一週間に一度の幸せ
夏の空は青く、太陽の光がキラキラと輝く。放課後の校内は静かで、グラウンドから部活動をする生徒達の元気な声が聞こえてくる。
階段を上り屋上への扉を開ける。
びゅうっと冷たい海風が吹き、腰上まである長い髪とスカートが揺れた。目の前にはお互いを写し合いながら輝く海と空。丘の上に建つこの学校からは綺麗に澄んだ海がよく見える。誰もが羨ましがる青春時代を送るのに相応しい場所だ。
色々な音が耳を通過していく。一つ一つの音に意識を向け、その中で最も好きな音が聞こえてきた。
「お待たせ」
頭の上に大きな掌が乗っかる。振り向くと、そこには大好きな恋人の笑顔。
「先輩!こんにちは!あれ、もうこんばんは?」
首を傾げるわたしを見ながら、彼はハハッと楽しそうに笑みを浮かべる。
フェンスに寄りかかりながら他愛もない会話をする。週に1回の大切な時間。
「明日から夏休みだね。もう予定は立てた?」
「うん!お祭り、プール、海、それと・・・」
「ふふ、楽しそうだね」
楽しそうに夏休みの予定を話すわたしを、彼は愛おしそうに見つめる。その表情が大好きで、会話なんてなくても見つめ合うだけで心が満たされる。このまま時が止まれば良いのに、と幾度となく願った。
先輩はあと半年ちょっとで卒業してしまう。それまでに学校で共に過ごした思い出を増やそうとこの時間を作った。晴れている日はこの屋上で、雨の日は屋上前の階段で話をする。短い時間だけどこの日が待ち遠しくて、幸せで、わたしの生きる活力になっている。
夏休みに入れば本格的な受験シーズンになる。そうなれば先輩ともなかなか会えなくなってしまう。今も、こうして勉強をする時間を削って会ってもらっている事に、申し訳ない気持ちと感謝の気持ちが混ざって時々泣きそうになる。
この大切な時間も、一緒にいられるのは夕日が完全に沈む手前まで。
オレンジ色の光が彼の横顔を照らす。もうすぐお別れの時間だ。寂しい気持ちが湧いてくるが、この寂しさにも慣れてしまった。
「そろそろ帰りましょうか」
フェンスから離れくるっと体を向けたその瞬間、彼の腕がわたしを優しく抱き寄せた。
「まだ、一緒にいたい」
すっぽりと腕の中に収まり彼の匂いに包まれる。ぎゅっと強く抱きしめる腕は、壊れものに触れるかのように優しい。わたしも大きな背中を抱きしめ返す。
「このまま時間が止まれば良いのに」
思わず零れた言葉に、彼も頷く。
「今日はずっと一緒にいよう?」
その言葉に埋めていた顔を上げる。彼の瞳は涙で濡れ、淡く輝いていた。
ゆっくりと降りてくる彼の顔を合図に自然と目が閉じる。唇が重なり合い、どんどん深くなっていく。とろけるような心地良さと刺激的な熱さで頭がぼんやりする。少しだけ瞼を開けて彼の表情を見ようとすると、その瞳はわたしへと注がれていた。恥ずかしさが込み上げてきて顔を離そうとしたが、彼の両手が頬を包み、それを許してくれなかった。お互いに見つめ合いながら唇を包み、幸せな時間が続く。
夕日は沈み、もうすぐそこに夜が迫っていた。