余り者でも福ガール! 【副題、もしくはあらすじ的なもの:十人衆に入れなかったエルフの私だけど悪運の強さで最強の仲間になっちゃいます!】
護国十人衆。
それはこの国を護る最強の10人に与えられる称号。
私、エルフのソーフィはその10人に入るため、厳しい修業を乗り越え、試験を受けた。
結果――。
「ソーフィ=オンス。不合格」
駄目だった。
一言で斬り捨てられた。
なんで、どうして、ダメなのよ!?
「肉体面、精神面、特殊能力、その他すべての要素を鑑みた結果だ。お前は基準を満たしていない」
試験官は冷徹に答えた。
私はガックリと項垂れ、城を後にする。
「うう……せっかくお城に士官して故郷に錦を飾ろうと思ったのに……田舎のお父さんもお母さんも、悲しむだろうなあ……」
これでも長命のエルフ族として、それなりに長い時間(多分、人間だと寿命が尽きるくらい)の修業をしてきたのに。
昨今の護国の戦士たちは、よほどレベルが高いのだろうなあ……。
仕方がない、私はせめて田舎に帰る前にこの城下町の華やぎを楽しもうとそぞろ歩いていた。
田舎者丸出しの私は、キョロキョロと辺りを見回す。
その時。
「お嬢さんお嬢さん。ちょっと良いですか?」
「ほへ?」
私に声を掛けてくる、身なりの良いオジサンがいた。
「あなた今、お城から帰ってきたところですね?」
「えっ、どうしてそれを?」
私はびっくりする。
するとオジサンは事もなげに答える。
「だってほら、胸にバッジを付けているじゃないですか。それ、士官のための順番待ちの札でしょう」
「あ」
うっかり、外し忘れていた。
そう、私が本日受けた護国の戦士、十人衆に入るための試験。
その順番待ちで私は胸にこのバッジを付けていたのだった。
「しかもどうやら、不合格になった様子」
「うぇぇ!? どうしてそこまで分かるんですか!?」
オジサンはにっこりして答える。
「ははは、表情を観れば分かります。それに、合格した者は城で説明を受けるはず」
「そ、そっか……そうですよね」
私は感心する。
そして、その次に彼に言われた言葉に、私はもっと驚く事になる。
「しかしですね……これはあなたにだけ教えるのですが……実は11人目の登用が可能なのですよ!」
「え、ええっ!?」
なんて事だ。
そんな補欠合格みたいな枠が、あるというのか?
私が驚いていると、オジサンはニッコニコで言葉を続ける。
「ええ、ええ。私に付いてきてくだされば、その口を紹介して差し上げます」
「ぜ、ぜひ!」
そうして。
私は、人さらいに、捕まった。
◆◆◆
「むー! むー!」
「ちょろいもんですねぇ」
猿ぐつわをハメられ、後ろ手に縛りあげられ、私は小さな小屋に閉じ込められていた。
口がふさがれているため、得意の呪文は使えない。
「なかなかの上玉だ。さていくらで売れるやら」
先程まで優しげな表情を浮かべていたオジサン……もとい、人さらいは、ニタニタと下卑た笑みを浮かべて金勘定に舌なめずりする。
仲間と思しき筋肉質の男も、私を見て野卑な表情でほくそ笑む。
「なぁ、売る前にちょっと愉しんでも良いんじゃないか?」
「おやおや。程々にするんですよ」
「んー! んんー!!」
私はこれから起こるであろう惨劇を想像し、涙目になる。
くそう。
こんな事になるなら、せめて最後に美味しいもの食べたかっ――
た、と思う間もなく。
どかぁああああん!!
「!?」
「な、なんだ!?」
小屋が、ぶっ飛ばされた。
外側からの強い衝撃で、私も人さらいたちもゴロゴロと転がる。
運よく、板切れか何かの鋭いモノが私の猿ぐつわと手枷・足枷を傷つけ、その拘束を緩めた。
「ぶはっ、はぁ、はぁ……」
必死で私は緩んだ拘束を振り解いて……そして、見た。
たった今、この爆発を起こした、その元凶を。
「あ……」
それは、炎を吐く、ドラゴンだった。
◆◆◆
「ぎゃあああああ!!」
汚い悲鳴を上げる私。
逃げる、逃げる、逃げ回る。
人さらいはどうやらドラゴンに美味しく食べられちゃったみたいなので(自業自得だよね!)、私はドラゴンのおかわりになる運命を全力で避ける。
だがしかし、執拗に追いかけてくるドラゴンは、今にも私の細く小さな身体を掴もうとする。
もう、駄目だ。
そう思った瞬間だった。
「たぁっ!!」
剣閃が、煌めく。
ズバッ、と鈍い音がしたかと思うと、ドラゴンの悲鳴。
「ギェエエエエッ!!」
私はその絶叫よりも、剣を携えたその人物に、目を奪われた。
「大丈夫か!?」
そこにいたのは。
「あなたは……ご、護国十人衆……"剣"のアイン!」
十人衆の中でも、最強との呼び声高い、剣術の使い手だ。
その爽やかな容姿も相俟って、私達エルフの中でも人気が高い……じゃなくって。
そうか。
きっとこの人、このドラゴンが街に来る前に、この郊外の森で戦って、倒そうとしていたんだ。
そして、運よく私の捕まっていた小屋までやってきて……。
「立てるか? 立てるなら逃げろ!」
アインは私にそう指示すると、ドラゴンに向かって剣を振るう。
私は言われるがまま、立ち上がり、踵を返す。
「あ、ありがとうございます! このご恩は必ず……」
言いかけた瞬間、ドラゴンは爆炎を口から吐き出した。
「ぐっ!」
アインはそれを自らの剣圧で切り裂き、回避する。
しかしその爆炎の一部は私の身に付けていたマントに燃え移り……。
「きゃーっ!?」
私は、大慌てで火を消そうとマントを脱ぎ、ばっさばっさと振り回す。
「馬鹿! それじゃ余計に燃え広がる! 上から押し潰して酸素の供給を断つか、そのまま捨てて逃げるんだ!」
「えっ、えっ」
咄嗟にどうすれば良いか分からず、私は。
「か、風の精霊さん、なんとかしてー!」
エルフお得意の、風の呪文を……唱える余裕もなく、懇願する形で魔法を発動してしまった。
すると。
ぶわぁっ!
