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撲殺その5      聖痕の進化 その1

「ゴテ盛りマシマシ一丁、おまち!」


 世間では一般的なお盆休みの終わりとなる八月十六日。


 厄介な仕事のために召集されたレベッカは、気合とエネルギーのチャージのために、ゴテ盛りマシマシで有名なラーメン屋の潮見支店を訪れていた。


「なるほど……」


 目の前に出された野菜山盛りのラーメンを見て、何やら納得した様子を見せるレベッカ。


 レベッカの第一印象は、イメージより少ない、であった。


 これはお代わりせねば足りないと考えながら箸をとる。


 そのまま、たとえゴテ盛りマシマシだろうとラーメンである時点で飲み物だ、と言わんばかりの勢いで、あっさり一杯目を平らげる。


 その勢いでもがっついて見えないのは、もはや熟練の技であろう。


「すいません、お代わりお願いしてもよろしいでしょうか?」


「ゴテ盛りマシマシ一丁追加!」


 五分ほどで平らげたレベッカに内心で驚きつつも、表面上は平然とオーダーを通す店員。


 この店は回転率の高さもあって常に麺を茹でているため、追加オーダーも比較的すぐに出てくる。


「へい、おまち!」


「ありがとうございます」


 店員に礼を言いながら出された追加の一杯に箸をつけ、先ほどと同じペースで平らげていくレベッカ。


 内心では、三杯目に行くかどうか迷っている。


 というのもこの店、客がまるで軍隊か何かのごとく黙々とラーメンを食べて出ていき、注文と支払い以外で一切声を出さないのだ。


 どう考えても長居するような店ではなく、だがもう一杯ぐらい食べておかねばエネルギー切れを起こす可能性がある。


 が、そんな内心の葛藤も食べ終わるまでのこと。


 両隣の客がどんぶりの中身をひっくり返して麺を上に持ってくるという、今まで食べたラーメン屋では見たことのない行動をしたのを見て、あれを試さねばともう一杯注文することを決める。


「もう一杯お代わりお願いします」


「ゴテ盛りマシマシ一丁追加!」


 三杯目ともなると、さすがに店内の客、どころか入口で待っている客からも注目を集めるが、その視線は長居しやがってではなく、あれをまだ食えるのか、という類のものである。


 そもそも、レベッカの滞在時間は現時点でまだ十分少々。


 一般に言われているリミットまではまだ届いていない。


「へい、おまち!」


「ありがとうございます」


 店員に礼を言いながら出された追加の一杯に箸をつけ、周囲の客の真似をしやすいよう調整しながら食べ進めていくレベッカ。


 麺と野菜をバランスよくほどほどに減らしたところで、箸を器用に使って中身をひっくり返す。


 初めてとは思えない見事な動きに、何故か店内で感心のどよめきが広がる。


 恐らく修道服着用の外国人シスターが、箸を器用に使いこなして迷いなく作業をやり遂げたという珍しい光景に、妙な感動があったのだろう。


 そのタイミングで、脳内に妙な声が聞こえてくる。


《総摂取カロリー及び総消費カロリーが規定値を超えました。聖痕の機能を拡張します》


 そんな声に、食べるペースを維持したまま内心で首をひねるレベッカ。


 余剰カロリーが聖痕に蓄えられていることは知っていたが、機能拡張などという要素があるとは思ってもみなかったのだ。


(聖痕の機能拡張ですか……。まあ、どうせ今すぐに確認できる訳でもありませんし、後回しにしましょう)


 そう結論を出し、そのままペースを落とすことなく、食事を続けるレベッカ。


 三杯目だというのに全く衰えない食事スピードに更に周囲をどよめかせながら、野菜くず一つ残さず奇麗に完食して食後の挨拶を済ませ、会計のために立ち上がる。


 この店は最新のキャッシュレスシステムを導入しているので、パソコンを持ち歩いていればこのまま店を出ても支払いは終わるのだが、ちゃんとそのあたりの設定ができている自信がないので現金で普通に支払うことに。


