段を上がって来た女が転がるように駆け寄ってくると足元に身を投げ出した。


ガブリエルは驚いて立ち上がった。


「アナ、いったいどうしたんだ?!」


もしかしてパドリックに何かあったのか?


「申し訳ございません!! メルグウェン様を一人で行かせてしまって……」


泣いているアナの話は分かり辛かったが、どうやら戻って来たモルガドとイアンにメルグウェンと城門前で別れたと聞かされ心配になり、様子を見に行こうと数日前にカドーを連れてワルローズを出たようだった。


そして今日の昼頃、キリルの城を出たドグメール達に出会い、メルグウェン姫は城にはいなかったと聞いて、真っ青になって慌ててガブリエルの所に来たという訳だ。


「ルモンは戻って来たのか?」


「はい」


「では、ワルローズは大丈夫だな。おまえらが皆ふらふらしているうちに、城を攻められたりしたら困るだろうが」


「……でも、姫は?」


「アナ、丁度いい所に来たな。この中で俺の許婚が風呂に入っている。行って手伝ってやってくれ」


ガブリエルは部屋の扉を開けると、口を開いて何か言おうとしていたアナをさっさと中に押し込んだ。




「失礼致します」


部屋に入ったアナは、気を取り直し、顔を袖で拭うと衝立の方に向かった。


ガブリエル様はメルグウェン様のことを心配なさっていないようだけど。


いったいどこに行かれてしまったのかしら?


そして許婚って、やっぱりご結婚なさるってことよね?


どんな方なのかしら?


姫はそれを知って……


「……アナ?」


この声は?!


「姫!!」


「どうしてアナがここにいるの?」


アナは風呂桶に駆け寄った。


メルグウェンは泣いているアナを見てびっくりした。


「どうしたの? ワルローズで何か悪いことでも」


風呂から立ち上がりかけたメルグウェンに、濡れるのも構わずアナが縋り付く。


「ご無事で良かった!!!」


メルグウェンは困ったような顔をした。


「まだ10日経っていないわよ。キリル様に会ったらワルローズに帰るつもりだったのに」


アナが恐る恐る尋ねた。


「……ガブリエル様の許婚って?」


メルグウェンは嬉しさと恥じらい、それから少しばかり誇らしさの入り混じった表情を浮かべる。


その幸せそうな笑顔を見て、アナは新たに涙が溢れ出すのを感じた。


「おめでとうございます!!!」


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