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撲殺その4      聖女レベッカ、出張する

「日本にも、こういう雰囲気の街があるんですね」


 世間一般の学生が夏休みに入ったある日。


 所属組織からの指令を受けたレベッカは、朝から隣の県のとある街を訪れていた。


「さて、まずは目的地の教会に向かう前に……」


 そうつぶやきながら路地裏に目を向け、胸の前で祈るように手を組むレベッカ。


 その路地裏には、あまりよろしくない気配が濃厚にたまっていた。


「まずは取り急ぎ、ここだけは祓ってしまいましょう」


 そう言いながら、聖痕を起動させようとして動きを止める。


 少し考えこんだのち、例のファッショナブルなリュックからペットボトルの水を取り出して、その場に雑にまき散らす。


 レベッカの第一印象よりかなり弱かったようで、その場にとどまっていた怨霊の大部分があっさり浄化される。


「ここぐらいだと、この程度で十分でしたか」


 そう一つうなずくと、もう一本ペットボトルを取り出し、さらに雑にまき散らす。


 二本目を撒き終えたところで、路地裏の浄化を終える。


「ついつい聖水をケチりそうになりますが、日本だと水は格安なので、下手をするとこっちの方が低コストなんですよね……」


 完全に浄化が終わったのを確認したところで、思わずそんな感想をつぶやくレベッカ。


 飲める水にこだわる必要はないとはいえ、アメリカでは州によっては水道水も結構高い。


 つい先日、ホースを使って聖水を垂れ流しにするというやり方で問題解決をしたレベッカだが、そのあたりの感覚はまだ完全に日本仕様にはなっていないようだ。


「しかし、駅前がすでにこの状況となると、今回のお仕事は色々と先行きが不安ですね……」


 そうこぼしながら、念のために近くの水道で聖水を補給し、目的地であるこの街の教会へと向かうレベッカ。


 こうして、日本に来て初めて治安が悪い地域、というものを目の当たりにすることになる、難儀な依頼の幕が上がるのであった。








「ここが例の教会ですか」


 神の愛などまるで届いてなさそうなぼろぼろの建物を見上げながら、どことなく無を感じさせる表情でそうつぶやくレベッカ。


 見た目の時点で先方の事情をいろいろ察してしまうような惨状だが、それ以上にこびりついている念のようなものがレベッカの表情を奪う。


 自分も大概信仰心は薄いが、この教会を預かっている人物も別方向でヤバそうな気配がプンプンに漂っている。


 が、まごまごしていてもしょうがないので、インターホンを押す。


「また来たな、悪党ども!!」


「こら、待ちなさい!!」


 インターホンが鳴ると同時に、小さな子供の叫び声とともに軽快な足音が聞こえてくる。


 その声からワンテンポ遅れて、大人の男性の叱る声が聞こえてくる。


 その足音と中で動く二つの気配に苦笑しつつ、タイミングを計ってすっと横に避けるレベッカ。


 レベッカが横に避けたと同時に、子供が乱暴にドアを開けて飛び出してきて隣を通り過ぎる。


 そのまま勢い余って転ぶ子供の様子を、あらあらという態度で顔に手を当てながら見守るレベッカ。


 当然、助け起こしたりはしない。


「そんな風に飛び出してきたら、いろいろな意味で危ないですよ」


 いきなり飛び出してきた、恐らく男の子だと思われる子供に、そう注意をするレベッカ。


 服装だけでなく、骨格や筋肉の付き方的にも間違いなく男の子だとは思うのだが、残念ながら日本人とアメリカ人では人種が違うため、骨格での判断は微妙に精度が怪しい。


 特にこの年頃の日本人は、まだそれほど多く観察できていないので、男女を間違える可能性は十分にあるのだ。


「すみません、大丈夫ですか!?」


 子供に対して注意をしていると、中から聖心堂女学院の学長と同年代と思わしき神父の男性が、恐縮しキリといった風情で姿を現す。


