六話 サイズは銃を手に入れました
六話 サイズは銃を手に入れました
昼に就と能がやって来た。サイズを連れて。
「お兄ちゃん、お昼食べたい」
能はあいさつでもするかのように言った。
「お前も手伝え」
「えー」
「レパートリーが増えれば、就君の好感度が上がる」
「サイズに服作ってるだけじゃ足んないの?」
「それはサイズの好感度に付属して微増しているだけだ。胃袋をつかめば爆上がりだ。それに人に頼られるようになる。お前みたいなやつにな」
「それ最悪じゃん」
「ともかく手伝え。就君、みんなの面倒を頼むよ」
「はぁ……」
サイズがひょっこり顔を出した。テンガロンハットをかぶっていて、ヘソ出しのカウガール衣装を身につけていた。ホーリエ・ヴィスコンティーの衣装だ。
「要、能、おいしいのよろしくね」
そう言うと就へ部屋の奥へ行くように勧める。就は軽く肩も下げながら、奥に行った。
「名前は呼んでもらえるようになったんだな」
「やっとね」
「エスパーダはそこからのデレが早かったから、期待しても良いかもしれんぞ」
「私とサイズはそんな関係じゃないよ」
「え?」
「え?」
分からないまま、料理に取り掛かる。最近、客がひっきりなしに来るように(一番来ていたのはサイズと能である)なっていて、ペットカメラをテーブルに置いていた。料理をしていて会話からハブられるのをなんとかしたかったのだ。スマホに繋いで音声だけ拾ったものを流した。
「見て見て。ホーリエ・ヴィスコンティーだよ」
サイズの明るい声にスミス姉妹が歓声をあげる。
「すごいじゃん」
「就さんの手作り?」
「いや、能の力作でね。費用請求されて朝ご飯はふりかけだったよ」
聞いてないと思って、就は能の愚痴を言っている。要は包丁でジャガイモの皮を剥いている能が、台所を離れないように釘を刺した。
「だって……」
「人の家で血を流すな。後処理大変なんだぞ」
「え? なんかあったの?」
「ちょっと動画配信者とモメてな」
「お兄ちゃん、怖い」
「良いから作れ」
要は能にジャガイモの皮剥きのスピードアップを強要する。
そして要自身はフライパンに油を引いて、火を入れた。さらにひき肉を投入して、酒を少し入れ、蒸し焼きにしながら会話に耳を傾ける。
「うわぁ! 銃だ」
すでにスミス姉妹の力作である二丁拳銃がお披露目されている。
「ありがとう。二人とも」
「まあねー」
「はいー」
どこかで聞いたようなフレーズが聞こえる。
「これで私もガンマン」
「アホか。弾がないだろうが」
音だけ聞いていると下ネタかと思ってしまったが、違うようだ。
「弾丸は?」
サイズは言い換えた。
「知らない」
「僕等が頼まれたのは銃だけだからね」
「そんなぁ」
サイズは商売人としてのスミス姉妹に敗北した。確かに弾丸の事に誰一人言及していなかったのだ。
「ねえ、黒星。弾丸少し分けてやってよ」
かわいそうに思ったのか、エスパーダが黒星に声をかけた。同じガンマンスタイルなので、融通がきかせられると思ったのだろう。
「ガンマンにとって弾丸は命だ。やるわけにはいかない。一発足りないだけで死ぬ事もある」
「しょうがないな。ライトハンド、レフトハンド、弾ちょうだい」
「姉御、僕等も商売なんだ」
「お金をもらわないと動けないよ」
大人は誰も動かないみたいだ。
「就……」
サイズは就を見上げた。
「悪いがその銃だけで限界だ。すまない」
本当にすまなそうに言った。サイズは小さく呻いて、その気持ちを受け取っている。
無音なのに、要のほうにもどうにもならない絶望感が伝わってくる。能を見るとジャガイモを力強く四等分にしていた。
要は砂糖と醤油、水を入れて火を通す。
そしてジャガイモを素揚げする。揚がったジャガイモと醤油味のひき肉を混ぜて、水溶き片栗粉を回しかける。とろみがついたら、揚げジャガイモのそぼろ煮の完成だ。
これで心置きなく、会話を聞くのに集中できる。それまでみんな黙っていたが、エスパーダが声を発した。
「よし、分かった。サイズ働こうか」
「はえ?」
サイズは驚き戸惑っている。