私の守護を務めてくれている精霊の力が、暴発した。
それは今まさに延焼し始めている私のマントを巻き上げ、新鮮な酸素を供給する事で。
火球を、作り上げてしまった。
「え……」
そしてその火球は私の暴発した風の魔法の勢いに流され……ドラゴンめがけてまっしぐら。
その顔面に、直撃した。
ボゥワァアアアッ!
「グギャッ!?」
自らが爆炎を吐くとはいえ、まさか己の眼球に炎が逆に跳ね返されるなど考えてもいなかったのだろう。
さしものドラゴンも、一瞬怯んだ。
そして、その隙を逃すアインではなかった。
「はぁああああっ!!」
裂帛の勢いと共に、全力で剣を振り下ろし――
気付けば、ドラゴンは頭から一刀両断にされていた。
◆◆◆
「ありがとう、君。助かったよ。まさか俺の方が助けられるなんてね」
「あ、いえ、偶然ですけども……」
私はアインにお礼を言われ、照れながらも驚いた。
私の悪運の強さも、まあまあのレベルだ。
私が恐縮していると、アインは私の胸についた札を見て気付いた。
「君は……もしかして、城への士官にやってきたのかい?」
「あ、はい……落ちちゃいましたけど」
私は護国十人衆に入れなかった事、その帰りに人さらいに騙されて郊外の森に連れて来られたこと、そこに偶然通りがかったドラゴンとアインの戦闘により偶然、命を救われた事を語った。
「そうか……何というか、災難だったね」
この短時間で起きた無茶苦茶な身の上に、アインはちょっと苦笑しているようだ。
まぁ、私からすれば実はこの程度のトラブルは、しょっちゅうなのだが……。
「良くあるんです」
その度、私は運の良さで乗り切ってきた。
いやあ、でも本当に運が良いやつは、そもそもこんなトラブルに巻き込まれないけどね?
なので、やはり私の運というのは、悪運というべきなのだろう。
……私自身が悪い事してる訳じゃないのだから、不運と幸運のマッチポンプって言うほうがもっと正確な気はするけどね(それはちょっと長くて嫌だ)。
ともあれ。
私は、事の顛末を話し終えると、そのまま田舎へ帰ろうとした。
しかし、そこでアインが私に言った。
「なあ、そのまま帰るのは勿体ないんじゃないか?」
「え?」
でも、観光ならもう……。
私がそう言おうとすると。
「何なら、もう一度だけ、試験を受けてみないか?」
――どうやら。
私の悪運は、まだ尽きてはいないらしい。
(終わり)
ども0024です。
なんか随分久しぶりになろうに投稿した感じですね。
以前に投稿した『透明の檻』から1年4ヵ月も経ってる……。
えー、本作は『言葉遊び』で生み出した小説です。
まぁ僕の場合大体そうなんですけど……。
恒例の名前解説と併せて経緯を。
(1)なんとなく『数字』に関して調べる
(2)ドイツ語の『11』が『elf』であることを知る
(3)なんで?⇒『1余る』という意味がゲルマン祖語にあるらしい
(4)他のヨーロッパ言語を調べてみても大体そういうニュアンスが多い
(5)10人に入れない『余り者』の『エルフ』というキーワードから何か出来ないか考える
(6)余り物には福がある、からタイトルを考えて、そこからあらすじを考える
(7)ヒロインの名前をフランス語の『Surplus(余る)』『Onze(11)』から名付ける
(8)十人衆のキャラはドイツ語の『eins(1)』から。多分他のキャラもドイツ語で2~10なんでしょう(決めてない)
……てな流れでした。
まぁ、この流れなので、まだ先の話とかを全然考えてなくて、ここでいったん終わりです。
なんか先がありそうな終わらせ方ですが、マジで何も考えてないので……。
ちょっとここしばらくは『読書』の方に集中してるのもあって、執筆活動ってあんまり出来てないんですよね。
ノクターンのほうも去年12月以来、何も書いてないし……。
強いモチベーションが生まれたらまた、何か連載とか、いつも通り短編をつらつらと書いてみたいところです。
ではでは。