 その様子を見て、いろんなことにピンとくるレベッカ。


「とりあえず、私は問題ありませんが……」


 そう言ってから、次の言葉を口にすべきか否か躊躇って口ごもる。


 そのレベッカの態度から何かを察したらしい神父が、レベッカが言いかけたであろう言葉を口にする。


「お気づきになられたかもしれませんが、この教会は現在、地上げの対象になっています」


「ああ、やっぱり。失礼なことをお聞きしますが、借金などは?」


「いつの間にか作らされていた、という感じですね」


「なるほど。恐らく裁判を起こせば確実に勝てる事例かとは思いますが……」


「妨害が激しくて、なかなかそうはいかないんですよ。それに、ここは民間の児童保護施設も兼ねているのですが、そちらの人手も足りなくて……」


「話を聞いた感じ、むしろそちらを重点的に攻撃しているような……」


「はい、おっしゃるとおりでして……」


 レベッカの確認に、うなだれながらそう答える神父。


 ここまで出てきた情報を頭の中でまとめ、レベッカが素直な感想を口にする。


「なんというか、昭和の創作物のような話ですね」


「……はい」


「官民ともに暴対関係が厳しくなった昨今の日本で、こんな古典的な手段で恐喝をやっている反社会的勢力が実在しているとは思いませんでした」


 レベッカの素直な、それだけに身も蓋もない感想に打ちのめされ、完全に再起不能になる神父。


 レベッカにその意図はないにしても、娘どころか下手をすれば孫ぐらいの年のシスターに古典的な手段に引っかかった挙句に対処できない無能と断じられたようなものなのだから、神父のダメージが大きいのも仕方がないだろう。


「おじさんをいじめるな!」


 それまで、大人が深刻な顔をして話し合っているのに圧されて黙っていた少年が、神父がへこまされたのを見てレベッカに食って掛かる。


「いじめるというか、私は単に状況を確認しただけなのですが……」


「うるさい!」


 困ったという表情を隠そうともせずに事実を言うレベッカに、聞く耳を持たない感じで噛みつく少年。


 そんな少年に対し、ようやく腹をくくった神父が真剣な顔で語りかける。


「翔君、申し訳ありませんがおじさんはこのお姉さんと大事な話がありますので、黙っていてくれませんか?」


「でも!」


「翔君がこれ以上勝手なことをすると、今度こそおじさん達はここを追い出されるかもしれませんよ」


 神父のその言葉に、憮然とした表情で黙り込む翔君と呼ばれた少年。


 これまで、自分が暴れたせいで状況が悪くなった自覚が多少なりともあるようだ。


「それにしても、なぜこんなところを奪おうとしているのでしょうか?」


「そうですよね。私もそれが意味が分からなくて……」


 翔が黙ったところで、これまでの流れで引っかかっていた点を疑問として口にするレベッカ。


 レベッカが口にした疑問に、神父も同意する。


 この教会と児童保護施設がある場所は、人通りが多い訳でもなければ駅からも中途半端に遠く、近くに観光地があるわけでもなければ公共交通機関もほとんどなく、何をするにしてもいまいちと言わざるを得ない立地条件なのだ。


 さらに、この教会を買収できないがゆえに大規模開発が不可能、という配置ではなく、周囲は住宅街と農地と寺や神社がまだらに入り混じっていて大規模な用地取得が難しく、むしろここを買収したところで小さなアパートを建てるか駐車場を作るぐらいしかできない。


 せいぜいが近場の住宅街の雰囲気が妙に悪く、誰も外に出ていないのになぜか柄が悪いという印象を受ける程度で、そういう面では反社会的勢力が居を構えるのに都合がいいのかもしれない。


 が、そういう地域だということは警察や公安の目が光っているということで、地上げに成功してもかえって動きづらくなりそうな気がしなくもない。


 とどめにこの教会の前の道にはV字型に大きな農道が合流し、その頂点がちょうど教会の入り口に来るというこれまた意味不明な構造になっていて、さらに土地の使い勝手を悪くしている。


