十一話 シールドがヤバいです
十一話 シールドがヤバいです
「シールド!」
マダムが慌てて走ってくる。今日も標準装備でシールドにくっついて来たようだ。
マダムが抱え起こすとシールドは息を荒くしていた。前に見た時より、シワが増えたような気がする。
「無理して」
「サイズを……助けないと……早く」
「分かったわ」
マダムはサイズのほうに向き直り、人工呼吸を施した。的確で、そして愛に溢れていた。
サイズは水を吐き、せき込み、目を覚ました。
「うわっ!」
サイズはマダムのドアップに驚いている。
「良かった。いろいろ危なかったのよ」
マダムはアックスによる貞操の危機を、溺れた事よりも強調して話す。しかしサイズは話が入っていないみたいだ。マダムのアップはそれくらいのインパクトがあるのだ。
「変な言いがかりはやめて欲しい。俺はサイズを助けようとしただけだ」
吹っ飛ばされたアックスはサイズ達の側へと戻ってくる。倒れているシールドには目もくれず、マダムに向けて文句を言っていた。
「シールドの判断は正しいわ。自分の身内が変な男に襲われそうになっていたら、助けるでしょう。ねえ」
マダムは保護者である就や能を見上げていた。二人はマダムに同意するように頷いた。
「サイズに手を出そうなんて、要さんの知り合いじゃなかったら殺してるところだ」
「いくら女好きでもやつて良い事とやっちゃいけない事があるよ」
「俺は助けようとしただけだ。ただ唇が触れるのを役得だと思ってニヤついただけだ」
エスパーダが大きくため息をついた。
「あんたの節操のないとこ嫌いなのよ。サイズは友達なの。変な事したら許さないから」
水鉄砲をアックスに向けた。
「分かった」
「何、許す流れになっているの! シールドが苦しんでいるというのに。あなたのせいでシールドは能力を使ってしまったのよ」
「ぶつかって倒れたんじゃないの?」
サイズの問いにマダムは首を横に振った。
「入り口にのところに穴があると思うけど、シールドが床をつかんであけた穴なの。それをフックにして小人ロケットをそこの男に叩き込んだのよ。じゃなかったら顔を粉砕して、この世から消してましたわ」
マダムはサイズを雑に放り、シールドを抱え起こす。
先ほどまで身内と言っていたのにその扱いはひどいと要は思った。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫ではありません。超能力を使った結果なので、誰も対処の仕方を知らないのです」
サイズが一番ショックを受けていた。
「そんな。おじいちゃん、私のために」
「気に……しないで。サイズは……悪く……ない」
マダムの腕の中で、シールドはサイズに向けて笑う。
「おじいちゃん、死んじゃうヤダ! おばさん、おじいちゃんにキスしてみる」
マダムは一瞬言葉を失っていたが、サイズのキスの意味を思い出したのかシールドを差し出した。
サイズはシールドの頬にキスをした。アックスが文句を言ったが、黒星に小突かれて黙った。
サイズの唇からシールドの顔、首、身体へと広がっていく。ついでにシールドを抱えたマダムも光った。それくらいサイズは超能力に全力を使った。
でもシールドの様子は変わらなかった。サイズの能力では無理だったのかもしれない。
「おじいちゃん!」
唇をシールドの頬から離して、揺する。サイズの目には涙が浮かんでいた。
「おい、こんな事で死んだから俺が悪いみたいじゃないか! シールド、死ぬんじゃない」
勝手な事を言っていると要は思った。でもそれをツッコむ空気ではない。シールドは弱っているのだ。
「誰かシールドを助けられないの?」
エスパーダが黒星を、就を、能をみて、最後に要を見てきた。彼女が要を頼ってくれたのは嬉しい。でも要には解決能力はなかった。ただ希望を提供する事は出来た。
「俺の父、宿守応該なら何か知ってるかもしれない。こっちから連絡してシールドを見てもらうしかないと思う」
要が宿守応該の名を出すとサイズは身体をビクッとさせ、泣き止んでしまう。サイズの事を考えれば言うべきではなかった。でも要の取れる手段はこれしかないのだ。
「要さん、お願い出来るかしら」
マダムはシールドを助けるほうに舵を切った。
それがサイズにはショックだったらしい。
「イヤだよ。研究所に戻るのは……」
サイズは勘違いをしている。誰も彼女を宿守応該に突き出すとは言っていないのに。
「サイズ、落ち着くんだ」
就が声を掛けても不安と恐怖は拭えない。スクール水着のまま、サイズは玄関に向けて走っていった。
「うわあああーっ!」
就が止めに行こうとしたが、立つ動作で出遅れてしまう。その間に玄関のたたきへ下りる手前まで来た。
「あっ」
サイズは穴に足を取られて転んだ。ギリギリたたきに落ちる事なく、ケガもなさそうだ。
要も行ってみるとサイズの転んだ穴は、シールドが指を食い込ませて作った穴だった。間接的にシールドがサイズを足止めしてくれた。
「うっ……ううっ……」
サイズは再び泣き出した。シールドすら自分の味方ではないと思ったのだろう。
「あのね、サイズ」
要は説明を聞いてもらうために出来るだけ穏やかに呼び掛けた。これから隠れば大丈夫だと、そのためにはみんな協力すると。絶対に宿守応該に引き渡したりはしないと。
だが言うより前に入り口のドアが開く。そこには、白衣を着た男と、夏なのに黒スーツの一団がいる。
「捜したぞ、実験動物」
白衣の男が言った。
「あんた、誰だ?」
就が尋ねる。
「宿守応該。宿守研究所の所長をしている。お前達こそ誰だ?」
「宿守要。あんたの息子だよ」
要は怒気を込めて名乗った。




