一、夏休みに
むかしの。
ミーン、ミーン、ワシ、ワシとアブラゼミとクマゼミがないている。
あつい、あついとにかくあつい夏休みのある日だった。
小学校一年生のぼくは、お父さんの仕事のつごうで、転校してあたらしい学校に行くことになった。
新しい家はクリークとよばれる池みたいな場所に、コンクリートの橋がかけてあって、そこをわたったところに、でーんとあった。
それまで、ぼくたちのかぞくはアパートぐらしだったので、新しい家にぼくは、むねをわくわくさせていた。
新しい家といっても、新品というわけじゃなくて、ぼくらがすむ新しい家という意味で、そこは古ぼけたむかしの家だった。
ぼくは、さっそく妹のよしこといっしょに家をたんけんしてみた。
木でつくられた家は、土間があってそこにはむかしつかっていたかまどや、手で動かす井戸のポンプがあって、ぼくはむかしの人になったような気分になった。
ちょっとこわかったのは、トイレがボットンべんじょということだ。
ボットンべんじょは、底なしのような深い穴でぞっとする。
おしっこをすると、少したってから、ちょろちょろという音、ウンチをすると、パシャぼっとんという音がするんだ。
何より、こわい話で、トイレの穴におちて出られなくなったという人もいるって聞いていたから、夜は一人でなんか行きたくない。
トイレの事は気になったけど、この広い古い家はきにいった。
かべがこわれかかったり、たたみがよごれたりしていたけど、それは仕方がないと思った。
だって、古い家だもん。
昼ごはんを食べて、お父さんやお母さんが、引っこしの片付けでいそがしそうにしていた。
「ちょっと、外で遊んでおいで」
ぼくとよしこは外においだされた。
買ってもらった新品のこん虫さいしゅうセットを持って、いもうとと外にとびだした。
夏休みの自由けんきゅうに、こん虫のひょうほんをつくろうと思っていた。
さっそく虫をつかまえてやるぞとぼくは意気ごんだ。
ピカピカのはこには、ちゅうしゃき、赤い水、ピンセット、ルーペが入っている。
かっこいい。
「おにいちゃん、バッタだよ」
よしこが言った。
草むらに小さなショウユバッタがいた。
ぼくはりょうてで、さいしょのバッタをつかむと、いそいでちゅうしゃきに赤い水を入れて、バッタのからだにはりをうちこんだ。
バッタは急に元気がなくなりかたまった。
ちょっとふしぎな気がしたけど、ぼくはセットのはこにバッタを入れると、よしこと顔を見合わせて、にっこりとわらった。
「まだいるかも」
「うん」
ぼくらは、目をさらにのようにして、家のまわりにいる虫をさがした。
でもいたのは、だんご虫やミミズばっかりだった。
さすがに、うつのがもったない気がして、ちゅうしゃはしなかった。
ぼくの頭の中には、とのさまバッタや、きれいなちょうちょう、カブトムシにクワガタが、はこの中にいっぱいなならんでいるのをそうぞうしていたので、あんまり虫が見つからないのはがっかりだった。
それに、ちょっと、虫とりにあきてきたので、よいこに、
「たんけんしようか」
と言うと、
「うん」
と、答えてくれたので、また明日とこん虫セットを家において、いもうとと手をつないで、たんけんにしゅっぱつした。
家の目の前には県道があって、そのよこに小道があった。
ぼくらは、ずんずんと小道の方を歩いていく。
すると、道のまん中に、ぼくと同じ年くらいのぼうず頭の男の子が立っていた。
「こんにちは」
ぼくがあいさつすると、男の子はこくりとうなずき、にこりとわらった。
ぼくらが横をとおりすぎると、男の子はチラリとぼくを見て後をついてきた。
しばらく歩くと、道の横にくらいところがあった。
男の子はきゅうに走りだし、ぼくらをぬくと、くらい方へ行き、手まねきをする。
ぼくは、首をかしげたけど、男の子はうんとうなずいて、こっへ来いと言っているようだ。
くらいところなので、よしこの足が止まっていたけど、ぼくはゆうきをだして、ずるずるといもうとを引っぱって歩いた。
くらいところに行くと、光がさしこむ。
そこは木に囲まれた小さなあさいぬまだった。
ぬまのまん中には、くされかかった大きな木が横にたおれていた。
よく見ると、木には白いあやしいキノコが生えている。
それまで一度もしゃべらなかった男の子が、
「ここザリガニがいっぱいいるんだ」
と、じまんげに言った。
「ザリガニ!」
それまで福岡の団地にすんでいたぼくは、ザリガニというすばらしいことばに目をかがやかせた。
「つかまえる?」
「うん、うん」
うなずくぼくの、服のそでをよしこが引っぱる。
そうだった。
「あっ、でも、今はいもうととたんけん中だから・・・」
「じゃ、明日ね」
「うん、いいよ・・・えーっと、ぼく、だいすけ、君は?」
「おれは、まさ」
まさ君はにっこりと笑う。
さっそく、ぼくらにまさ君という新しい友だちができた。
まさ君もたんけんに参加してくれて、ぼくら3人が横一列になると、小道のすき間はなくなった。
おばさんが来ると、たて一列になり、通りすぎるとまた横一列になった。
曲がりくねったところまで歩くと、急に道がひらけてT字に道が分かれていた。
道の左がわにはスーパーみたいなお店があって、右がわには小さな神社があった。
お店のおばさんが、あついので道に水まきをしていた。
そのまわりには、水をのみにきていたのか、たくさんの青いちょうちょがキラキラとおどっていた。
ぼくとよしこはしばらくじっと、ちょうちょを見ていた。
そんなぼくらに、まさ君が、
「この店、かっこいいヨーヨーがあるんだ」
ぼくはヨーヨーという言葉にびんかんにはんのうした。
「へぇーいいね」
「見ていく?」
「でも、お金ないよ」
「そうかぁ、おれもないんだ」
おたがいお金がないんじゃ仕方ない。
「じゃ、また今度だね」
「うん」
ぼくらは、また歩きはじめた。
このあと、まさ君がアイスクリームを売っているお酒やさんや、公園、ぼくが行くことになる小学校をおしえてくれた。
たんけんぽくなかったけど、いろんなあそべる場所が分かってうれしかった。
思い出をそえて。