第一章 11 フーロ・リズカード・ヴェストローム
「ま、ま、マジかよ……」
フーロ・ヴェストロームは、ディスプレイに映る文字に釘付けになっていた。
『ボス、どうしたんだよ、そんなシリアスな声出して』
その声を聞きつけたスナウがふよふよ飛んでくる。スナウは、誰もいない静かな事務所に耐えきれなくなったフーロが、小型飛翔ボットを改造して作った対話AIボットだった。デザインは真っ黒なヒヨコとしている。高い金を払って最新の汎用学習モデルを引っ張ってきているため、庶務兼賑やかしとしては最高なのだが、誰に似たのか口が減らない。
のこのこ飛んできたスナウに、フーロは興奮気味にわっと言い立てる。
「や、や、やばい、応募が来た! しかも、ふたりも! どっちも即日面接可……いや、即日働きたいって言ってくれてる! ここに来て我が社激アツかも知んない!」
『なんじゃそりゃ。あんなヘラヘラした求人で来るとか絶対まともじゃないだろ。会社乗っ取りに来てんじゃねーのか?』
「高い金払って応募ページに社会適応性チェッカー張ってんだよ。ある程度は平気だよ!」
『とか言って、前雇った奴に会社の金と鍵、パクられかけただろ……』
「あれは未然に防げたからいーの。そのために高い金払ってセキュリティ入れてんだからさ……って、あれ? 高い金払ってお前喋らせてるし、高い金払ってストラトに事務所置いてるし、高い金払ってウォーターサーバー置いてるし……もしかして弊社、高い金払いすぎ?」
『〈スワード〉に上納する分もあるし、ウチはほとんど自転車操業だぞ、ボス』
「あれ、我が社激アツってもしかして、単にお尻に火がついてるってだけ……ん?」
『どうした?』
フーロとスナウは揃って画面を覗き込む。
「応募者の名前、エレカ・ヤヒメって一七歳の女の子と……リズカード・オーウェンだって! うひゃー! これ本人? 本物?」
『んなわけーねだろ! リズカードは中世の人間だぞ!』
「いやいやマジでとんなよ、冗談だよ。で、あたしリズカードさんの経営する会社『リズカード』に、リズカード・オーウェンって名前で応募してくるってどういう神経走ってる?」
『イタズラ以外に何があるんだよ! やれやれ、高い金払って導入した社会適応性チェッカーもポンコツだったみたいだな』
「いやいや! ライゴーグループが提供してるシステムなんですけど! 騙されるにしても一回くらいは信じておかないと元取れた気がしないって!」
『騙されてる時点で元取れてねーんだよ』
「うるさいなー。これでもし本当に賢迅だったらどうすんだよ」
『その時はオレ、自爆するわ』
「事務所の外でしてね」
結局、スナウの命を賭ける形(?)で、フーロは面談を十三時から設定することにした。普通の会社ならあり得ないフットワークだが、結婚相談所「リズカード」は普通の会社ではないので問題ない。実態は地下組織〈スワード〉が株式を半数所有する末端企業であり、そのことは相手も承知の上で応募してきているはずだった。
「ま、誰だろうと、働いて稼いでくれればそれで良いのだ」
フーロはそう呟くと、事務所の床に敷いてある寝袋に横たわり、デバイスの電子書籍リーダーを起動する。今、読んでいるのは『クリスタル・ハーツ』というコミックで、リズカードを始めとした十賢晶をテーマにした群像劇だった。今週はリズカードのメイン回、戦場で矢を避けて飛翔し、敵軍に魔法をぶちかまし、八面六臂の活躍を見せている。
「あーあ、うちにもこんな天才がいてくれたらなぁ……」
『そんな天才はこんな会社に来ないだろ。下らない妄想する前に仕事しろよ』
「最近は過激なミクシアンが大暴れしてて怖いからー……」
相変わらずスナウとぐちぐち言い合いながら、フーロは約束の時間を待った。




