撲殺その43 レベッカと不思議な穴 第三層~第四層
タイトルからお分かりの通り、ネタ切れと長期休暇からの復帰ということでランダムダンジョンネタです
「穴が復活したようじゃ」
猛暑日が続く八月頭のある日。徳用アイスクリームのパックを大量に持ってきたプリムが、開口一発そう告げる。
「穴というのは、謎肉をぽろぽろ落としたあの穴ですか?」
「うむ、その穴じゃ。そういえば、謎肉はどうしたんじゃ?」
「大分がんばって消費しましたが、あと五パックほど冷蔵庫の中で眠っていますね。原理は不明ですが、パッケージが未開封であれば傷まないので助かります」
「お主でも、全部は消費しきれんかったか」
「量の問題というより、調理能力と調理法の限界ですね。流石にここの設備では、一度に調理できるのは物凄く無理をして五パック程度です。癖が強い肉だからか、魔界由来で聖痕との相性が悪いのか、自分で調理して食べる際もやっぱりそれぐらいの量が限界ですし」
「なるほどのう」
「今後のために行きつけになった洋食屋さんで調理してもらおうかと目論んでいますが、さすがに四月に拾った肉を持ち込むのは気が引けるので、残りは近いうちに処理してしまう予定ではあります」
「ふむ。ということは、ある意味ではちょうどいいということか」
「ですね」
プリムの言葉にうなずくレベッカ。
そろそろ持ち込み食材を調理してもらえそうなぐらいには洋食屋と懇意になっているので、今回の穴はちょうどいいきっかけとなる。
なお、例の謎肉を普通の人間が食べて問題ないのかについては、例の鑑定ルーペだけでなく美優の伝手を使っての各種検査とシルヴィアの預言のダメ押しにより、特に問題ないことははっきりしている。
ただし、なぜ問題ないのかは一切不明であるが。
「では、今から行ってきます」
「うむ、頼むぞ」
そう言って、穴に入って行くレベッカであった。
「今度は海ですか」
何故か一本道の長い階段だった第一層と第二層を抜け、再びの第三層。
目の前に広がっていたのは、海の中に不自然な道と広場がある光景であった。
「次の階へ移動する道はあれだとして、出てくる敵は……」
レベッカがそうつぶやいた瞬間、海の中から毛皮が燃えているグリズリーや鹿などが飛び出してくる。
「……やっぱり地形との関連は一切なさそうですね」
出てきたモンスターを見て、そんな感想を漏らすレベッカ。
地形によってダメージを受けそうな連中なので、ある意味では強い関連があると言えなくもないのだが、さすがにその点については偶然だろう。
というより、偶然でなければ毎回出現するモンスターが地形でダメージを受けることになる。
いくら何でもそれは無いはずだ。
「まあ、突破しましょう」
そうつぶやいて、次の階への最短ルートを進み始めるレベッカ。
海がモチーフだからか、道や広場には足の裏が濡れる程度に水が溜まっている。
場所によっては大きなくぼみとなっていて、水の深さが膝ぐらいまで溜まっていたりもする。
それが意味するとことはというと……
「はっ!」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
単にダウンを奪われるだけで、毛皮の火が消えて大ダメージを受けてしまうということである。
結果として、レベッカはいつもより軽い打撃で先へ進むことができていた。
「前回は聖痕を全開にするだけで終わり、今回は適当に吹っ飛ばせば自滅する。どうやら、この第三層というのは障害として成立しない宿命を背負っているようですね」
ボスの熊をチョッピングライトで地面に叩きつけて中央の水たまりに放り込んで、そう結論を出すレベッカ。
もともと、燃えている以外はごくごく普通の中型の熊でしかないので、地形の問題がなくてもレベッカがダメージを受ける要素はない。
なので、残念さが増幅される以外に、特に地形の影響はなかったと言えなくもない。
「では、さっさと次に行きましょう」
そう言いながらどうにか起き上がってきたボス熊の顔面をストレートで粉砕し、ドロップアイテムを回収するレベッカ。
すでに次の階へ移動するためのゲートは開いている。
こうして、二度目の第三層は全く盛り上がりがないままあっさりクリアされてしまうのであった。
「次は古城ですか」