「ありがとうございました、またのお越しを」


 なぜか腹のあたりを凝視しながら会計作業をしていた店員の声を背に、店を颯爽と出ていくレベッカ。


 その背中には、例のファッショナブルなリュックが背負われている。


 この日、レベッカの強烈なビジュアルとセットで、新たな都市伝説が誕生したのであった。








「本日は突然の招集に応えていただき、ありがとうございます。宮内庁の宮内と申します」


 店を出て十数分後。指定された集合場所で依頼人と落ち合う。


「レベッカ・グレイスです。特に用事はなかったので招集自体は問題ないのですが、一体何が起こったのでしょうか?」


「それは車中で説明させていただきます」


 依頼人に促され、用意されていたリムジンに乗り込むレベッカ。


 車中には、壮年の神主らしき男性と三十歳前後の僧侶の男性が居た。


「ふむ。その方が近ごろ活躍なさっている、撲殺聖女殿か」


「いろんな意味で、拙僧では手も足も出ませんね」


「私の場合、間合いを保てればどうにかといったところか。無手で立ち会う羽目になれば、秒で負けが確定だな」


 乗り込んできたレベッカをじっと観察していた神主と僧侶が、感嘆のため息とともにそんな評価を口にする。


「あの……?」


「ああ、申し訳ない。今回ご一緒させていただくことになった、公門城くもんぎ十六夜いざよいだ。大潮おおうしお神社の神主をさせていただいている。A級の退魔師ライセンスを持っている」


「拙僧は山野辺法晴やまのべほうせい。立石山の法健寺で住職をさせていただいております。同じくA級の退魔師ライセンスを持っています」


「これはどうもご丁寧に。どうやらご存知のようですが、私はレベッカ・グレイス。バチカンから派遣され、四月末から聖心教会でお世話になっています」


 レベッカの戸惑いに気が付いた十六夜と法晴が、レベッカが馴染めるようにと自己紹介をする。


 二人の自己紹介に合わせてレベッカも自己紹介を済ませ、ようやく仕事の話に移る。


 その間にもリムジンは静かに走り続け、高速道路へと入って行く。


 なお、大潮神社は大きな塩の塊を御神体とする潮見で一番古い神社で、法健寺は聖心堂女学院のある立石山の山頂付近にある真言宗の寺である。


「それで今回、わざわざ三人もA級を集めて、一体何を祓うのでしょうか?」


「先日、宮内庁で管理している祠の一つで鬼の封印が解けてしまい、強力な霊障が発生しました。現在は結界を多重に張って抑え込んでいますが、それも長く持ちそうもないのでこの際祓ってしまおうということになりました」


「なるほど。三人で足りますか?」


「分かりません。ですが、結界を張った方によると人数が多いのは逆に不利になるそうですし、そもそもA級をそんなにたくさん集めるのは不可能です」


「そもそも、今回この三人が集まれたこと自体、奇跡とは言わないがかなり運がいい。これ以上はどうにもならん」


 レベッカの疑問に対する依頼人の答えに、十六夜が補足で私見を告げる。


 実際問題、比較的手が空いているレベッカですら、少なくとも週に三回は呪われた品の解呪だの除霊に失敗して手に負えなくなった悪霊の始末だのに駆り出されるのだから、高レベルのエクソシストがそんなに簡単に集まれないのはよく分かる。


 何より彼らのようなA級ライセンス持ちが駆り出される案件は、大部分がもっとヤバい問題が起こったから後回しに、とはいかないものだ。


 後回しにできる案件も他の人材ができる訳でも永遠に先送りできる訳でもないので、結局は緊急案件を片付けた後、霊力だ何だが回復したらすぐに処理しなければいけない。


 今回も、正真正銘何も予定が入っていなかったレベッカはともかく、十六夜と法晴は限界近くまで先送りしていた案件を処理する予定だったのをさらに先送りにして招集に応じている。


 この業界は誰でもできる仕事ではないだけに、かなりギリギリのところで回っているのである。


「シスターは系統が違うのでピンとはこないでしょうが、鬼というのはこの国でトップクラスに強く厄介な存在です。今回は伝承もほとんど残っておらず名前も失われ弱体化した鬼ですが、弱体化していようと鬼は鬼です」


「こちらで言うところの、ちゃんとした悪魔だと思っておけばいい訳ですね?」


「そうですね。その理解で問題ないでしょう」


 法晴の説明で、相手の危険度を大体把握するレベッカ。


 この期に及んで人間の範疇に入る連中しか動いていない時点で、プリムより強い可能性はあってもしぶといということは無さそうである。


 もっとも、この件に関しては、いくら真祖とはいえ吸血鬼のくせに最下級の邪神を仕留められる威力の浄化を食らって、灰になるだけで普通に復活するプリムがいろいろおかしいだけだが。


「後はもう、現場を見ないことには何もわかりませんね」


「そうだな」


 互いの得意分野や持ち込んでいる道具類などの情報交換を終え、レベッカと十六夜がそう結論を出す。


 今回は珍しいことに、現場の状況に関してもデータが沢山そろってはいるが、この手の仕事は時間経過で大きく変わるため、リアルタイムではないデータは参考程度にしかならない。


