入学式2
序盤は割としっかり構想が固まってるので、そこそこのペースで投稿できそうです。
「おはよ」
「....」
当然のごとく言葉は帰ってこなかった。それどころか、そもそも俺の存在を認知していないかのようにスタスタと歩き始めてしまう(これもいつものことだが)。普段であれば俺も気にせずに一人で学校へ行くのだが、今日は気が向いたので小走りで追いかけることにした。
「また同じトコだな」
「...そうね」
「三年間よろしくな」
「....」
「もしかしてクラス一緒だったり」
「......チッ」
おっと。本編開始早々、メインヒロインが舌打ちとは感心しないぜ?なんてったって作品の顔なんだからな! なんて心の中でツッコミを入れている内に美冬は歩くペースを上げてきたので、こっちも少し早めに歩く。
なにせ俺は以前の俺とは違うのだ。こちとら女子との付き合いを、より大事にすると決めた身。たとえその女子が、会話は成立せず、俺の前じゃ常に仏頂面の、「可愛らしさ」 という概念の存在しないやつであったとしても、そこから可愛い子に繋がる可能性があると思えば、なんてことないのさ。...我ながら言ってることゲスいな。
そして今更ながらに、「そうね」の一言のみとはいえ返事をした美冬に驚き、その顔を覗きこむ。
...うむ。いつ見ても思うが、この女ルックスに関して言えば滅茶苦茶ハイスペックなんだよな。出るとこは出てて引き締まるところはしっかり引き締まってるボディライン。きめ細かい肌に切れ長の目と長いまつげ。艶やかな髪と口元のホクロが男心をくすぐってくる。
その上コイツ、学校やうちの両親の前だと、同一人物だと認識できないレベルで猫かぶりしてきやがる。そのせいで俺の周囲での評判は、現実と乖離しすぎて逆に自分の脳を疑うレベル。中学時代のあだ名は女神で、噂によると美冬に告白しようとする男子を狩る男子グループも存在したらしい。その存在は憧れを通り越して、最早畏れ多いレベルで、逆に言い寄る男は少なかったという。
あ、おいおいまてまて。きっと今、俺のことを、「学校きっての優等生美女ヒロインの幼馴染みで、普段猫被ってるヒロインが唯一素面で接してくる系の主人公」 って思ったろ?
うん、俺も当時思った。当然だろ?だってヲタクだし。それで一度、
「俺にだけ猫被らないのって、何か理由でもあるのか?」って聞いたんだが、その答えはなんと
「...メリットある?」でした。(ちなみにその一言を引き出すために「言わなきゃ本性言いふらす」 と脅したら、以降数週間、目が合うたびに般若の如き形相で睨まれた)
それなりに長い付き合いの中で理解したのだが、アイツの行動基準は基本的に、自分にメリットがあるか否かなのだ。...それはつまり、あの女にとって俺は「猫かぶりをする価値すらない存在」 なわけで。
さて読者諸君よ。これでも君等は俺への認識を変えないかい?もし変えないってんなら、その時はとき〇モ辺りで本当の幼馴染みを知ってくると良いさ。認識変わるから。いやマジで。
そんなこんなで、その後特に何か話すわけでもなく、歩いて、電車に揺られ、更に歩いて、校門前に到着。それなりに余裕をもって家を出たのだが、そこはもう新入生であふれかえっていた。教員の指示に従い、奥の張り紙で自分のクラスを探す。上の方にあったので案外すぐ見つかった。B組である。工藤家に生まれたことをほんのちょっとだけ感謝しながら、そういえばアイツは何組かな、なんて考えた次の瞬間、ほんの一瞬、そしてすぐ隣にいてもギリギリ耳に入る程度の大きさで、ソレは聞こえた。
「......しね」
全てを理解した。そして溢れんばかりの呪詛から逃げるように、急いで教室に向かった。
教室に荷物を置き、体育館に向かう。時間通りに始まった入学式はつつがなく終わった。一つイレギュラーを挙げるならば、特定の一人から呪いをかけられ続けたことぐらいであろうか。あ、ちなみに言っておくと、新入生代表の言葉はアイツがやったぞ。そこに関しては全く驚かなかった。あの天才を超えるバケモノが、そうそういてたまるか。もちろん壇上の上のアイツに、つい先ほどまでの面影は皆無であった。
入学式を終え教室に戻り、少しした後で若い女教師が入ってきた。街中で100人に写真を見せて、第一印象を聞けばその全員が「おっとり」 と答えそうな、そんな人だ。
「1年B組の担任になりました、白坂綾乃と言います。今年1年よろしくお願いしますね」
本人の性格がにじみ出ているかのような、なんとも優しい声だった。これは間違いなく当たりを引いただろう、と心の中で確信する。特にその豊満なおっpp...おっといかんいかん。リビドーはベッドの上までは隠しておくものなんだぜ?
学校からの諸連絡が済み、案の定自己紹介の流れになった。脳内で、昨日考えた文を何度も繰り返しながら、自分の番を待つ。安心しろ、安心しろよ工藤院。俺は黄金の精神の持ち主なのだから。
「次、工藤君お願いします」 という白坂先生の言葉を聞き、ゆっくりと立ち上がる。
「工藤輝幸です。体を動かすことが好きで、あと休日はよくショッピングに出かけます。皆さんと助け合って、楽しい学校生活を築いていきたいと思っています。これからよろしくお願いします」
最後に軽い微笑みを加えて、うむ。まぁ良い線いったのではなかろうか。少なくとも、中学の時とは違い、明らかに「うわぁ...」 な顔をしている人はいな....おいそこの美女、せっかくのお顔が台無しになってますわよ。
ったく人が必死に考えたってのに。まぁ、俺がどんな自己紹介をしようが、アイツは同じ顔をしたに違いない。そう考えれば、むしろ100点満点だったと言っていいね。よくやった俺。
え?美冬ちゃんの自己紹介はどんなだったかって?そんなの知っても何の意味もないぞ。あと美冬ちゃんって呼び方若干キモいからな。
あぁ?どうしても知りたい?そこまで言うんならいいけどさ。...一言で言うならそう、
「goddess」 だったよ。
ちなみに輝幸君に女教師のシュミは無いので、本作品において白坂先生がヒロインになることはありません。
しかし、我らがメインヒロイン美冬ちゃんにとって、白坂先生の筑波山(意味深)がラスボスになることは最早確定事項と言っていいでしょうね。