 考えれば考えるほど、法を犯して暴力をふるってまで得るような土地とは思えないのだ。


「まあ、そもそもの話、エクソシストとして派遣された私には、地上げ云々の揉め事は関係ないというか、勝手に手出しできない問題なのですが」


「やはり、あなたがお願いしていた援軍ですか」


「はい。レベッカ・グレイスと申します」


「レベッカ・グレイスさん、ということは……。もしかして、あなたがあの有名な浄化の聖痕を持つ撲殺聖女レベッカですか!?」


「……私、そんな風に呼ばれているのですか?」


「ええ。私のようなB級以上のエクソシストの間では、大都市壊滅級の悪魔でも素手で一方的に滅する切り札的存在として有名です」


「……」


 撲殺聖女という異名と、恐らくその由来となったであろう実際の事件を挙げられ、何も言えずに沈黙してしまうレベッカ。


 異名そのものは不本意だが、日頃から悪魔だの悪霊だのを素手で撲殺しているのも、単独で大都市を壊滅させうる大悪魔を撲殺したのも事実だ。


 そのあたりの日頃の行いが理由である以上、レベッカが何を言ったところでその異名が別のものになることはまずなかろう。


「っと、自己紹介が遅れました。私はこの教会を任されています、神父でB級エクソシストの大川隆聖と申します」


 一通り勝手に盛り上がってから、大慌てで自己紹介をする大川神父。


 その名前を聞いたとき、妙な言霊を感じて思わず微妙なアルカイックスマイルを浮かべてしまうレベッカ。


 この教会を見た時に感じたヤバさの正体に、気が付いてしまったのだ。


「それで、私を呼んだ理由を教えていただけますか?」


「情けない話なのですが、ここ数日細かい霊障が一度に大量に発生しまして、私一人では手も道具も予算も足りなくて処理しきれなくなってしまいまして……」


「ふむ。何か兆候のようなものは?」


「分かりません」


「何か、変なものに手を出したとか、普段やらない手順で何かをやったとか、そういったことは?」


「一切何もやっていません」


 大川神父の言葉を聞き、いろいろ確信するレベッカ。


 一見しておかしな返事ではないが、先ほどの言霊や細かい挙動を見るに、間違いなく本人が大したことではないと判断して口にしていないことがある。


 システムエンジニアの用語集ではないが、こういうケースでの「普段とは違うことはやっていない」は、基本的に何か変なことをしていると考えて間違いない。


「……まあ、ここで話をしていても仕方ありませんので、問題になりそうなことを一つずつ潰して……」


 そこまで言いかけたところで、レベッカの耳がかなりのスピードで突っ込んでくる車のエンジン音を二つとらえる。


「はっ!」


 放置しておくとろくでもないことになる。そう判断して、車の音が聞こえてきた二つの方向に一発ずつ、全力で人間の目には見えない速度のストレートを放つ。


 レベッカが放ったストレートが、衝撃波となって猛スピードで突っ込んできた高級外車を迎撃する。


 正面から衝撃波を受け、大きく進路がそれた高級外車が、耕作放棄地となっている田んぼに転落する。


 とはいえ、いくらスピードが出ていようと田んぼに落ちた程度で死人が出る訳もない。


 すぐに、車の中からその筋の人間だと思われる連中が下りてくる。


「……警察と自衛隊以外は許可を受けた上で猟銃しか持てないっていう建前の日本でも、民間人が大量の拳銃を持つことができるものなんですね」


「し、シスター・レベッカ!? なんでそんなに余裕何ですか!?」


「まあ、所詮拳銃ですし?」


「何をどうすれば拳銃を所詮なんて言えるんですか!?」


 十人ほどの男に拳銃を向けられ、パニックを起こす大川神父。