 そんな話をしている間に、いつの間にかリムジンは高速を降り、山道に入っていた。


「ふむ……」


「これはなかなか……」


「人間の手に負えないかもしれず、うちの理事長だと単なる泥仕合に終わって、神仏が出しゃばるには足りない。また、実に絶妙なラインですね」


 現場が近づいたところで、漂ってきた瘴気に反応する十六夜、法晴、レベッカの三人。


 まだ目視できる距離ではないのだが、それでもはっきり察知できるあたり、かなり厄介な状況なのは間違いない。


「さすがにこのレベルになると、聖水を撒いても焼け石に水ですね」


「ああ。だが、何もせずに鬼と戦うのも、相手に有利過ぎてぞっとしない」


「そもそも、拙僧ではあの中に長居はできませんね」


 濃厚な瘴気を前に、真剣な顔でそうささやきあうレベッカ達。


 ここまでくると、霊感も霊的守護もない人間が迷い込めば数分経たずによくて呪われて人格を乗っ取られ、悪くすれば即死して死体を操られる。


 場所が普通の人間は入り込まないような山奥なのですぐに問題になることはなかろうが、登山客や地元の猟師などが迷い込まないとも限らないし、何より徐々に瘴気が濃くなり範囲も広がっている。


 放置するなどもってのほかのだ。


「私なら、カロリーが持つ間はあの中にいても大丈夫です」


「そうなのか?」


「はい。私が授かった聖痕は、余分にカロリーを消費することと引き換えに、呪いや瘴気を完全に遮断してくれます」


「ふむ。となると、相手の強さ次第だが、主戦力はシスターにお願いすることになるか」


「お任せください。ですが、私はどちらかというと単体相手に特化した戦力ですので、取り巻きがいるとどうしても手間取ります」


「基本的に、ボクサーの動きで立ち回るのだったか。ならば、取り巻きの間引きは私が。法晴殿は我々の補助を頼む」


「それが拙僧の得意分野です。お任せください」


 ざっくりした役割分担を終えたところで、リムジンが山頂付近のドライブイン跡の駐車場に停まる。


「ここからは歩きだと思っていたが、その必要は無さそうだな」


「そうですね。ただ、やはり結構な数が居ます」


 窓から見える鬼達の都を見て、渋い顔で状況を確認する十六夜とレベッカ。


 大部分は単なる怨霊だが、鬼になりかかっているものも数人いる。


「これは、しっかり事前準備をして挑まねばいけませんな」


「うむ。とはいえ、話を聞く限り、シスターはこれと言って大層な準備は必要なさそうだし、私もせいぜい軽くお清めを済ませれば問題ないが」


「となると、拙僧が一番手間がかかりそうですな」


 そう言いながらリムジンを降り、後続のライトバンから大量の荷物を降ろす法晴。


 降ろした荷物を組み立て、簡易ながらなかなかに立派な祭壇と篝火を作り上げる。


「読経が終わるまでしばらくかかりますので、その間に準備をお願いします」


「ああ、分かった」


「分かりました」


 法晴の言葉にうなずき、持ってきていた刀の手入れを始める十六夜。


 その隣で、ラーメンだけでは足りないかもという危機感のもと、ブロックタイプのバランス栄養食や十秒チャージ系の高カロリー食を胃袋に送り込むレベッカ。


 こうして、着任後二度目となる高難易度の浄化作業の準備は着々と進んでいくのであった。








「オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン」


 法晴の光明真言が、あたりに響き渡る。


 最後の一音と同時に鬼達の都を多数の仏が取り囲み、浄化作業の幕が上がった。


「始まったな」


「すごいですね……」


「法晴殿のとっておきの一つだからな。さて、こちらもやるか」


「はい」


 十六夜の言葉に一つうなずくレベッカ。


 もっとも、彼女が聖痕を全力で発動させるのはもう少し後、十六夜の手により雑魚の間引きを終えてからである。


「では、やるか。絶空来迎剣ぜっくうらいごうけん、発!」


 御神刀の腹に指を添わせて神気を込めながら、気迫のこもった声で技名を言う十六夜。


 十六夜の言葉で、御神刀が日の出の太陽のような黄金色の光に包まれる。


「雑魚を殲滅すると親玉にはかけらもダメージが通らんが、そっちはシスターに任せる」


「お任せください」


「では、一気に行くぞ。はっ!」


 後はレベッカに任せればいい、ということで、全身を使った大振りの横薙ぎを体力と神気全てを使って威力を増幅して放つ十六夜。


