一話 私達はダレてます
一話 私達はダレてます
夏である。
要とサイズはクーラーの効いた部屋から離れられないでいた。
「夏は部屋から出たくないよね」
「トイレも億劫になるし」
「それはまずいと思う。漏らさないでね」
辛辣な言葉を吐かれ、ショックを受けた要。尿意も便意もないのにトイレに行って、無駄に汗をかき、冷蔵庫にストックしておいたスポーツドリンクを浪費する。
「なんか飲んできたでしょ。ずるい」
おまけにエスパーダにバレて、彼女の分を取り分けるため、台所に行く。クーラー部屋と繋がっているとはいえ、暑かった。
サイズは持ってきた飲み物を一気飲みする。
「ぷはぁっ! これがお酒だったらなぁ」
「昨日飲んだろ。毎日は体に悪い」
「それも大人の醍醐味じゃん」
「後で買い物に行くんだ。酔っ払ってると足と頭も鈍る」
「晩御飯、何?」
「冷やし中華にしようと思ってる」
「昨日マグロ買ってなかった?」
「ライトハンドとレフトハンドから連絡があったんだ。そろそろ刺身よろしくって。夏だから味落ちるっと思うって言ったけど聞いてなくて。あ、サイズの銃も出来たってさ」
「サイズの銃なら能ちゃんちだね。刺身関係なくない?」
「なんかうちで集まろうって事みたい。能に話したら、サイズの服で良いのが出来たとか俺に自慢してきたな」
「ホーリエ・ヴィスコンティーの衣装か。ちょっとうらやましい」
「エスパーダには逆バニーがあるだろ」
「私ってエロ要員なの? たまにはちゃんとしたコスプレしたいわよ」
「能に頼めば良いじゃないか」
いつになく不満を言うエスパーダに、要は苛立った。暑さのせいかもしれない。
「能ちゃんは私にエロを求めてくるの。でも就君には頼れない。要以外に身体を見られるのはイヤなの」
確かに性的ではないにしろ他の男にフィアンセがジロジロ見られるのはイヤだ。残るは能を説得する事だが、能は決めた事はほぼやるタイプだ。エロと決まったらエロのままで行く可能性が高い。だが言う事を聞かせる方法はいくらでもある。
「何か食べ物で釣るか。金は当然のように要求してくるだろうし」
「刺身あるでしょ?」
「ライトハンド達と好みが違うから、無理だと思う。それに他の人間に流用したら、怒ると思うあの二人」
「そうかも」
笑い合った後、とりあえず言ってみる事にした。エスパーダは勇気が出ないらしく、要に丸投げだ。
「あ、お兄ちゃん? 明日行くよ」
「あー、エスパーダの事なんだけど」
「何? ケンカ?」
「いや、能がこの前サイズの服自慢しただろ。話したら、エスパーダも欲しくなってさ。ただ衣装がエロいのばかりだと困るって言うんだ」
「はて……エロい下着シリーズはお義姉様のご注文だったのだけど」
下着と聞いて、要はTバックを思い出す。電話はスピーカーにしていたので、エスパーダが顔を真っ赤にして吠えた。
「能ちゃん!」
「まあまあ、明日聞くよ。今、なんかサイズがはしゃいじゃって大変なんだよね」
勝手に電話を切られた。まだ本題に入ってないのに。
「えーと」
二人は気まずい空気の中、佇んでいた。