第四層。あちらこちら風化して崩れた城を見て、節操がないなあなどと風情のない感想を持つレベッカ。
もっとも、風情がないのはレベッカだけでもないようで、いきなり何の前触れもなくフルプレートの何者かが集団で出現して襲い掛かってくる。
それを、真正面から迎撃するレベッカ。
中身は空洞のようで、なかなかいい音が響き渡る。
「ふむ、いわゆるリビングメイルとかそういうたぐいですか」
音を聞いてそう判断しつつ、少し悩ましい問題に行き着くレベッカ。
そう。リビングメイルはゴーレム系の場合とアンデッド系の場合に加え、マイナーなものでは貝の一種というパターンも存在する、とても幅の広いモンスターなのだ。
アンデッド系ならば聖水を作る程度に軽く聖痕を解放すればあっという間に勝負が終わるが、それ以外だとカロリーを無駄遣いするだけで何の影響もない。
さらに言えば、人型をして動いているだけで、モノとしては単なる中身が空洞の薄い鉄板の容器でしかないので、レベッカの打撃が非常によく通る。
聖水をかければあっという間に判別できるが、相手が多すぎて聖水を取り出す暇がない。
それを踏まえると、聖痕なんぞ解放せずそのまま殴り倒したほうが早いのではないか、という気がしなくもない。
「……面倒になってきたので、コストダウンのためにこのまま殴り倒しましょう」
効果があったところでジャブ二発が一発になるぐらいの違いだ。そう割り切って、今見えている連中はすべてそのまま素殴りで仕留めることにする。
相手は相手で数が多すぎるうえに、見えない壁のようなものが邪魔をしてレベッカの背後から襲いに来ることはできないようだ。
持っている武器の都合もあってか、結局同時に突っ込んでくるのはせいぜい三体程度。
カウンターパンチ一発で仕留められる相手もかなり多くいるので、仮にアンデッド系で聖属性が特効だった場合でも、聖痕をフルパワーで解放して解放時の神気放出で一掃する場合以外は、それほど大きな差はなさそうだ。
そんなことを考えているうちに、ざっと百はいたように見えるリビングメイルもあっという間に全滅する。
「これでおしまい、はいいのですが、食べ物のドロップは一切なしですか……」
ドロップアイテムが鉄塊ばかりだったのを見て、心底がっかりするレベッカ。
鉄塊に見えているものはもしかしたらとても価値がある金属なのかもしれないが、レベッカからしたらこのダンジョンのドロップアイテムは飲食物以外ほぼ無価値である。
「……あきらめて城の中に入りましょう……」
もしかしたらパンの一つぐらいは埋もれているかも、などと思わなくもないが、労力に釣り合わないことおびただしいのが一目瞭然なので、サクッとあきらめるレベッカ。
三層で拾ったパンをかじり、次のために聖水を取り出して城の中に入っていく。
城の中には、明らかにゴースト系と思わしきモンスターがうようよいた。
それを見て、胸の前で祈るように手を組むレベッカ。
レベッカが祈りのポーズをとった瞬間、ダンジョンのそれも城の中だというのに、完全に空間が夜の平原に代わって空に見事な満月が浮かび上がる。
「主よ、再びこの両手を血に染めることをお許しください」
その祈りの言葉と同時に、辺りに宝具を解放して叩き込むときのBGMが鳴り響く。
BGMに合わせて修道服でも隠しきれていないグラマーで肉感的なボディラインを強調するかの如くレベッカの全身が光り、その豊かな胸の谷間から聖痕が浮かび上がる。
浮かび上がった聖痕がレベッカの左右の拳に宿り、足元から吹き上がった風が修道服の裾をはためかせベールを吹き飛ばす。
ベールが吹き飛んだ拍子に三つ編みがほどけたらしく、素晴らしい金髪が風にたなびく。
光がレベッカの修道服をモーフィング変形させ、露出度が高いエロドレスアーマーへと変える。
その場を濃密な神気が包み込み、レベッカの聖痕がフルパワーで解放される。
放出された神気で雑魚をすべて殲滅したあたりで、レベッカの変身が完了する。
「では、互いの罪を清算しましょう」
いつの間にかごっついガントレットに包まれた両拳をピーカブースタイルに構え、いつものようにアルカイックスマイルでそう宣言するレベッカ。
その前には、すでに消滅しかけになっているデュラハンが、剣を杖代わりにしてかろうじて立っていた。
デュラハンといえば首なしの馬に騎乗しているものと相場が決まっているが、残念ながら初手の神気放出で消滅したらしい。