 そんな大川に、にこにことアルカイックな笑顔を崩さず、両手を胸の前で祈るように組みながらレベッカが命令する。


「大川神父。流れ弾が怖いので、そちらの少年を連れて、中に入っていてください」


「えっ!? ですが!!」


「正直に言います。お二人は邪魔です」


 レベッカのその言葉と同時に、連続で銃声が鳴り響く。


 その音に思わず頭を抱えてしゃがみ込む大川神父と翔君。


 この直前、銃を突き付けられたときに大川神父がさりげなく翔君の陰に隠れるような位置に移動していたあたり、彼の本性がもろに出ている。


 レベッカや翔君を突き飛ばして囮にするような真似をしていないだけましだとはいえ、自分が一番安全な場所に移動するのは聖職者としてどうなのかというところであろう。


 少なくとも、レベッカが二人を庇える位置に移動している時点で、子供を盾にする行為については言い訳できない。


「……どういう事だ?」


 全弾撃ち終わったところで、推定暴力団員の一人が何処にも弾痕が残っていないことに気づく。


「何かおかしなことでもございましたか?」


 思わず疑問を口にしたその推定暴力団員に対し、祈りのポーズのままアルカイックスマイルを浮かべたレベッカがそう問いかける。


 そのあまりに不気味な状況に耐えきれず、リロードした銃を再びレベッカに向けて全弾撃ち込む推定暴力団員達。


 銃声が収まり硝煙のにおいがあたりに充満しても、レベッカの様子は一切変わらない。


「なぜ当たっていない!?」


「皆様の銃がちゃんとしたもので助かりました。さすがに銃口の向きと違う方向に飛んでいく銃弾までは、どうしようもありませんから」


 そう言いながら、組んでいた手を広げて見せるレベッカ。


 その手のひらには、祈りのポーズを維持するために握り潰され、ガチガチに押しかためられた鉛玉のなれの果てがあった。


 一体どれだけ圧縮されたのか、レベッカがそれを足元に落としたとき、手のひらに乗るサイズの金属塊とは思えないほど鈍く重い音が鳴り響く。


「ば、化け物!」


「私程度で化け物だなんて、本物の化け物の皆様に失礼ですよ」


 推定暴力団員の一人がうめくように漏らした言葉に、そんなピントのずれた否定をぶつけるレベッカ。


 その様子は、圧倒的強者の余裕すら感じさせる。


「それで、この場にとどまっていてよろしいのですか? さすがに今の映像が流れてしまっては、誤魔化しは効かなくなるかと思うのですが」


 そう言いながら、視線で何カ所かの家を指し示すレベッカ。


 レベッカの行動に推定暴力団員達が慌てて周囲を見渡すと、今までなかったはずのドローンやカメラがかなりの数自分たちを撮影していることに気づく。


 どうやら、一部始終をしっかり撮影されてしまっているようだ。


「ちっ、引き上げるぞ!」


「こっちもだ!」


 そう言って、ばらばらに逃げ出す推定暴力団員達。


 その時の様子からするに、どうやら彼らは違うグループらしい。


「さて、大川神父。彼らが妙なものに憑りつかれている件と、その縁がこの教会とあなたにやたらしっかりつながっている件について、しっかり説明してくださいな?」


 アルカイックスマイルのまま、おっとりとした様子でそんなことを言い出すレベッカ。


 口調こそおっとりと優し気で表情も笑顔ではあるが、目は一切笑っていない。


「はっ、はい! コストダウンのために品質をツーランク落とした聖水を使って、敷地内にあった封印を簡易手順で強化したらかえって弱くなりました!」


 一見優しげで、それだけにかえって怖いレベッカの様子にビビッて漏らしながら、自身の所業を洗いざらい白状する大川神父。


