12話
「あっあ、その、キモオタが急に語っむぐ!?」
いつの間にか両手で保持していたアイスをひったくられ、渡辺さんに猿轡の代用品として捩じ込まれた。
「そうなんだ。あたしも少し触れてみようかな。なんかオススメある?」
「んぐっ、はあ。わ、わわ私のですか…………?」
ふやけたかつてラクトアイスだったものを嚥下して、光の速さで脳みその引き出しからピックアップする。趣味の内容であればジョン・フォン・ノイマン氏を凌駕しそうな性能を誇る。
「……素人意見で恐縮ですが、異世界ファンタジーであればある一人の男の生き様を丁寧に描き切った理不尽な孫の手先生の傑作『無職転生』や病弱でありながらも主人公の本に対する直向きな情熱と前世で仕入れた知識を武器に自己実現を叶える『本好きの下剋上』、ずば抜けたギャグセンスとキャラクター造形が魅力の『このすば』にネット掲示板から書籍化を果たした実力派の『ゴブリンスレイヤー』、重厚な世界観と個性豊かな作中人物が織りなす旅物語を楽しみたいなら『キノの旅』とか『魔女の旅々』。西欧系のお話に飽きたら東洋風舞台に後宮で巻き起こる難事件、毒劇物に精通する少女が立ち向かう本格ミステリーがウリの『薬屋のひとりごと』。転移ものに振り分けるかは悩ましいですが『ノゲノラ』はそろそろ義務教育で扱っても差し支えないでしょう。軍記ものでしたら作者が元職の方で精巧な武器考証とお決まりでありながらも念密に練られた異世界で自衛隊が大活躍する『GATE』、第一次世界大戦をすっ飛ばして二次対戦を迎えてしまったような世界でドイツがモデルの敗戦確定演出みたいな国で神を呪い理性と狂気で硝煙漂う戦場を駆ける『幼女戦記』。ラブコメがお好きなら定番の『俺ガイル』『冴えカノ』は外せない。まさかの陽キャ視点で物語が綴られる『千歳くんはラムネ瓶のなか』、普段はスポットライトの当たりづらい女の子のオンパレード、斬新な題材でありながらも王道ストーリーの『負けヒロインが多すぎる!』あ、ラノベって正式なジャンル区分じゃなくてあくまでもそれっぽいものの集合体なので、硬派なサイエンスフィクションだって取り揃えてますよ! リアリティ溢れる人型ロボットと人類の闘争がアツい架空戦記なら『86-エイティシックス-』一択。近未来の現実世界、といっても現在はリアルが追い越しましたが。脳にネットワーク直通できるタイプのゲーム機が重要なアイテムとして登場するお話は『ソードアート・オンライン』で確立し『リアデイル』『防振り』などの名作を次々に輩出したVRMMOものもいいですが、鎌池和馬先生が全三二巻に渡って筆を執った『魔法科高校の劣等生』や巨大な学園都市の中で繰り広げられるSFとファンタジーの融和が目玉の『とある魔術の禁書目録』を皮切りに展開される『とあるシリーズ』も候補にしたい! 学園もの繋がりだとハイレベルな頭脳戦にどんでん返しがクセになってページを繰る手が止まらない『よう実』は最新刊が出るたびに買ってます! 学園ものにカテゴライズするのはなんか違う気もしますが美少女たちがわちゃわちゃして目の保養にもなる『スパイ教室』も一巻だけのつもりが知らない間に短編集まで読んでました! にあとあと、現代ドラマだったらないない尽くしの少女が一台の中古原付に跨ることで様々な体験や人物に出会い別れるトネ・コーケン先生原作の激渋小説『スーパーカブ』に」
「もういい! わかったいいから! ストップ! ストップ!!!」
渡辺さんの声でハッと我に帰る。またやっちゃった……。自分が興味関心のある物事になると突如として早口で捲し立ててしまうアッパー系コミュ障じみた悪癖が露呈してしまった。心なしか周りの通行人から冷ややかな視線を向けられている気がする。
もしかしなくても、渡辺さんに迷惑かけちゃったかな…………。
「あっその、私みたいな根暗隠キャが出しゃばってスミマセン……」
「すぐ謝んない!」
好き嫌いで可変する滑舌に振り回されながら、会話を交わし続ける。決して得意ではないけれども、とりあえず黙り込もうといった発想はいつしか消えていた。