 都の周りでかごめかごめをしている仏達の助力により、東京ドーム一個分ほどの広さがある鬼達の都をきっちり薙ぎ払うことに成功する。


 建物も全て吹き飛ばされ、後には巨大な鬼がただ一人、ぽつんと残されていた。


「私の仕事はここまでだな。後は頼む」


「任されました。では、行ってまいります」


 諸々を出し切って膝をつく十六夜をその場に残し、憤怒の表情で近寄ってくる鬼に歩み寄るレベッカ。


 この時点ではまだ、聖痕を発動していない。


 互いの距離が三十メートルほど近づいたところで、鬼が大きく跳躍してレベッカに襲い掛かる。


「やはり、この期に及んで言葉は不要、ということですか」


「ぬかせ! 俺が俺であっただけで封印をした人間も、邪悪だと断定した神仏も、皆滅ぼしてくれる!」


「鬼がすべて悪ではないと知っていますので、あなたが封印されたのはされただけの理由があったと思うのですが」


「そちらの勝手な分類など知るか! 俺は生きるために肉を食っただけだ!」


「なるほど。何となくわかりました」


 ここまでの短い会話で、この名もなき鬼がどういった存在だったのかを理解するレベッカ。


 己のなすべきことを悟り、自然と両手を祈りの形に組む。


「主よ、再びこの両手を血に染めることをお許しください」


 その祈りの言葉と同時に、辺りにベートーベンの運命を思わせるBGMが鳴り響く。


 BGMに合わせて修道服でも隠しきれていないグラマーで肉感的なボディラインを強調するかの如くレベッカの全身が光り、その豊かな胸の谷間から聖痕が浮かび上がる。


 浮かび上がった聖痕がレベッカの左右の拳に宿り、足元から吹き上がった風が修道服の裾をはためかせベールを吹き飛ばす。


 ベールが吹き飛んだ拍子に三つ編みがほどけたらしく、素晴らしい金髪が風にたなびく。


 その場を濃密な神気が包み込み、レベッカの戦闘準備が整った。


「さあ、互いの罪を清算しましょう」


「俺は罪など犯していない! お前だけ、その身体で俺を慰めた後命を持って罪を清算すればいい!!」


 ピーカブースタイルで構えを取りながら微妙に白々しい言葉を告げるレベッカに対し、やたら強力な浄化の光に押されて様子見せざるを得なかった鬼が、本気で激怒して金棒を振り下ろす。


 見え見えのその一撃を華麗なフットワークで回避し、殴りやすい位置にあった太ももの当たりを軽くジャブで殴る。


「そんな軽い一撃が効くか!」


 レベッカの一撃を無視して、無理のある動きで強引に金棒を横薙ぎにする鬼。


 その動きが致命傷となる。


「ならば、ここですね!」


 しゃがみ込むことで鬼の攻撃を回避したレベッカは、あろうことか非常に殴りやすい位置にあった鬼の股間にラッシュを叩き込んだのだ。


 鬼と言えども男は男。その大きく立派な、人間なら肩に担げるほどの大きさの逸物を全力で殴られれば、ただで済まないダメージを受ける。


 グローブもなしで妙なものを殴っている生々しい感触を一切気にせず、鬼にうずくまる暇すら与えず逸物にラッシュを叩き込み続けるレベッカ。


 途中から興が乗ったか、ジャブやフックですらコークスクリュー的な捻りを入れ始める。


 シスターでエクソシストのやることとは思えない、悪魔の所業である。


 その間もBGMは流れ続ける。


 すでに鬼は、いろんな意味で再起不能であった。


「なかなか丈夫ですね。やはり、生命的な意味での急所ではないのがいけませんか」


 再起不能ではあっても浄化による消滅までは至っていない鬼を見て、逸物を殴る手を止めずにそんな物騒なことを言うレベッカ。


 先ほどの神への懺悔はどこへ行った、と言いたくなるほどの残虐さである。


「では、素直に顔面を行っておきますか」


 そろそろ頭が下がってくるだろうと一旦ラッシュをやめ、バックステップで距離を置くレベッカ。


 レベッカが下がってできたスペースに、膝をついて倒れ込む鬼。


 鬼が完全に倒れる前、ちょうど顔面が殴りやすい位置に来たところで、レベッカが再び容赦のないラッシュを始める。


 それに合わせてBGMの盛り上がりが最高潮に達する。


 レベッカのラッシュは鬼の顔面が完全に崩壊するまで続けられ、普通の生物なら確実に死んでいるというところまで粉砕されたところでようやくコークスクリューのストレートを放ってもらって解放される。


