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13-10

翌日、昼食の後片付けが済むとすぐ、メルグウェンは主塔に向った。


ジョスリン様に会わなければならない。


どこにおられるのだろう?


誰かに聞かなくては。


だが中庭に出たメルグウェンは、召使達が慌しく走り回っているのを見て目を丸くした。


あんなに走って行かれたら、呼び止められないじゃない。


何かあったのだろうか?


「おい、そこの若いの!」


振り返ると若い男がメルグウェンを手招きしている。


メルグウェンは仕方なくその男に近づいた。


「何でしょうか?」


そこに2つの桶を持った小姓が走ってきた。


「ほら、あいつと一緒に行って風呂の準備をしてくれ」


「えっ? でも僕は台所の」


「台所はこの時間は暇だろ。こっちは人手が足りないんだ」


そう言うと男は別な用事があるようで、さっさと行ってしまう。


「ちょっと待ってください! こっちだって都合が」


男の背中にそう叫ぶと、走って戻ってきて、メルグウェンの手に何かを押し付けた。


「これで勘弁してくれ。ほら、さっさと行かないとキリル様に叱られるぞ」


メルグウェンは手の中の1ディン銀貨を見つめた。


何なんだろう、いったい!


腹が立ったが、金を受け取ってしまった以上は仕方ない。


メルグウェンは側で立ち止まってそれを見ていた小姓から桶を1つ受け取ると、台所に向った。


小姓の後に続いて、湯の入った桶を持って主塔の階段を上がる。


後、何度往復すればよいのだろう?


休憩時間が終わってしまうのではないか?




風呂桶の用意してある部屋に入り、桶の湯を空ける。


白い布が敷かれた大きな風呂桶にはまだ半分も湯は入っていなかった。


メルグウェンはうんざりした。


どこかの宿屋でガブリエルにこき使われたことを思い出した。


普通大切な女性には、あんなことはさせないだろう。


やっぱりあの男は私のことを妹か、もっと悪いことには弟とでも思っているのだろう。


少しぐらい優しい目で見られたからって変な期待をした私が馬鹿だった。


メルグウェンは溜息をつくと、台所の階段を駆け下りた。


とにかくこれをさっさと片付けて、ジョスリン様に会いに行かなくては。


湯の入った桶は重かった。


そのうちメルグウェンは腕が痛くなり、腰も痛くなってきた。


だが時間はどんどん過ぎて行く。


メルグウェンは額を流れる汗を袖で拭うと、桶を持って主塔の方に歩き出した。


何度も台所と部屋を往復するうちに、一緒に湯を運んでいる小姓と途中で擦れ違うようになった。


これが最後とメルグウェンがよろよろと湯を運んで行くと、衝立の陰で小姓が誰かと話しているのが聞こえた。


「父上に呼ばれているならさっさと行けよ。俺は一人でできるから」


耳に入った声に、メルグウェンは飛び上がり、桶をひっくり返しそうになった。


小姓が部屋を出て行き、メルグウェンは震える手で桶を持ち上げると湯を注ぎ入れた。


心臓が口から飛び出そうにドキドキしている。


メルグウェンは空の桶を持ったまま、衝立に背を向けて立ち尽くしていた。


やがて近づいて来る足音が聞こえ、続いて水音が聞こえた。


メルグウェンはまるで目が覚めたかのようにビクリとすると、慌てて部屋を出て行こうとした。


「おい」


後ろから声をかけられ、メルグウェンは立ち止まったが振り向けない。


顔見られたらばれてしまうじゃないの。


「はい」


「そこにぼーっと突っ立っているのだったら、髪を洗うのを手伝ってくれ」


メルグウェンはムッとした。


相変わらず人を怒らせるような言い方をする男だ。


確かに私はボンヤリ立っていたのだけど。


だってあまりにもびっくりしたのだもの。


「……はい」


頭巾を被った顔を背けながらそろそろと風呂に近づいた。


横目で伺うと、大きな背中が目に入った。


メルグウェンは唇を噛むと、袖を捲くり大きな石鹸を手に取った。


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