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13-7

翌朝、台所に行くと直ぐ、メルグウェンは料理長に呼び出された。


テクルは眉を顰めてメルグウェンに言った。


「夜中にあんな大声を出すなど、おまえは気でも狂ったのか?」


「誰かが僕の首を絞めようとしたのです」


「おおかた女にあぶれた野郎が、おまえの尻でも狙ったんだろうよ。おまえは男の癖に、女みたいに華奢で優しい顔をしているからな」


メルグウェンは怒りで真っ赤になった。


文句を言おうと口を開くとテクルが遮った。


「どっちにしろ、金輪際、人の寝込みを襲うような真似は止めろ。ここで無事で生きていきたいのだったらな。そして自分の身は自分で守れ」


「分かりました」


メルグウェンは剣を城に置いてきてしまったことを後悔したが、台所の下働きが剣を持っていても怪しまれるだろう。


台所から包丁を持ち出すことは固く禁じられていた。


何か良い武器はないのか?


昼食の後片付けが済むと、台所の者達は夕方までの数時間、自由にできる。


メルグウェンは外に出て行ったが、間もなく戻ってくると、入口の階段にだらしなく座っている見習い達に声をかけた。


「ちょっと顔を貸して欲しい」




見習いは5人いた。


男と言うにはまだ若干幼さが抜け切れていないが、既に子供とも言えない年頃の少年達だ。


メルグウェンに声をかけられた彼らは驚いた顔をして、それから無遠慮にジロジロ見回した。


「何だ?」


5人の中で一番背の低い頭の尖った少年が聞いた。


どうやらこの少年が見習い仲間の頭のような立場にあるらしい。


「裏庭についてきて欲しい」


「何で俺達がおまえなんかについていかなきゃならないんだ?」


馬鹿にしたように聞いた少年にメルグウェンは答えた。


「ふん、怖気づいたのか」


「なんだと!」


「俺達がおまえみたいのを恐がる訳がないじゃないか!」


脅すような声を出しながら立ち上がった見習い達に、メルグウェンは冷たく言い放った。


「だったら男らしく黙ってついてきたらいいだろう」


さすがに彼らに背を向けるのは緊張したが、男らしくと言った言葉が効いたのか、何もされずに裏庭に出ることができた。




メルグウェンは、片隅に立てかけてあった棒切れを手に持つと、少年達に向き直った。


「数人で手篭めにするような卑劣な真似をせずに、正々堂々と勝負したらどうだ?」


「何だその話は?」


頭の尖った少年が仲間達を見回した。


「そこの手に布を巻いた奴に聞いてみたらいい」


メルグウェンはひょろりと背の高い痩せた少年を睨みつけて言った。


「ホエル、おまえ、こいつに何かやったのか?」


ホエルと呼ばれた少年は目を逸らしたが、問い詰められると面倒になったのか開き直った。


「この生意気な小僧をちっとばかし懲らしめてやろうとしたのさ。それに俺だけじゃねえ、ヴォンも一緒だった」


「おい、小僧をやっちまおうってのは、おまえの思いつきだっただろ」


ヴォンは昨日メルグウェンの代わりに水汲みを命じられた少年だ。


「おまえら馬鹿か?そんなことして、こいつに訴えられてでも見ろ。これだぞ」


頭の尖った少年が指で首を切るような仕草をした。


メルグウェンは大声で言った。


「文句があるならはっきり言えばよいだろう? そこのホエルとヴォンとかいう奴ら、いつでもかかって来い。相手をしてやる」


体力に自信のあるヴォンは薄笑いを浮かべながら、メルグウェンの構えている棒切れを掴もうとした。


だが予期しなかった一撃を鳩尾に喰らい尻餅をつく。


直ぐに起き上がり、怒りに顔を引き攣らせて飛び掛っていくが、今度は腕を打たれ、痛みに叫び声を上げて蹲った。


それを見たホエルが懐からナイフを取り出した。


「ホエル、止めろ!」


メルグウェンは容赦なくナイフを握っている手を打ち据えた。


ホエルは叫び声を上げ、ナイフを取り落とした。


メルグウェンは屈んでナイフを拾うと、笑って言った。


「次にちょっかい出す奴はこいつでグサリだ」


あっけに取られていた少年達が騒ぎ出すと、頭の尖った少年が手を広げ皆を黙らせた。


「よし、そこまでだ。小僧、名は何という?」


「グウェネック」


「俺はロイグだ」


そして仲間達の方を向いて言った。


「グウェネックを俺達の仲間と認める。今後こいつに手を出す奴は俺が相手になるぞ」


メルグウェンは、いまだに腕を摩っているホエルとヴォンを見てニヤリとして言った。


「あの二人が謝るのなら、仲間になってもいい」


ロイグに睨まれて二人は仕方なくメルグウェンに頭を下げた。


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