 もっとも、この期に及んでも、大川神父は自身のやったことが間違いではないと心の底から思っている。


 先ほどの子供を盾にした件と併せて考えると、彼が独善的なタイプの屑なのは間違いなさそうだ。


「さて、大川神父のやらかしも分かったことですし、とっととやることをやってケリをつけて帰りますか」


 そうつぶやいて、教会の敷地内に入って行くレベッカ。


 怨念がうっすらと広く拡散してしまっているため正確な探知はやりづらいが、流れをたどっていけば中心地ぐらいは分かるだろう。


 そう考えての探索は大正解だったようで、すぐに今回の件の元凶だと思われる古井戸を発見する。


「……中身がすでに抜けてしまっているとなると、殴って終わりとはいきませんね」


 古井戸の状態を確認し、そう結論を出すレベッカ。


 さっくり終わらせるために、勝手に庭からホースを引っ張ってきて井戸に聖水へと加工した水道水を流し込む。


 元凶となった中身は抜けていても弱い怨霊の巣にはなっていたようで、聖水を流し込まれたタイミングで断末魔の叫びが多数聞こえてくる。


 聖心堂女学院の時と違い、幽世につながるところまではいっていなかったようで、水を流し込んで十秒ほどで浄化が終わる。


 井戸を浄化したためか、いつの間にか教会を覆っていた怨念も全て消え去り、神の家にふさわしい清浄な空気に包まれている。


「では、井戸に封印されていたものを、神の御許へ送ってきます」


「アッ、ハイ」


 いい笑顔でそう宣言したレベッカにビビり、片言風味の返事をする大川神父。


 その横では翔君が、自分がヤベエ奴に喧嘩を売ろうとしていたことを心の底から反省している。


 恐らく、今後翔君は大川神父と違い、慎重かつ誠実に人生を送ることになるだろう。


「報告書は後日郵送という形で、私は今日は戻ってきませんので、それでよろしくお願いします」


 本日これからの予定をそう言いおいて、教会を出ていくレベッカ。


 この短い時間で、レベッカは大川神父達に畏怖と恐怖を徹底的に植え付けることに成功したのであった。








 そして一時間後。


「主よ、再びこの両手を血に染めることをお許しください」


「何やってる貴様ら! もっと撃たんか!」


「こっちもだ、生きて返すな!」


「はっ、はい! なっ!? うわあ!!」


「ぎゃあああああああああああ! 浄化されるーーーーーーーーーー!」


「なぜだあーーーーーーーーーーーー!?」


 町中のとある向かい合った二軒の雑居ビルで起こっていた暴力団の抗争に、何者かが乱入。


 わずか数分で二つのビルを制圧してしまったため目撃者もおらず、警察と機動隊が駆け付けたころには乱入した何者かはすでに姿をくらませていた。


 監視カメラも銃撃戦の流れ弾ですべて破壊されてしまっていたため、結局何が起こったのかは闇の中となるのであった。








 そして、その日の夜。


「大将、こやつはよく食うから、おすすめの順番で全部一品ずつ出してやってくれ。儂は、大根とちくわ、巾着と……、そうじゃな、とりあえずはこんにゃくをたのむ」


「あいよ!」


 仕事が終わって帰ってきたレベッカは、プリムに連れられておでん屋に来ていた。


「これがおでんですか」


「ぬ? おでんは初めてか?」


「はい。来た時にはコンビニなどではもう終わっていましたから」


「ふむ、それもそうか。たしかに、どちらかと言えば冬の料理じゃからのう」


 レベッカの反応に、言われてみればとうなずくプリム。


 冬場に平気で冷やし中華を食べるプリムにとって、暑い時期にアツアツのおでんを食べるのはなんらおかしな行動ではないのだが、普通の人間はどちらかと言えば、夏真っ盛りの今の時期に鍋やおでんは避けることが多い。