 最後の一撃で鬼の体が光に包まれ、爆発するかのようにあたり一帯に広がる。


 それによって異界化していた鬼の都が、完全に浄化されて元の空間に戻る。


「主よ、この哀れな子羊に救いの手を」


 恒例となった白々しい祈りの言葉に合わせて仏達が帰ってゆき、BGMが最後のフレーズを鳴らして終わる。


「……シスターは、その、ずいぶんと容赦がないのだな……」


「普通に殴っても埒が明かない感じでしたので」


「……いやまあ、そうなのかもしれませんが、同じ男としてあれはちょっと……」


「封印される前の行いに対しての天罰です」


 アルカイックな笑顔で十六夜達の抗議をばっさり切り捨てるレベッカ。


 敵対している相手にそんな情をかける必要はない、というのもあるが、生命維持でも種の保存でもない理由で大勢の女性をなぶって殺した鬼の逸物にする配慮など一切ない。


「……まあ、それはそれとして。聖痕を発動してから勝負が終わるまで流れていた曲は、シスターが鳴らしていたのか?」


「いえ。そもそも音楽機器を持ち込んでいません。ずいぶんタイミングがいいなとは思っていましたが、皆様ではないのですか?」


「ああ。私と法晴殿もシスター同様、音楽機器は持ち込んでいないからな」


「指定がなかったので、我々宮内庁もその手の機材は持ち込んでいません」


「そうですか……」


 意味不明な状況に、全員で首をかしげる。


 この人数が聞いているので、聞き間違いということはなさそうだ。


 エンジンが止まっているので、カーラジオというのもない。


 この手の霊障が発生しているときは大体電子機器は機能停止するので、パソコンもあり得ない。


「状況的にシスターしかありえないが、何か心当たりは?」


「そうですね……。そういえば……」


「何かありましたか?」


「ええ。よくよく考えれば、お昼の時に頭の中に『聖痕の機能を拡張します』という声が鳴り響きましたが、それが関係しているのかもしれません」


「なるほど、聖痕の機能か。何か効果があるのかもしれないな」


「御仏の皆様も楽しそうになさっていましたので、今回鬼が驚くほどあっさり終わったことに影響している可能性はありますね」


「ですね」


 十六夜と法晴の言葉に、期待を込めて頷くレベッカ。


「なんにしても、流石にお腹が空きました」


「そうだな。シスターのことを考えると、大盛りか食べ放題の店がいいか」


 もともと一戦ごとに絶大なカロリーを必要とするレベッカと、大技にかなりのエネルギーを消耗した十六夜が、耐えられないほどの空腹を訴える。


「そのあたりはこちらで手配してありますので、ご安心ください」


 腹ペコの二人に対し、心得ているとばかりに口を挟む宮内さん。


「それにしても、十六夜殿が空腹を訴えるのは、初めてですな」


「普段はここまでの大技は必要ないからなあ。法晴殿は大丈夫か?」


「拙僧の場合、霊力とカロリーは無関係ですからなあ」


「なるほど、羨ましい限りです」


「拙僧としては、いくら大量に必要とはいえコストが食事だけで済むことの方が羨ましいのですがな」


「隣の芝生は青く見える、というやつだな」


「ですなあ」


 そんな和やかな会話を続けながら、帰路に就く一同。


 その日、貸し切りにしていたホテルのディナーバイキングは、一人のシスターによって食材を食いつくされる羽目になるのであった。

作者は次郎系の店に入ったことがないので、適当に聞きかじりで書いています。

料金の支払いも食券なのかレジ清算なのか不明だったので、勝手にオリジナル設定でやってます。

宏達の日本では、次郎はこういうシステムだということにしておいてください。


なお、処刑用BGMは単なる演出で、レベッカのテンションが上がる可能性があること以外に特に効果はありません。


後、作中のレベッカの所業に関しては、気が付いたらああなってました。

本人曰く「急所をノーガードでぶらぶらさせているのが悪いのです」だそうです。

封印される前にその方面でもいろいろ悪さしていたようなので、股間に取り付いてた様々な無念により罰が当たったということで一つ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 毒の強いボケキャラが欲しいと思うフェアクロ中毒者
[一言] BGM。。。 どぶろっくのあのネタのオペラバージョンが思い浮かんだ
[一言] ヒエッ(玉ヒュン) 因果応報でしょうし、殴りやすい位置でもあったのでしょうけど、直視して何度も殴れるってのも相当という気も……
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