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第一章 13 エレカ・ヤヒメ

 面談の過程には怪しいところもあったものの、エレカとリズカードは無事に結婚相談所『リズカード』に転がりこむことができた。収入のあてができたのはもちろん、住居が手に入るのもまた嬉しい──と思っていたエレカに、ひとつの衝撃的な事実が知らされる。


「あ、住居ってここのことなのね。家がないならここにいていいよっていう」


 雇い主であるフーロは抜け抜けとそんなことを言ったのだ。


「え? ここって面談部屋なんじゃ……」

「事務所、兼面談部屋、兼あたしの家……兼社宅、的な?」


 床を見ると寝袋が敷いてあって、フーロは本当にここで暮らしているらしい。他の部屋はランドリーとシャワー室、トイレとクローゼットだけ。つまりこのあんまり広くない部屋に、三人と一羽で暮らすということになる。

 それぞれの部屋の用意があると甘く見ていたエレカは、そんな雑多な生活を想像してちょっと平静ではいられない──有り体に言うと嫌だった。でも、ほとんど好意で雇い入れてくれたフーロに、そんな不躾なことを言うのは躊躇われる。


「お、男の人もいるんですけど……」


 言い訳がましく、さっきから熱心に書類の文面を読み込むリズカードを指さすと、フーロはヒュッと鋭く息を吸い込んだ。それから苦しそうにぎゅっと目を瞑り、それから顔を押さえて深く俯き、ケミカルな色をした髪の毛が垂れる。やがて、プハーッと水中からあがったように顔をあげると、またリズカードの姿を見て、両手を頬についてふわわわわと声を漏らす。

 どうも憧れのリズカードを直視すると壊れてしまうらしい。


「フーロさん……」


 ほっとくとループに入って、いつまでもやってそうなので声をかけると、フーロははっとエレカの方を向き、なんだかすっきりとしたような顔つきで言った。


「賢迅と同室、最高じゃん」

「う、うう……そうですね……」

『悪いな……こういうデリカシーのない奴で』


 スナウがそう言ってくれたが、この感覚に共感してくれる人格がAIしかないという状況に、エレカは泣きそうになった。


「……俺の存在が気になるなら、ひとつ提案がある」


 ああだこうだ言っているのを聞きつけて、リズカードが近くに寄ってくる。


「な、何ですか? ──ひゃあ!」


 そして、いきなり腕に触れてきたのでエレカは跳び上がった。その拍子に、いつのまにかエレカの肌に出ていたらしいヴィス粒子が宙に舞う。その中でリズカードは手をかざし、イレイザーで消すように自分の身体をなぞった。


透明化(インビジブル)だ」


 すると、彼の姿が綺麗さっぱりなくなってしまった。


「す、すごい……魔法だあっ! 本当に本物なんだ!」


 初めて魔法を目にしたフーロは興奮した様子を見せるが、エレカの憂鬱は募っていく。


「……確かにこちらからは見えないですけど、リズカードさんはそこにいるんですよね」

「ああ、その通りだ。いなくなったわけじゃないから心配する必要はない」

「それだと意味ないんですってばあ……」


 エレカは泣きそうになると「違ったか……」と慌てた様子でリズカードが姿を戻した。

 ──結局、エレカはウォークインクローゼットもとい物置をあてがってもらった。横たわるので精一杯な広さだったが、それでなんとか人心地はつく。


「私、これから大丈夫かな……」


 息の詰まりそうな空間の中で、エレカは茫漠とした思いに駆られるのだった。

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