 もっとも、月に一回二回なら選択肢に上がる人も多いようで、このおでん屋はそれなりに客がいる。


「理事長、飲み物はどうするんだい?」


「そうじゃのう。こやつはこのなりでまだ未成年じゃからウーロン茶でいいとして……、ウーロン茶で構わんよな?」


「はい」


「儂は……、おっ、銘酒駒紫雨か。こいつを冷で頼む」


「あいよ!」


 プリムの注文を受け、大将が手早く飲み物を用意する。


 出された飲み物に口をつけ、最初の皿が出てきたところで、テレビでニュースが流れる。


「──県山嵜市で本日午後三時ごろ、指定暴力団川口組傘下の暴力団・川崎組と、同じく指定暴力団鬼道会傘下の暴力団・鬼面組の本部で乱闘騒ぎがあり……」


「ふむ? 山嵜市と言うと、今日のお主の出張先じゃったよな?」


「はい」


「タイミング的にも巻き込まれてそうじゃが、どうじゃった?」


「報告書をご覧ください」


「つまり、無関係ではない、ということか」


 プリムがそう結論を出したタイミングで、ニュースが続報を伝える。


「この乱闘騒ぎですが、警察と機動隊が駆け付けた時点で鎮静化しており、大量の刃物や銃器が山積みの状態で放置されていたほか、逮捕された容疑者が全員気絶していたとのことです。取り調べでは容疑者達は揃って『シスターが……』などと供述しており……」


「……撲殺したのか?」


「死人も怪我人も出してはいませんよ。ただ、今回の仕事、根本的な解決のためには双方の組長に憑りついた悪霊を神の御許に送る必要がありまして、状況の悪化を避けるために正面突破する羽目にはなりましたが」


「そうか……」


 なかなか物騒な回答を聞き、それ以上のコメントを避けるプリム。


 テレビでは、押収された銃器や刃物の映像が流れているが、どれもこれも強い力で殴られたかのような無残な姿に変形している。


 長ドスや日本刀などは真ん中ほどで刃がある方向にぐにゃりと曲がっており、乱闘騒ぎを起こした襲撃者が超常的な能力を持っているのではないかと疑わせる。


「それで、その悪霊は手ごわかったのか?」


「それが、頭をつかんで引きずり出しただけで、あっさり消滅しました。どうやら、封印されていた井戸をきっちり浄化した影響で相当弱っていたようでして」


「ふむ。その結果が、あのニュースか……」


 レベッカの報告に、思わず遠い目をしてしまうプリム。


 その横では、本来必要なかったはずの暴力を行使させられたレベッカが、ストレスを発散するかのように次から次へとおでんを食べている。


 プリムの見立てでは、もうそろそろ具材は一周している。


「……おっ? 今日はクジラもあるのか。儂にも一つ。後、スジと卵、揚げにもち巾着も頼む」


「あいよ!」


「おお、そうじゃレベッカ。ここは裏メニューにラーメンがあっての。おでんだしをベースにした醤油ラーメンでなかなか美味じゃ。もっとも、裏と言いながら皆頼むから、実質表メニューのようなものじゃが」


「それは興味深い。ラーメンは値段と量の兼ね合いで、まだあまり手を出せていないのですよね」


「そんなお主に朗報じゃ。ゴテ盛りマシマシで有名な〇郎が、つい先日潮見にもオープンしておる」


「そうですか、それはいいことを聞きました。近いうちに行ってみることにします」


 そう言いながら、〆のラーメンに向けておでん種二周目に取り掛かるレベッカであった。

実は最初はやくざの組襲撃シーンはカットの予定でした。

よく考えると3話も続けて変身シーンが入らないと気が付き、でもフルに入れるほどの内容もないとなり、結果として略式で進めることになりました。


次回以降はまた、ちゃんとフルで入ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はるなちゃん頑張るに通じる感じが良いですね。 [気になる点] 家庭菜園はやっているけれど未出荷のタイミングですか。 大阪からの来訪者、何かに憑かれていたりして。 はるなちゃん頑張るのバルド…
[一言] 更新、お疲れさまです。 日本は水が安いですよね。 山が多くて雨も多く、その上で水道局が頑張った結果ですね。 日本に慣れると、帰った時大変になりそうですねw 神父、なんかダメですね。 外面…
[一言] >なんというか、昭和の創作物のような話ですね レベッカちゃん、日本通!!
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