そんな哀れなデュラハンに対し、何一つ情けをかけるつもりはないと突っ込んでいくレベッカ。
とはいえ、まともに戦えばそれなりに歯ごたえがあったであろう相手に、ジャブ一発で終わらせるほどレベッカも鬼ではない。
ちゃんと、とどめのコークスクリューを叩き込む。
派手なカットインとともにフィニッシュブローのコークスクリューがデュラハンの胴体に炸裂し、大きな風穴を開ける。
いつものように祈りのポーズの天使が相手の体を縦方向に貫通しその穴を広げデュラハンの上半身を消し飛ばし、羽根を散らしながら天高く舞い上がる。
「主よ、この哀れな子羊に救いの手を」
それに合わせて相手に背を向け、お約束のまったく心のこもっていない雑な祈りの言葉とともに、胸の前で十字を切るレベッカ。
レベッカの祈りに合わせてまき散らされた羽根を覆いつくすように浄化の光が広がり、柱となって天地を貫く。
光の柱が消えると同時に周囲の光景がダンジョンの古城に戻り、レベッカの服が普段の修道服に変わって、どこに飛んでいたのか最初に吹き飛ばされたベールがレベッカの頭にふわりとかぶさる。
ベールがかぶさったところで強引にBGMが切り上げられ、今回の戦闘が終了する。
「……おや?」
ダンジョンという特異な空間だからか、それとも古城というフィールドの仕様がそうなのか、ダンジョンに戻ったというのに、あたりは多少瓦礫が残っているだけの更地に化けていた。
城の名残は、もはや石の床しか残っていない。
「ふむ……」
そのあまりにも物悲しい景色に少し考えこみ、あっさり気にしないことにするレベッカ。
ドロップアイテムも巨大な両手剣と手綱ぐらいしかないので、レベッカ的にはスルー対象だ。
「さて、次の階層に移動しましょうか」
期待していた珍しい食材が一切出なかったことに肩を落としながら、次の層へと続く階段を上がっていくレベッカ。
だが、今回はこれで終わりらしく、あっさりプリムの家の庭に戻ってしまう。
「えらく早かったのう」
「三層は足場に水が溜まっているフロアに水が弱点のモンスター、四層はアンデッドが巣食う古城でしたので、ものすごくあっさり終わりました」
「なるほどのう。やたらがっかりしておるのは、食料品がほとんど出なかったからか?」
「はい。一応前と同じ謎肉を十パックほど確保してはいますが、食品関係はそれとパンが三つほどで終わりでしたので……」
「そうか。じゃが、ものは考えようじゃぞ」
「と、いうと?」
「おぬしが持ち込み調理を頼みに行く店の主がどれほど凄腕でも、知らん肉や野菜を何種類も一度に持ち込まれては研究が追い付かんじゃろう。こういうのは、一種類ずつ持ち込んでいろんな食べ方を味わい尽くしてから次に行くほうが、いいものが食えると相場が決まっておる」
「そういうものですか?」
「うむ」
探索が空振り同然で気を落としているレベッカに対し、そんな食通っぽいことを言って励ますプリム。
なお、例の謎のおばばからもらった鑑定ルーペによると、肉はなんだかんだで十種類ぐらい、野菜と果物に至っては時間経過でどんどん増えることが分かっている。
「そうですね。では、新しい食材は次の機会に期待することにします」
「まあ、この穴が次に活性化するのがいつかは、現時点では誰にも分らんがな」
「そこはもう、諦めます」
プリムの励ましを受けて、別の種類の謎肉は次の活性化の時に期待することにするレベッカ。
「では、別種の謎肉がドロップせんかった補填と言ってはなんじゃが、隣町に新たにできたビュッフェに行くとしようかの」
「分りました」
プリムの誘いに、心底嬉しそうに応じるレベッカ。
この日は結局、移動中になぜかプリムの頭に握りこぶし大の石が直撃して首の骨が折れた以外、これと言って特筆すべきことは起こらずに終わるのであった。
単なるダイス判定だと面白くないということで、フリーゲームや同人ソフトから手持ちのランダムダンジョン物やローグライクゲームを適当に四本選んで
3層のマップ>3層の出現モンスター>4層のマップ>4層の出現モンスター
の順番で判定したら、ご覧のありさまでした
3層の奇跡的な組み合わせの悪さに爆笑すべきか、4層の奇跡的なまでにタイプ一致すぎて面白みのない組み合わせを嘆くべきか、微妙なところでございます。




