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2-2

一行が城門に着き門番に名を告げると、跳ね橋が下げられ門が開かれた。


ダネールの城と同じ様な造りだが、バザーンの城は最近付け加えられた風な塔や装飾が目立った。


屋根はエルギエーン地方の赤い粘土瓦とは違い、青味がかった黒い粘板岩で葺かれている。


親子は中庭で馬を降り、出迎えた召使に手綱を渡すと、侍女の後に続いた。


中央の塔の螺旋階段を上り、城主の部屋に案内される。


バザーンの城主はダネールと同年輩の男だった。


ダネールは小柄だが筋骨逞しく典型的なエルグ族の風貌をしていたが、対照的にザルビエルは赤ら顔に立派な口髭を蓄えた、でっぷりと太った大男だった。


側に立つ澄ました奥方と娘達も大柄である。


いずれ両親の様に肥えるだろう娘達は、メルグウェンの方を横目で窺っては、扇の影で互いに囁き合い忍び笑いを漏らす。


二人共明るい栗色の髪を最新の流行の形に結い上げ、都から取り寄せた服を纏っていたが、健康そうな血色の良い顔は美人ではなかった。


長女の婿のジルードは皆より少し離れた所に立っていたが、宿屋の主人達の噂話に劣らず美男で礼儀正しく見えた。




ザルビエルは、ダネールが自分と同じく王軍の兵士として、エスペレンの戦に参加したことを知ると急に友好的な態度になった。


エスペレンの戦とは、25年前、ジュディカエル王即位の際に起こった先王の弟コノガンとの争いである。


7ヶ月もの戦いの末、王軍はエスペレンの丘で大勝利を収め、コノガン公を含む首謀者は斬首された。


父親が自分のことを城主とその家族に話しているのを眺めていたが、メルグウェンは頭では別のことを考えていた。


修道院に入るため、持っている中でも一番質素な服しか持ってきていない。


また修道院に個人の侍女を連れて行くことは禁じられているため、道中も自分で身の回りのことをしてきた。


髪は毎朝梳って、リボンで後ろに纏めているだけである。


明らかに自分の服装を馬鹿にしているザルビエルの娘達の態度には腹が立ったが、服装等はどうでもよいという気持ちもあった。


メルグウェンは一年間修道院で過ごすことになっていたが、その間、家に戻ることはないと決まっていた。


ダネールはネヴェンテルとの結婚を嫌った娘が何か行動を起こすことを恐れていた。


娘を修道院に預ける一番の理由は、自分では監視しきれない分、娘を逃げ出すことのできない環境においてしまうためであった。


4大祭祀さえ娘を迎えに来ないと言うダネールは、ザルビエルに道中が安全ではないためと説明しているが、メルグウェンは皆が自分を哀れんでいると思い怒りに唇を噛んだ。


「それでしたら、祭りの期間はメルグウェン姫に城に来てもらいましょう」


初めはザルビエルの申し出を丁寧に断ったダネールだったが、城への送り迎えは勿論、自分の剣に懸けて娘と同じ様に守るのでと強く勧められ提案を承諾した。


それでも、帰り際、見送りに出たザルビエルに結婚が決まっている娘なのでくれぐれも間違いのない様にと念を押すことを忘れなかった。




宿屋に帰る頃には既に日が暮れかかっており、長旅と城の訪問で疲れきった親子は、口数も少なく夕食を取ると早々と寝室に引き上げた。


翌朝まだ薄暗いうちに目を覚ましたメルグウェンはベッドに座って素早く着替え、ベッドを囲っているカーテンをそっと引いた。


父親はまだ眠っているらしく、ベッドはカーテンが閉まったままだ。


床に脱ぎ捨ててあった革靴を履くと忍び足で扉に向かう。


軋む階段を気にしながら広間に下りると、既に暖炉には火が焚かれ、女将が朝食の準備をしていた。


「おはようございます。よくお休みになられましたか」


濡れた手を前掛けで拭きながら挨拶する女将に軽く頭を下げたメルグウェンは広間を横切ると宿屋の扉を開けた。


まだ冷たい朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。


マントを被りベンチに横になっていた騎士が起き上がり、音もなくメルグウェンの背後に立つ。


「おはようございます、グウェン様」


急にかけられた声にビクッとしたメルグウェンだが、頬に僅かな微笑みを浮かべると振り返らずに答える。


金も剣も持たない自分が逃げるわけないのに。


「おはよう、パエール。見張り番ご苦労様」


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